群青と真紅㊻【キム公爵の天地創造】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

アラフィフの生活や周辺で起きたことを書いています☆
そしてときどき
終活のガイドをさせていただきます

現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

ここからはちょーーーーーっと引っ張りますよ😊
焦らしてる訳ではありませんが💦💦
お付き合い下さいませ✨🙏✨


前回の物語



物語の続きが始まります✨✨✨


【クリスマスの準備】


フランシス孃によって引取先別に仕分けられたテヒョンの見舞いの品々が、数日をかけて次々に搬出されて行った。
最後の引取先に搬出されて行った後、絵画の間には元の空間が戻った。

女中頭のミセス・ブラウンの指示の元、数人の女中で清掃が始まり、絨毯についた凹みもきれいに直され家具や調度品も元の場所に戻された。
「はい、では手分けをして最終確認を行いますよ。お部屋中の破損や剥がれ、繊維のほころびなどがないかどうかを点検して下さい。」
「はい。」

女中達は四方に分かれて室内の隅々を目視と触手で点検を行った。
ミセス・ブラウンの元に次々に報告がされて異常が無い事が確認された。
「それでは絵画の間の全ての清掃は終わりです。このまま大広間のクリスマスの飾り付けに合流して下さい。」

数日後のクリスマスの為に大広間では、大きな樅の木が立てられて飾り付けが始まっていた。
従僕達は高い所を担当し、女中達は各々背の届く場所の飾り付けをしている。
ワイワイと楽しそうな声が大広間に反響する。
飾り付けが見下ろせる階段の踊り場では、テヒョンが飾り付けの様子を見ていた。

皆と一緒に飾り付けを手伝っていたデイビスが階段を上がってやってきた。
「いかがでございますか殿下。」
「うん、今年の樅の木は随分と立派な大きさではないか。」
「今年のツリーの木は私が選んで参りました。」
デイビスが誇らしげに胸を張った。

毎年クリスマスの時期に公爵家の領地の山では間伐を兼ねて、ツリー用の樅の木が降ろされた。
市場に出る前の間伐材から、今年はデイビスが大広間用のツリー選びを任された。
「ツリーが大きいと飾る方も楽しそうだな。仕上がりも期待出来るな。」
「そうでございますね。」
「良い仕事をしたなデイビス。」
パンパンと肩を叩いて大袈裟に褒めた。

「まだしばらく掛かりそうだな。私は部屋に戻る。後でココアを持ってきてくれ。」
「かしこまりました。お飲み物はすぐにお持ち致します。」
テヒョンは飾り付けの様子を見下ろしながら踊り場から廊下に上がり部屋に向かった。


部屋に戻ったテヒョンはポケットの中から紙片を取り出した。
小さく畳まれた折り目を広げ目を通しながら窓際まで進む。
窓枠に寄りかかり読み終えた視線を窓の外に向けた。
見るだけで寒そうな灰色の雲が、雪を予感させる位重たく見えた。
が、テヒョンの胸は熱く高鳴り心は弾んでいた。
紙片はテヒョン宛に今朝宮廷からの連絡馬で届けられたもので、送り主はジョングクだった。

テヒョン様
クリスマスイヴに
我が家にいらっしゃいませんか
―ジョングク―

とだけ書かれている紙片は、
急いでいたのかメモ用紙に走り書きをしたものだった。
紙片の文字の中に彼の姿を思い浮かべると、自然に笑みが溢れた。
忙しい職務の中で自分に意識を向けてくれたことが嬉しかった。

「失礼致します。」
デイビスがココアを持ってやって来た。
部屋に入ってきた所に向かって、
「デイビス!急ぎチョン伯爵家に使いを出してくれ。」
と指示を飛ばした。
勢い余る声に押されてデイビスがたじろぐ。
「は、はい!」
ココアをテーブルに置くと、テヒョンの元に急いだ。
「ジョングクからクリスマスイヴに招待を受けた。私はチョン伯爵家に参るぞ!」
緊急を要すると思い、慎重に言い付けを受けようとしたが、先程の勢いとは真逆な柔和な笑顔と言い付けに拍子抜けしてしまった。

