群青と真紅 59【領地巡りの旅行③】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

もう2月かーーー😱❗❗❗
早い早すぎる💦💦💦

しかし、テテとグクが除隊する日に近づいていっているのも確かなんだよね👍✨
来年の6月まで・・・・・

それではお待たせ致しました
【群青と真紅 】59章でございます

前回の物語


物語の続きが始まります✨✨✨


【ニール・アンダーソン

「言いたいことがあるならいくらでも聞こう。だがな初対面での礼節を欠く態度は、どんな間柄であっても恥ずべきことだ。」
テヒョンが静かに、しかし語気は鋭く言って聞かせた。
「それはご無礼を致しました。」
ニールはそれでも憮然とした態度だった。そして続けて言った。
「しかしながら、あなた方貴族や上流階級層の庶民に対する態度にはあからさまに見下したものがありますがね。」
「ニール、もういい加減にするんだ。いつものお前らしくないぞ。これ以上殿下を愚弄すれば、私はお前を庇いきれなくなる。」
ゲインズがニールを咎めた。ニールは、
「あなたを困らせるつもりではない。」
と引き下がりその場から離れていった。

「殿下、到着早々大変なご無礼をお許し下さい。」
ゲインズが深々と頭を下げた。部下の失態に責任者として顔向け出来ないというような姿をテヒョンは同情の思いで見ていた。
テヒョン達は応接間に通され紅茶で一息ついていたのだが、ゲインズがずっとニールの無礼を気にしていた。
「気にするな・・・・とは言っても無理だろうな。」
ゲインズは申し訳ないという表情のまま少しだけ笑った。
「普段のニールはあの様に心根が悪いわけではありません。仕事熱心で寡黙な男ですし、仲間を大事にする優しい所もあります。」
「統括責任者のあなたがそこまで庇うのだから、悪い奴ではないのだと思う。何か貴族に根深い恨みでもあるのかもしれないがな。」
テヒョンは静かに思い巡らせた。
「しかし、いきなりあの悪態では、、、場所が宮廷であれば、即刻侮辱罪で捕まっているはずですよ。」
ジョングクはまだ怒りが収まらないようだ。
「ジョングク、武官は何時も冷静沈着でいるべきだろう?」
「はい、申し訳ありません。しかしながら今の私は休暇中ですので。」
拗ねたような言い方に、テヒョンが笑って肩を叩いた。

「ですがテヒョン様もお気を付け下さい。次もあちらは何かしら、けしかけて来るかもしれません。」
今まで黙って聞いていたスミスが注意した。
「私はいつも冷静じゃないか。」
しかしスミスは憂えていた。
テヒョンの逆鱗に触れるような事になれば、止められない程の強い意志が働くことがあるからだ。流石にめったにあることではないが、長年仕えている者としてテヒョンの性格、性質は全て分かって心得ていた。
そこへゲインズ夫人が顔を出した。
「皆様、どうぞお部屋にいらして下さいませ。」
テヒョン達は立ち上がると廊下で待機をしていたメイド達に案内され部屋へ向かった。

陽がすっかり落ちて邸宅の中も冷たい空気が流れる。
「ここも随分冷え込むな。」
「はい。しかし皆様のお部屋の方は暖炉の火力を強めておりますので、調整が必要になりましたらお申し付け下さいませ。」
「うん、ありがとう。だけど私も暖炉の火力調整は自分で出来るぞ。そうだよな?ジョングク。」
テヒョンがいたずらっぽく振り返った。
「はい。そうでございますね。」
ジョングクは子どものようなテヒョンに笑いがこみ上げる。
「まぁ!本当に殿下ご自身でおやりになるのですか?」
メイドは驚いてテヒョンを見た。
信じられないという顔に、にっこり笑って頷いてみせた。
「ですが公爵であり、また大公子というご身分のお方にさせるなど許されません。」
「やれやれ、自由がないというのは辛いものだな。」
テヒョンは少々芝居がかって言った。
「そうは仰られますが、殿下はお国の宝でいらっしゃいますから。」
「宝・・・ねぇ。」
テヒョンは苦笑いをしてため息を付いてみせる。
ジョングクもスミスもテヒョンが心から旅行を楽しんでいるのが分かっていた。
普段なら初対面の者に対してはしゃいでからかうような真似はしない。
心が解放出来ているならそれはとても喜ばしいことだと、そう思いながら二人はテヒョンを見守った。

