前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【フランスからの贈り物】
国や王室が《大公子とチョン伯爵》の婚儀の準備で最終局面に差し掛かった頃、ジョングクが王族になる為の教育が宮廷の中で始まった。
それが行われる場所は、宮殿の中に設けられたジョングク専用の部屋だった。
テヒョンとの婚姻後、公務で宮殿に参内する事が増えるので、専用の部屋が与えられるのだ。しかし、まだ準備の真っ最中で、本棚の中の書籍はまばらだったり、壁のタペストリーは掛け替えの最中だったり、多少乱雑な状態だった。
「伯爵、陛下が仰って下さった通り、図書室ではなくて宜しいのですか?」
「ええ、整然とかしこまった場所では頭に入らないと思うので、私にはこの位が丁度いいのです。逆に博士が落ち着かないですよね?申し訳ありません」
「いいえ・・・実は私も同じでございます」
「え?そうなのですか?」
「実を申しますと、私の研究室は資料やら何やらで、散らかり放題なのです。しかしその方が色々と捗ります」
ジョングクと博士はお互いを見ると笑った。
「テヒョン様から、宮廷の学者の方々は厳しい方ばかりと言われておりましたので、内心緊張しておりました」
「ははは、、、殿下にからかわれましたな。私は、寄宿生として外に学ばれに行かれる前の、まだあどけない少年時代の大公子殿下をご教示させて頂いておりました。
その頃は随分とお叱り申し上げたものでございます」
博士は思い出し笑いをしながら話した。
「え!?本当ですか?」
ジョングクは、テヒョンが叱られるような事をしている想像がつかなかった。
「ご存知でいらっしゃるでしょうが、殿下は何においても、飲み込みの早い聡明な方でいらっしゃいますが、イタズラや教室からの抜け出しなどよくなさいました」
「うわぁ、、、初耳ですよ」
ジョングクは思わず身を乗り出した。
「ですがあの方の場合は、知的好奇心からのイタズラでございました。何か気になる事がごさまいますと、授業を終えてからではなく、隙を見つけて抜け出して、お調べに走るお方でしたね。または、よく私や他の学者達を《被験者》として実験に使われました」
想像していなかった話に、ジョングクは目を丸くしてワクワクしながら聞いていた。
「最初はこちらもただのイタズラだと思ってお叱りしたのですが、後から理由が分かって驚きました。」
「それで?お叱りを受けたテヒョン様は、どんなご様子だったのですか?」
「はじめから叱られると分かっていらしたのでしょう。逃げも隠れもなさらず、真っ直ぐに姿勢を正し、目の前に立っておられました。そして一言『申し訳ありませんでした』としっかりお謝りになるのです」
「そのように律した態度は、今のテヒョン様と変わりませんね」
「早く大人になろうとなさっておいででしたね、、、」
「博士も気付かれていたのですか?」
「何人も王室のお子様方を見て参りましたからね。皆様早い時期からそれなりに、王族としての礼儀や行儀の作法を教え込まれます。しかし、それであっても甘えたり我儘を仰っておりましたよ。しかし、大公子殿下だけは、それもなさらず何かずっと我慢をなさっているようにお見受けいたしました」
ジョングクはふとスミスから聞いていた、幼少期のテヒョンの話を思い出した。
「ですが、学ばれている時の殿下は真面目に取り組まれて、どなた様よりも優秀でございました。それこそ瞳をキラキラとさせて、いつもにこやかでいらっしゃったので、とてもお可愛らしかったですね」
ジョングクが知らない時期のテヒョンのエピソードをこうして聞くことは、とても楽しくて嬉しかった。