それぞれに部屋を案内されてやっと腰を下ろすことが出来た。
テヒョンはソファに深く座る。長時間馬車に揺られるのは体全体に影響した。
「殿下、もう暫くいたしましたら、食堂でお食事を召し上がって頂きます。どうぞそれまでごゆっくりなさっていて下さいませ。」
メイドが軽く部屋の中の物を整えた後、そう言って下がった。
すぐその後にスミスが着替えの手伝いに部屋に入って来る。
テヒョンはラフだが食事の席にも合う服に着替えた。


夕刻、テヒョン達を歓迎する夕食会が開かれた。ゲインズと家族だけでなく、先ほどの関係者も同席していてニールの顔もあった。
前もって特別メニューではなく、普段の食事で迎えてくれるように伝えてはいたが、誕生パーティー等の祝いの席で振る舞われるメニューで饗された。
食事が始まる前にテヒョンが挨拶をする。
「私の療養中に沢山の農作物を届けてくれてありがとう。宮廷シェフがとても喜んでいた。お陰で食事が楽しめる療養になった。普段の仕事が忙しい中での君達の心遣いにはとても感謝している。」
皆拍手でテヒョンの元気な姿を喜んだ。
末席に座っていたニールはテヒョンが怪我をした時の話である為か黙って聞いていた。そういう所はわきまえているようだ。
シャンパンが振る舞われ乾杯で食事が始まった。

ある程度食事が進んだ時、テヒョンはニールの皿に目が止まった。ここに居並ぶ関係者の誰よりも引けを取らず、テーブルマナーが洗練されていたからだ。
背筋をスッと伸ばしナイフとフォークの動きは滑らかな上静かだった。
先程の悪態をつく粗野な様子とは打って変わって、食べる姿もガツガツせず一口が丁寧だった。見るからにかしこまった席に慣れていて紳士的だ。
これにはジョングクもスミスも気が付いて驚いた。ニールは貴族などを非難してはいたが、元々それなりの家柄出身なのではないかと思った。
しかし、ニールはその後もテヒョンやゲインズ、他の関係者達の談笑に一切加わろうとはしなかった。

食事が終わると領地の関係者はニールも含め全て帰っていく。
テヒョン達やゲインズは食堂でワインを楽しんでいた。テヒョンが先程気になったニールの事をゲインズに訊いた。
「あのニールという者はどこかの名のある家柄出身なのか?」
突然の質問にゲインズはびっくりする。
「どうしてそれがお分かりに?」
「テーブルマナーが完璧であった。場数を踏まなければ、立居振舞いなどは一朝一夕で身に付くものではないからな。」
「大変恐れ入りました。はい、彼は実はアンダーソン子爵という貴族の息子でございます。」
「アンダーソン子爵?聞き及んだことがないな。」
「私の立場でこう申し上げるのも誠にはばかれるのですが、アンダーソン子爵は地方の小さい貴族の家柄でございますから、ご存知ないかもしれません。」
「しかし貴族の息子であるならなぜこの領地にいるのだ?」
テヒョンは不思議に思い更に訊ねた。

「彼の母親はアンダーソン家の使用人でございまして、更には子爵の妾でございました。ニールは子爵との間に出来た子でございます。妾が産んだ子でございますから嫡子ではありません。」
嫡子ではない妾との間の子であれば日陰者扱いであったはずだ。テヒョンは黙って話の続きを待った。
「子爵と本妻との間には子が出来ませんでしたので、やむなくニールが嫡子として入籍したのでございます。」
「あぁ、よくある話だな。それで嫡子ともなれば、後継ぎとして相応しい教育も受けられたということだな。」
「はい。・・・ですが、子爵が離婚をして新たに迎えた夫人との間に子が出来まして、あっけなくニールは除籍され挙句の果てに、母親共々アンダーソン家を追い出されました。」
「この時代にまだそんな事をしている貴族がいるのか?
テヒョンは呆れた表情をした。

「ニール親子はアンダーソンの名前を名乗る事だけは許されましたが、それだけでは何の役にも立ちません。それが証拠に今までニールに取り入っていた者達は手の平を返すように、誰一人として親子を助けようとはしなかったそうでございます。」
話を聞きながらテヒョンの顔が険しくなった。
「やむなく二人は母親の実家に身を寄せますが、それは肩身の狭い思いをして暮らしていたようです。しばらくして私の知り合いを通じてニールの働き口の相談を受けたのでございます。」
「素性を知らない土地なら煩わしい気を使わず、働きやすいというわけだな。」
スミスが口を開いた。
「その通りでこざいます。しばらくニールを見習いとして預かり、農作業の仕事をさせてみたのですが、土木の方に秀でた腕を持っている事が分かりました。訊けば大学まで行って土木を学んだと言うのです。」
「そこまで息子として手を掛けてきたのに、都合が悪くなれば平気で追い出せるというのか。妾の子とはいえ血の繋がった親子であろう。」
テヒョンが重い口調で言う。