可愛らしい少年の日々の姿が、まるで今目の前でパタパタと駆けていくようにジョングクには見えるのだった。
「博士、素敵なお話をありがとうございます。まだまだ私の知らないテヒョン様がいらして、益々愛おしくなりました」
「おお、それはそれは・・・」
博士はあまりにも率直に気持ちを口にするジョングクに驚き『このお方も殿下によく似ていらっしゃる』と微笑ましく感じた。
「おっと、時間がだいぶ過ぎてしまいました。貴方様の授業を進めなくては」
「宜しくお願い致します」
_____ジョングクがお婿教育を受けているのと同じ頃の国王の私室_____
テヒョンが国王から呼ばれて宮殿に来ていた。
「ジョングクには会わないで来れたのか?」
「はい。今日は公務があると言っておきましたから、伯爵家から直接宮殿に来ているはずです」
「その王室の婿になる教育を受けるあいつの為に、図書室を空けてやったのだ。それなのにまだ準備中の部屋でやるらしいぞ」
「はははは、聞きましたよ。その方が落ち着くらしいです」
「ま、本人がそれでいいと言うのだからよいのだがな」
「陛下、ジョングクの勉強が終わる前に早く致しましょう!」
「おお、そうだな。では参るぞ」
国王はそう言うと、テヒョンを伴って部屋を出た。
宮殿の長い廊下を進むと、普段あまり使わない階段を降りた。
下まで降りると職員が待っていたようで、国王とテヒョンの姿を見ると深々と頭を下げた。
「どうだ、大人しくしているか?」
「はい。やはり宮廷で飼育をされていた為でしょう。お行儀よく待っております」
「ああ〜〜早く会いたい」
「どんな犬なのか、私も楽しみだ」
職員はすぐ目の前の扉を開けた。先に職員が入って先導する。国王とテヒョンは後ろを付いて中まで進む。
二人が案内されている場所は、宮廷で飼われている犬や猫達の飼育場だった。
「今日は他の犬達は別の場所に居てもらっています」
ある程度進んでいくと、気配に気付いたのかクーンという鳴き声が聞こえてきた。
「あ、陛下鳴き声が聞こえてきました」
職員が《その犬》がいる部屋の前に立ち止まると、ゆっくりと扉を開けた。
その犬は座っていたが、扉が開くとパッと立ち上がった。鼻をピスピス鳴らして香りを確かめる。すかさず職員が手を前にして『ステイ』と言うと、そのまま大人しくしていた。
「どうぞ中へお入り下さい」
「テヒョン、お前が先に行ってやれ」
国王に促されて、テヒョンは部屋の中に入る。
「ルネ!!」
部屋にはあのルネがいた。
ルネはワンワンと吠えながら、直ぐにテヒョンの元に飛び込んできた。
「よく来たな、よしよし久しぶり!・・・大きくなったなぁ」
かなり成長したルネの顔をテヒョンは両手でくしゃくしゃと撫でてやった。
「なかなか立派な犬ではないか」
国王も部屋の中に入ってきて、そっとルネの頭を撫でた。
「ようこそわが国へ」
ルネは挨拶代りに国王の手を舐めた。
「さすがフランス宮廷の愛犬だな。よく躾られておる」
「入国直後の検査でも、船酔いをした形跡はなく、毛艶も良いですし口腔内も清潔でございました」
「そうか、ではキム公爵家の宮殿へ移しても問題はないな?」
「はい。こちらで数日静かに過ごさせる事が出来ましたし、だいぶ落ち着いたのではないかと思います」
「だそうだ。テヒョン、いつ頃迎えるか決められるか?」
「今日連れて帰ります。いいですよね?」
「はい。殿下が宜しければ」
「急に大丈夫か?」
「家の者達にはいつでも迎えられるよう準備を頼んでありますし、今日連れて帰るかもしれないとも言ってあります」
「そうか、ルネにとっても新しい家に早く迎えられる方がいいかもしれぬな」
「ルネ、うちの子になるんだよ。楽しく暮らそうな。お前の大好きなジョングクにも会えるからな。楽しみに待っておいで」
テヒョンは優しく身体を撫でてやりながら言い聞かせた。
ルネはフランス国王からの贈り物、という形で英国にやってきた。首輪にはフルール・ド・リスという、フランス王家の百合の紋章が施された彫金が飾られていた。
「陛下、新しいカルティエ製の首輪ですよ」
「流石だな。ルネはフランスの王族として我が国に来たのだな」
二人でルネの頭を撫でた。
「それではこの仔の支度を致します」
「ではテヒョン戻ろうか」
「はい」
「ルネ、また後でな」
国王とテヒョンはルネの部屋を出て、国王の私室に戻った。
「ジョングクの勉強の時間がもうじき終わりますね」
「お前が今日ここに来ているのは侍従長と数人の者達しか知らない。ジョングクに会っても言うなと申し伝えておる」
「ありがとうございます。なんだか楽しくなってきました」
「子どもの頃以来だな、こんなワクワクは」
「陛下もでございますか?」
二人でイタズラを楽しむように笑った。
「ジョングクが宮殿を出るまで居たらいい。もうじき昼食だ」
その時ノックの音がした。国王が念の為隣の部屋へ隠れるようテヒョンを促した。
テヒョンが静かに、隣に移ったのを確認する『入れ』と返事をする。侍従が姿を見せた。
「チョン伯爵がご挨拶に見えております」
「分かった、通せ」
「失礼致します」
ジョングクが部屋に入って来た。隣の部屋で身を潜めているテヒョンは、絶妙なタイミングに思わず胸に手を当てた。
「授業は終わりか?」
「はい。初日でございましたのでご挨拶に伺いました」
「そうか。まぁ気楽に受ける事だ。大体の事は実地でなんとかなるもんだ」
いい加減な事を仰る、とテヒョンは笑いを堪えた。
「これから帰るのか?」
「はい」
「テヒョンの所へは寄るのか?」
「いいえ、テヒョン様はご公務があるそうですので、今日はこのまま我が家へ戻ります」
「そうか。また明日も励めよ」
「陛下、この度はせっかく図書室をご用意下さいましたのに、申し訳ありませんでした」
「よいよい、気にするな。お前が落ち着ける場所で受けるのが賢明だぞ」
「はい、ありがとうございます。では私はこれで」
ジョングクは一礼をすると部屋を出て行った。侍従がしばらく見送り、姿が見えなくなると国王に合図を送った。
「もうよいぞ」
「気付かれなかったでしょうか」
「大丈夫だろう。侍従はかなり前に知らせてくれたはずだ」
「初日でしたから、挨拶に来るだろうということをすっかり忘れておりました」
「隠し事は大変だな。特に気心知れた相手に対してはな」
良い事以外の隠し事など、絶対にしたくないし無理だとテヒョンは思った。
国王と昼食を採ったテヒョンは、食後の紅茶を飲んでルネの準備を待っていた。
そして準備が整った知らせが来たので帰る支度をした。
「陛下、色々とありがとうございました」
「うん、気を付けて帰れよ。
おお!待て待て、忘れるところだった。ルネのフランスの飼育担当者からの手紙を預かっておった」
「ありがとうございます」
テヒョンは手紙を受け取った。何やら手紙以外の物も入っていそうだった。
礼をして廊下を出るとデイビスが待っていた。
「殿下、既にルネ殿は馬車におります。馬車はいつもの玄関口での待機ではありませんので、ご案内致します」
国王の居住エリアを出ると、飼育場に一番近い玄関口に着いた。馬車はそこに停車していて、デイビスが慎重に扉を開いた。テヒョンはそっと覗き込むようにして、馬車の中を伺った。
「ルネ、待たせたね」
テヒョンの顔を見ると、ルネはクンクンと鳴いた。行儀よく足元に伏せて待っていたようだ。
テヒョンが乗り込み、デイビスが続いて乗り込むと、御者が扉を閉めた。
「いいよ、隣においで」
テヒョンが呼ぶと素直に隣に座ってきた。