「まことに仰る通りでございます。」
ゲインズも実感を込めて応えた。
「残念ながらそれが階級社会の側面であり実態なのでございます。」
スミスが神妙な面持で応える。
「しかし、ニールは勤勉でした。農作業をしながら天候悪化によって作物に被害が及ぶのを食い止める策を沢山出して参ったのです。」
「それで職を得るだけでなく、土木関係の責任者にもなれたのだな。」
「はい。仕事だけではなく人を惹きつける力も持ち合わせておりましたので、仲間からの信頼も厚いのです。」
テヒョンは椅子から立ち上がると、そのまま窓辺へ向かい、真っ暗な中に浮かぶ点々とした灯りを眺めながら、何か考えているようだった。


【テヒョンの怒れる青い瞳】

ゲインズ邸で朝早く目覚めたテヒョンは、身動きしやすい服に着替え父からクリスマスのプレゼントで貰ったブーツを履いた。
「新しいブーツがよくお似合いですね。」
着替えを手伝っていたジョングクが、鏡の前で袖口のカフスボタンを留めているテヒョンを褒めた。
「ありがとう。僕も凄く気に入っている。父上のセンスがとても好きだ。」
ジョングクはテヒョンの背後から近付くと、腰に手を回してそっと抱き締めた。
顔を寄せて鏡の中のテヒョンに話しかける。
「今日はよく歩くことになりますから、体力勝負でございますね。」
「そうだな。へこたれないように気を付けないとな。」
テヒョンも鏡の中のジョングクに応えた。二人は笑い合うとジョングクがテヒョンの首筋に優しくキスをした。
鏡の中の幸せそうな自分の顔を見てテヒョンは胸が一杯になる。

暫くするとノックの音がした。
「スミスか?」
テヒョンが応えてジョングクが扉を開けに行く。
「テヒョン様のお支度は如何でしょうか?」
「完璧ですよ、スミス殿。」
どうぞ見て下さいと言うように手を広げた。スミスは満足そうにテヒョンを見ると頷いて、
「それでは朝食を頂きに参りましょう。」
と言って二人を促した。そして部屋を出るとスミスと共に食堂へ向かった。

今日はいよいよ領民達との交流がある。
さすがに広い領地の民達全員に会うことは出来ないが、こうして真冬に訪問したのも、農作業の繁忙期を避けてなるべく多くの者達と交流を取る為だった。
朝食を食べながらゲインズとスケジュールの打ち合わせをする。
実際に自身が抱える領民達がどのような所で、どんな暮らしを送っているのか、自分の目で見て知っておく必要があると感じていた。
昨日のニールが放った言葉の中にもあったが、楽しい旅行ではあるものの全てが《物見遊山》で終わらせてはならないと思っていた。


コートを着込み外に出るとテヒョン達の乗る馬が用意されていた。馬丁達が頭を下げて挨拶をする。
テヒョン、ジョングク、スミスと騎乗した。ゲインズが先頭になり案内をすることになっているので既に馬に乗り待っていた。
テヒョンの両脇には護衛の二人が付いた。自分の領内でぴったり護衛がついて回るのはテヒョンにとっては不本意であったが、宮廷からの命令の為にやむを得ず言うことを聞いた。
一行が馬でゆっくり進み出す。
目の前に広がる広大な農地には、春に種を蒔く為の土壌作りが既に始まっていた。そこここから立ち上る枯草や枝を燃やす香ばしい匂いが、何か懐かしさを蘇らせるように鼻をかすめた。
色々な農機具を使って作業をしていた者達が、テヒョン達の姿を確認すると手を止め脱帽して頭を下げた。
テヒョンは声が届く距離まで進んで馬上から声を掛ける。
「おはよう!朝早くからご苦労だな。」
「キム公爵、ようこそいらっしゃいました。お元気で何よりでございます!」
「療養中には沢山の作物をありがとう。美味しかったぞ!」
言いながらテヒョンが手を振ると深々と頭を下げて応えた。
畑で作業をしていた者達は、あまりにも自分達に気さくなテヒョンに驚いていた。そしてその見目麗しい姿に見惚れながら先を進む姿を目で追った。