「大人しい良い仔でございますね。まだ子どもだと伺っておりましたが、割と大きいので驚きました」
「そうだろう、久しぶりに会った私も驚いたよ」
ルネはテヒョンの腿の上に前脚を乗せて、そこに顎を乗せた。
「今度はどこに連れて行かれるのか、不安に思っているだろうな。大丈夫だぞ、これから行く所はお前のお家だからな」
テヒョンは優しく頭を撫でてやった。
「この仔はチョン伯爵に特に懐いていたと伺いましたが、伯爵が公爵家にいらしてご対面されて、どんな反応をなさるのか楽しみでございますね」
デイビスも何やら楽しみにしているらしい。
「大体想像がつくがな」
テヒョンはその様子を思い浮かべて笑った。
「殿下、明るい話題が続いて私も嬉しく思います」
「うん。私もそう思う」
話をしながら腿にぐっと重さを感じてルネを見ると、いつの間にか眠りに入っているようだった。テヒョンとデイビスはそのあどけない寝姿を優しく見守った。
馬車はキム公爵家の宮殿に到着した。
玄関口ではスミスとミセス・ブラウンやルネの新しい飼育員となるスタッフが待っていた。
スミスが扉を開け、先にデイビスが降りる。
「おお、、、これは立派なフランス王子ではございませんか」
スミスが車内を覗いてそう言うと、ルネがいきなり飛び出した。『わあっ!!』思いっきりスミスの身体に飛び込んで来たので、驚きの声を上げ、そのまま後ろに倒れそうになる。そこをデイビスと飼育員が受け止めた。
テヒョンが馬車から降りてくると、スミスが体勢を崩して尻もちをついていた。そこへルネが顔中を舐め始めた。
「スミス大丈夫か?」
「だ、、、大丈夫ではございますが、、、これ、よしなさい」
「ははは、驚かせたことを謝っているのではないか?」
テヒョンがルネの背中をポンポンと叩くと、大人しくしなった。
「流石によく躾られておるおりますね」
飼育員が感心した。
「国や家が変わっても、何も心配はないと思う。先に私の部屋に連れて行くから飼育室へは後で頼む」
テヒョンはルネからリードを外すと、飼育員へ渡した。
「はい、かしこまりました」
スミスがようやく立ち上がる。
「大丈夫でございますか、スミス様」
ミセス・ブラウンが声を掛けた。
「ああ、驚いたが大丈夫だ」
「おや?」
「なんだ?」
「この仔は、どことなく風貌がスミス様と似ておりますね」
ミセス・ブラウンがスミスとルネを交互に見ながら言った。
「なんですと?」
「言われてみれば、、、」
テヒョンが加担する。
「テヒョン様!」
どっと笑いが起きた。
「さあもう中へ入れてくれ。ルネも疲れてるだろう」
テヒョンがそこで打ち切って、中へ入って行く。ルネはそのそばにぴったり付いて行った。
「我が家の雰囲気はどうだ?」
宮殿内に入ってから、ルネは上を向いて一生懸命鼻を動かして匂いを嗅いでいた。
テヒョンの横を歩きつつ、つぶらな視線を向けてくる。
「ん?気に入ってくれたのか」
そう言って大きく垂れた耳をくすぐった。
「お、そこにいるのはルネだな」
階段を上がる途中で、大公の声がした。階段の上でテヒョン達を待っていた。
「父上、新しい家族が参りました」
二人が階段を上がりきると、大公はルネの前でしゃがんだ。
「よく来たな。私はテヒョンの父だぞ。テヒョンがこの仔の親ということは、私は爺ということか?」
「まぁ、、、そうなりますかね」
「いいだろう、仲良くしてくれよ」
大公が両手でワシャワシャと首元を撫でる。ルネは気持ちよさそうに、されるがままになった。
「大人しいな。流石フランスの宮廷犬だったことはある」
「父上も気に入られたようですね」
「ははは、気に入ってくれたか!我が家もだいぶ賑やかになるな」
大公も犬好きのようで、ルネを見つめる目の目尻が下がったままになった。
「たまに私にも散歩に付き合わせてくれ」
「勿論でございます」
ルネはすっかりキム公爵家の人気者となったようだ。
【再会】
「ルネいくぞー。ほら、とってこい!」
テヒョンがボールを投げると、ルネはパッと走ってボールを追いかけて、ちゃんと咥えてテヒョンの元に戻ってきた。
「よしよし、いい子だ」
ルネは沢山撫でて貰って嬉しそうだ。
キム公爵家に来てからのルネは、朝になると、デイビスと一緒にテヒョンの起床の手伝いをするのが日課になっていた。
この日もデイビスと一緒に、テヒョンを起こしに来て、着替えた後朝食までの間、こうして遊んでもらっていた。
「テヒョン様、そろそろジョングク様がいらっしゃるお時間でございますよ」
スミスが知らせにやって来た。スミスを見たルネが走って飛びついていく。
「おはよう、ルネ。いつも元気だな」
ちぎれてしまいそうなほど尻尾を振って、スミスにじゃれついている。
「元々人懐こいけど、スミスには更に懐いているな」
「嬉しいことでございます。犬は大好きですから。では、ルネを別室へ控えさせますので」
「うん、頼む。後はジョングクが来てからだな」
「はい、ではこれで。さぁルネ行こうか」
ルネは大人しく言う事を聞いて、スミスと部屋を出て行った。
「ジョングク、どんな顔をするだろう」
テヒョンは驚いた顔のジョングクを想像して、今か今かと彼の到着を待った。
「おはようございます、ジョングク様」
「おはようございます」
馬車から降りたジョングクは、スミスと宮殿の中へ入って行った。
「宮廷でのご教育が始まりましてからは、お久しぶりでございますな」
「本当にそうですね。軍での職務もありますから、何かと忙しくしていて、テヒョン様にもなかなか会えませんでした」
「では今日はお久しぶりに、お二人でゆっくり出来るのですね」
「はい!」
ジョングクが満面の笑みで応えたので、スミスは笑いそうになった。本当になんて素直な方なのだろうと、益々ジョングクが好きになった。
「テヒョン様、ジョングク様がお見えになりました」
「うん、どうぞ」
部屋の中から返事がして、ジョングクは中へ入った。
「おはようございます、テヒョン様」
「おはよう、久しぶりだな」
二人は自然にふわりと抱き合う。
「では、朝食前に紅茶をお持ち致します」
スミスが目でテヒョンに合図をすると、ジョングクの肩越しにニヤリと笑って応えた。
スミスが扉を閉めると、口づけをした。
「お会いしたかったです」
「うん・・・」
もう一度唇を寄せた。
「ところで、授業の方はどうだ?」
「はい、順調でございます。博士達とも仲良くなりましたし」
「へえ___そうなのか」
二人は並んでソファに座った。(その時ジョングクは暖炉のそばに何かを見付けた。)
「そうそう、博士達からテヒョン様のお子様の頃の思い出話をよく聞きましたよ」
「え?どんな思い出話だ?」
ジョングクは笑い出した。
「何だよ〜何の話だったのか言えよ」
「相当やんちゃをされていたようですね」
「そんな話をしたのか?違うぞ!ちゃんと意味がある事をしていたのだぞ」
「ふふふ・・・分かっておりますよ。博士達も好奇心や探究心が旺盛なテヒョン様を研究者にしたい位だと仰っておりました」
「随分と叱られたがな、、、だけど叱られると分かっていても、やりたかったのだ」
「今のあなた様と変わりありませんよ。その行動力があってこそ、私は助けられたのですから」
ここでまた二人の唇が近付いた時、扉をノックする音がした。テヒョンがパッとジョングクから離れると、
「いいぞ!」
と声を上げた。
その瞬間、扉が開くとルネが走って部屋の中に入って来た。そのままジョングクに突進して飛びつく。
「えっ!?」