しばらく馬で移動した後テヒョン達は馬を降りて、歩きで最初の訪問先まで行くことになっていた。これもテヒョンの要望だった。
案内をするゲインズの後をテヒョンとジョングクが並んで歩き出す。テヒョン側のすぐ斜め後ろにスミスがいて、その後ろには護衛が二人付いてきた。
ザクザクと石畳ではない土と砂利の混ざる道を歩く。
「子供の頃はよくこういった所を歩いて遊んだな。」
テヒョンが懐かしそうに足元を見ながら進んで行った。
「この農道の土と砂利の舗装もニールの発案で工事を行いました。」
都会の石畳をヒントに土と砂利のバランスを取って造られた農道だった。
雨で泥濘んだ所で荷馬車の馬達が脚を取られないように、また荷崩れの元になる凸凹とした不安定さを取るために、主要な場所から順次舗装がされていった。

「ゲインズの言う通りあの者はなかなかよい仕事をしているな。だが工事関係の申請書に名前を見たことがないぞ。」
「申し訳ありません、本人が拒むものですから、、、」
「会議や打ち合わせにも出ては来ないから顔も知らなかった。」
テヒョンは呆れ笑いをする。しかし、感心して足元の農道を踏みしめて、ニールという男がますます面白い奴だと思った。ジョングクはそんなテヒョンの横顔を訝しげに見ていた。
「僕が君以外の者に関心を寄せることが妬ける?」
ジョングクの憂いだ眼差しに気付いて、テヒョンが顔を寄せて小声で訊いた。ジョングクは見透かされて慌てた。
「いえ、、、何も、、ただ寛大になり過ぎて、アイツがつけ上がらないかと心配しただけです。」
言いながらパッと顔を前に向けた。
ジョングクの慌てた様子を見て可愛いと思うテヒョンだった。

しばらく歩いていると前方の小高い山の中腹で、男達が数人で測量をしている姿が見えてきた。
「あれは何の測量をしているのだ?」
「ああ、あれはニール達が新しい用水路を引く為に測量をしております。」
用水路を引くためとはいえ、随分高い所を測っているなとテヒョンは思った。
「実はかなり計画が難航しております。あの山の向こうにある湖から水を持って来る計画なのですが、どうしても土地の形状の関係で、別の所有者の土地を通さねばならないのです。」
ゲインズが現状を説明した。
「ではその所有者と交渉をすればよいのだな。」
「殿下、それだけの問題ではございません。相手方の土地の農業用水路にも関わるので、両者共に根本的な工事が必要になります。」
「なるほどな。それであらゆる限りの方法をああして模索しておるのだな。」

テヒョン達が測量の様子を見ていることをニールが気付いた。しばらく視線をテヒョン達に向けていたがすぐに切り替えて測量の作業に戻った。
だいぶ歩いてきた頃、視野の先に民家が見えてきた。
「あちらが今回ご訪問頂く、サイモン家でございます。」
ゲインズはそう言って先にサイモン家に向かって行った。テヒョン達がその後を歩いて行くとようやく民家に辿り着いた。
玄関の前では先に着いたゲインズとサイモン家の家族らしき者達が並んで出迎えた。少し緊張気味なのが見ても分かる。ゲインズが家長を紹介する。
「殿下、レオ・サイモンとその家族でございます。最近新しくこの一体の農家の班長を任せております。」
「初めまして、サイモン班長。療養中のお見舞いをありがとう。今日はお邪魔をさせてもらうぞ。」
「ようこそおいで下さいました。公爵にお目にかかることが出来るなんて、大変光栄でございます。」
テヒョンは挨拶を受けると手を出して握手を求めた。レオは恐る恐る差し出された手を握った。

強くしっかりとテヒョンから握手を受けたレオは、感激しすぎて家族の紹介を忘れそうになった。
「あ、ええっ、、と、失礼致しました。これは妻のアニーでございます。」
「初めまして、公爵。お元気なお姿を拝見出来まして嬉しゅうございます。」
「ありがとう。心配をかけましたね。」
「これは息子のダニエルです。」
7、8歳と見える男の子が緊張した表情でテヒョンを見上げていた。
「公爵にきちんとご挨拶なさい。」
母親に促されて一生懸命練習をしたであろう言葉を発した。
「こんにちは公爵様。・・・ようこそいらしてくださいました。」
テヒョンはにっこり笑ってしゃがむと、子どもに目線を合わせた。
「はい、こんにちは。元気で過ごしていましたか?」
「はい!」
「うん。いいお返事だ。」
テヒョンは褒めて頭を撫でた。