ワンワン、キュンキュンと飛び跳ねながら鳴くルネを押さえながら、びっくりしてわけが分からなくなるジョングクだった。
「え?・・・まさか、ルネ?・・・ちょっと待て、待て待て」
しゃがんで真正面からルネの顔を見る。ルネは嬉しくて嬉しくて、ジョングクの顔を舐め回した。
「・・・本当にルネなのか?何で、何でここにお前がいるのだ____ 」
ジョングクはとうとう泣き出した。
「ルネはキム公爵家の一員だよ」
「ええ!?」
全く意味が分からないという感じだ。
「ルネ、座れ」
テヒョンが腰に触れて命ずると、素直に座り大人しくなった。
「テヒョン様、、、これはどういう事なのでしょうか」
「うん、実はな、フランス国王がルネを贈って下さったのだ」
「贈って下さった?本当ですか?」
「我々が帰国してから、ルネはあまり食事を受け付けず、元気がなくなってしまっていたらしい」
「・・・・そうだったのですか」
ジョングクの目がまた涙で潤む。
「それで、私達がよければ譲りたいと、フランス政府を通じて書簡が届いたのだ」
「あの、テヒョン様。なぜ私には教えて下さらなかったのですか?」
「びっくりさせたかったのだ」
ジョングクはそれを聞いて、力が抜けたように笑った。
「君はあの頃、軍の審議会を控えていただろう?血清のこともあったから、何もかも済んで落ち着いたらって思ったのだ」
「ああ・・・本当に驚きました。だからあそこにボールが転がっていたのですね」
ジョングクは暖炉の横を指差した。
「あ・・・」
テヒョンはスミスを見た。
「見落としておりましたな」
スミスが笑って言うと、テヒョンも笑った。
「どれ、、、ちゃんと顔を見せておくれ」
ジョングクは両手でルネの顔を包むと、優しい笑顔で見つめた。そして抱きしめた。
「よく来たね。会いたかったよ〜ルネ」
ルネもそんなジョングクの肩にもたれて甘えた。
「ようございましたな、テヒョン様」
「うん。こんなに喜んでもらえて私も嬉しいよ」
ジョングクは暖炉まで行くと、転がっていたボールを拾いルネに見せると、
「取っておいで」
と言って投げた。ルネは嬉しそうに走り出して拾いに行き、ボールを咥えてジョングクの元に戻って来た。
「よしよし、いい子だ」
「ジョングク、まだもう一つやらなければならないことがあるぞ」
「何でございますか?」
「バックスとのご対面だ」
「あ〜〜そうでございますね」
「君にバックスの気配があるのだろうな。ルネがさっきから君の事を嗅ぎ回っている」
テヒョンが言う通り、二人が話してる最中も一生懸命ジョングクの周りを嗅ぎ回っていた。
「今日、君が伯爵家に帰った時には、今度はパックスも君を嗅ぎ回るはずだ」
テヒョンは面白がって笑った。それを見て『あー・・・』と言って天井を仰いだ。
「まぁ、前もってパックスもルネも、君を介してお互いの匂いを知っておけるのは、いいことかもしれないぞ。大丈夫だ、上手くいくよ。な?ルネ」
ルネはテヒョンの手を舐めて応えた。
「さあお二人とも、紅茶が入りましたよ」
スミスがテーブルに茶器を並べ置いた。
「そうそう、ルネが初めて我が家に来た日、真っ先にスミスに飛びついたんだよ」
「そうだったのですか」
「はい、驚いてひっくり返る所でございました」
「デイビスと飼育員が受け止めていなければ、本当にそのままひっくり返っていたな」
「でも犬らしい、やんちゃな面もありながら、しっかり人慣れしている健気な所は、可愛くて仕方ありませんね」
「スミス殿もそう思いますか?」
「はい、私は犬好きでございますから」
「誰からも愛されるルネは幸せ者だな」
テヒョンは飲んでいたティーカップを置くと、ルネがステイしている床に一緒に座り込むと抱きしめてやった。