そのダニエルという男の子の後ろを見ると3、4歳位の小さい女の子が隠れてテヒョンを見ていた。
「この子はルーシーと申します。さぁ、ルーシー。王子様ですよ、ごあいさつは?」
ルーシーは恥ずかしそうにもじもじ左右に揺れていたが、顔を真赤にして笑うと、
「こんにちはおうじさま。ルーシーです。」
と小さな足で可愛らしいカーテシーをしながらの挨拶をした。
「はい。初めましてお姫様。」
テヒョンはそう言うとルーシーの小さな手を取ってキスをした。するとルーシーは恥ずかしそうに両手で口元を抑えると母親の足元に抱きついていった。
「なんて可愛らしい子だろう。」
テヒョンが天使のようなルーシーに感嘆の声を上げた。
その場にいた大人がみんな笑って和んだ。

テヒョン達はダイニングキッチンに通されると、スコーンと紅茶が出された。
庶民の暮らしを見るのは初めてだったテヒョンは、シンプルに造られたキッチンやダイニングルームをゆっくり眺めていた。
「公爵のお住いとは全くかけ離れておりますでしょうから、居心地が悪いかもしれませんね。」
アニーが気恥ずかしそうに言った。
「いや、そんなことはないぞ。とても機能的になっていて、忙しい者が動きやすい造りになっているではないか。」
「本当ですね。無駄がありません。」
テヒョンとジョングクが感心した。

サイモン夫妻と談笑していると、ルーシーが絵本を2、3冊抱えてテヒョンの前にとことこやってきた。
「おうじさま、ごほんをよんで。」
「ん?どれどれ、、、」
テヒョンがルーシーを抱き上げて膝の上に座らせた。
「これ!ルーシーいけませんよ。」
「よい、よい。」
テヒョンがアニーを制した。
「ダニエルもおいで。」
テヒョンの隣に座っていたジョングクが、羨ましそうに見ていたダニエルに気付いて声を掛けると、ダニエルが喜んで飛んできてジョングクの膝の上に座った。
「まぁ!二人共大切な方々のお膝に遠慮もなく、、、」
アニーが恐縮した。
テヒョンは絵本を開くと子どもに聞きやすいようにゆっくり、また時々登場人物になりきって声色を変えて読んでやった。
ルーシーもダニエルも興味津々で時々キャッキャと笑いながら聞き入っている。

スミスとゲインズ、サイモン夫妻はテヒョンとジョングクと子ども達の様子を静かに見ていた。
しばらくするとルーシーとダニエルが眠り始めた。サイモン夫妻が引き取りに立ち上がる。
「いや、このまま私達が部屋まで運ぼう。ジョングクも行けるな?」
「はい。大丈夫です。」 
とりあえず絵本だけをアニーに取ってもらい、テヒョンはルーシーを抱えたまま立ち上がった。ジョングクもダニエルを抱えて立ち上がる。
「申し訳ありません公爵。部屋には私がご案内致します。」
レオは恐縮しながらテヒョンとジョングクを子ども部屋にまで案内した。

子ども部屋は廊下を抜けて離れのように造られた建物にあった。その中の一室に入り、二人をベッドに静かに寝かせるとブランケットを掛けた。
「二人共可愛いな。」
テヒョンが優しい顔で二人の寝顔を見た。
「本当ですね、、、。子どもの寝顔は癒やされます。」
「そうだな。」
テヒョンとジョングクはしゃがんだまましばらくルーシーとダニエルの寝顔を眺めていた。
レオは穏やかな顔をして子ども達の寝顔を見ているテヒョンとジョングクに胸が熱くなった。本来であれば近付く事も目にすることさえままならない身分の二人である。そんな高貴な御人が自分の子ども達を眺めているなんて奇跡だとさえ思えた。

テヒョン達がダイニングキッチンに戻るとニールがサイモンの家に来ていた。
サイモンの家に測量の道具が管理されているようで、どうやら仕事を一段落させて戻しに来たらしい。
「随分用水路の測量に苦慮しているようだな。」
テヒョンから声を掛けた。
「よその所領地に関わりますから・・・・慎重になりますよ。」
ニールは手を止めずに応えた。ジョングクはその無礼な態度が気に入らなかったが、テヒョンが何も言うなと手で止めていた。そこにニールが更に言葉を発した。
「お偉い方々は何をグズグズやっているのかと思われるでしょうがね。公爵様も状況がお分かりにならない位では、国王様は全然分かりませんでしょうな。」
この時さすがにニールを止めようとしたジョングクだったが、瞳が青くギラついたテヒョンの顔が目に入った。
「本当に宜しいご身分ですな国王様というのは。ご自分は宮殿で楽をしながら下の者だけに働かせて何も知ろうとはなさらない!」
ニールは嘲笑うように言った。

「いいかげんに・・・」
ゲインズが怒鳴り切る前に、テヒョンが素早く動いた。
そして警護の一人に近寄ると、
「借りるぞ!」
と低く言った瞬間にサーベルを抜いた。
「殿下!!」
「テヒョン様!!」
サーベルを抜かれた警護とジョングク、スミスがテヒョンを止めようと声を上げた。
「皆動くな!」
テヒョンが声を上げた。そしてニールの前まで進むと剣先をニールの顔面に向け、
「そこへなおれ!!!」
と声を荒げた。
居合わせたサイモン夫妻やゲインズ、警護の二人、ジョングクとスミスが一同凍りついた。テヒョンの怒りに満ちた形相に、ニールも怯んだようで目を見開いてその場に座りこんでしまった。青くギラついた瞳がさらに色濃く青くなった。
ジョングクはそんなテヒョンを見据えたまま動けなかった。

「私の事を言うのであれば我慢もしよう。だかな、国王陛下の事となれば話は別だ!!」
「テヒョン様、、、」
スミスが宥めるように声をかけた。しかしテヒョンは続けた。
「お前に何が分かる?我々の会議や打ち合わせにも顔を出さず、陛下が実施されている身分に関係ない謁見にも申し入れる事もしない。それで何を知ったような口がきけるのだ?」
もう誰も何も言わず見守るしかない雰囲気だった。
「陛下は御即位以来、ご自身の人生を国家に捧げられた。それ以来ずっとご公務に奔走されておられるのだ。可能な限り国中を回られご自分の目で、耳で知ろうとなさっておられる。時には身分の隔たりが根強く残る世の中に悩み、妬みや僻みで足の引っ張り合いをする者達に心を傷められておられるのだ。寝る間も惜しまれ国民に寄り添われるお姿も知らないくせに・・・」
テヒョンはサーベルをニールの喉元に立てた。剣先が少し刺さったようで血が流れた。
「このままお前を切り捨てることなど私には簡単な事だ。その権利も与えられているからな。それ相応の罪を犯したのだから!!」
「テヒョン様!なりません!」
ジョングクが止める。

「だが私はお前を切り捨てて楽に天国に送るような優しさは、あいにく持ち合わせてはいないのだ。」
ニールの喉が鳴って顔には脂汗が出ていた。
「ニール・アンダーソン、今からお前に罰を与える。ジョングク、スミス、ゲインズ、3人共に証人だ。しっかり聴き留めよ。
私が今回の領地巡りの旅行を終わらせ、帰郷するまでに、新たな用水路についての計画書を書き揃えて仕上げ、国王陛下に謁見の申し入れをした後、それを持って宮廷まで参内するのだ。よいな、逃げたり仕上げる事が出来なかった場合には不敬罪として処罰される事を忘れるな。猶予は2週間であるぞ。」
テヒョンはそう言ってサーベルを下げ、剣先をニールのクラバットで拭くと警護に返した。
「ニールの出血の手当をしてやってくれ。・・・アニー怖かっただろう?驚かせてすまない。子ども達が寝た後で良かった。」
アニーはレオに支えられながら怖くて泣いていたが、テヒョンがそばに行って抱き締めた。
「公爵、、泣いたりして申し訳ありません。もう大丈夫でございます。」
アニーはテヒョンに笑顔で応えた。
万が一の時の救護用品を持ち合わせている警護がニールの手当を行った。

テヒョンはゲインズの元にくると、
「ニールは今から容疑者の身分になった。あの者が全てやり遂げるまであなたが監視役としてそばに付くように。」
「・・・かしこまりました。」
ゲインズは沈痛な面持ちで手当の終わったニールを連れてサイモンの家から出て行った。
「テヒョン様・・・」
ジョングクが心配をして声を掛けた。
「心配することはない。」
にっこり笑ってジョングクを見た。その顔はいつものテヒョンの表情に戻っていて瞳に見えた青い眼光もなくなっていた。
スミスはサイモン夫妻のそばにいて慰めた。
「すっかり驚かせてしまってすまない。」
テヒョンはサイモン夫妻に謝った。


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