「なんだどうした?早くメッセンジャーに伝えて参れ。」
ずいっとデイビスの顔を覗き込む。
「し、失礼致しました!」
目の前の見据える視線に我に返る。
「大丈夫か?伝えることは頭に入っているか?」
「はい、、クリスマスイヴの夜、殿下がチョン伯爵家の招待に応じられるという事でございますね。」
「その通りだ。」
デイビスは一旦呼吸を整えて、
「しかと申し伝えて参ります。」
と言うと直ぐに部屋を出た。
「なんだおかしな奴だな。」
デイビスの慌てた背中を見送って呟くとテーブルに置かれたココアを一口飲んだ。


デイビスが宮殿の職員通用口にメッセンジャーを呼んで、テヒョンの伝言を伝えているとスミスが通り掛かった。
「スミス様。」
「おおデイビス。テヒョン様のお使いか?」
「はい。・・・あの、少し宜しいですか?」
「何だあらたまって、どうしたのだ?」
躊躇する様子のデイビスを気にした。
「殿下とチョン伯爵の事なのですが・・・。」
「うん?お二人がどうした。」
なかなか言い難そうにしているデイビスを声の響かない壁の方へ導く。

「今後の事もございますから、思い切ってスミス様にお伺い致します。」
スミスは黙ってデイビスの言葉を待った。
「あの・・・お二人はその、特別な・・・恋人同士・・・でいらっしゃるのでしょうか?」
訊いてはいけない事かもしれないという恐れ多さを感じている訊ね方だったので、スミスはゆっくり冷静に訊き返した。
「何でそう思ったのだ?」
落ち着いた返しの声にホッとして続けた。
「これはまだ私が殿下付になる前から時々感じていた事なのですが、、」
出来るだけ言葉を選ぶ。
「お二人のご様子が度々その場に私が居てはいけないような親密な雰囲気になられるので、どうしたらいいのか困惑してしまうことがございます。」
スミスは頷いて次の言葉を待つ。
「・・・それに、殿下が私にチョン伯爵に関連するご指示を下さる時にはお気持ちが高揚されて、コロコロと表情が変わられるのでびっくり致します。」

「なるほどそういうことか。」
スミスは余裕の笑みを浮かべ、
「ジョングク様はテヒョン様の側近でいらっしゃるぞ。」
と前置きをしてから話を続けた。
「テヒョン様はジョングク様のお人柄に信頼を寄せられて側近になさったのだから、お二人が仲良く親密になられるのは当たり前のことだ。」
デイビスは何度も頷きながら聞いた。
「しかし!」
スミスの口調が厳格になったので姿勢を正した。

「我々お仕えする者は主人に対して必要以上の詮索をしてはならぬ。」
目の前で指を振って戒める。
「我々がしなければならないことは、主人が今何を望まれているのか覚り、そして何をして差し上げるのがベストであるのかだけに心を砕くことだ。」
デイビスはハッとした。

「私の言っている事は分かるな?」
スミスの諭すような言い方に大きく頷く。
「テヒョン様は正直なお方であるから、その時々のお気持ちがよく顕れるであろう?しかし我らは冷静でいなけれはならぬ。」
デイビスの肩を叩き、
「お前がテヒョン様とジョングク様のお邪魔になると思えば、静かにその場を離れれば良い。お忙しい方々だからお二人の大切な時間がおありであろう。」
と言って笑顔を見せた。
「大公殿下との親子のご関係でも、ジョンソン男爵やフランシス孃とのご友人同士のご関係でも同じ事であるぞ。」
と付け加えて諭した。
「ありがとうございました。スミス様にお話が出来てよかったです。」
デイビスがホッとした表情になった。

「お前はテヒョン様に付いてからまだ日も浅い。これから沢山お仕えしてテヒョン様の真のお人柄に触れてあのお方の生活をお守り致せ。」
そう言い残してスミスは執事室に戻って行った。
デイビスはスミスの背中を見送りながら深くお辞儀をした。頂戴した言葉の中にある、専属のお付きの者としての心構えを改めて鑑み噛みしめた。


クリスマスイヴの当日
テヒョンはロンドンでの買い物の時に用意した、ジョングクへのクリスマスプレゼントを自ら準備する。
これだけは自分の手で持参したいと思った。
「殿下お支度が整いました。馬車も待機しておりますので宜しければお出掛けになれます。」
デイビスが知らせてきた。
「こちらも大丈夫だ。では参ろうか。」
プレゼントが入った袋を持つと足早に部屋を出る。朝から上機嫌のテヒョンの様子をデイビスは微笑ましく思った。

玄関まで来ると大公もオルブライトを伴って出掛ける所だった。
「父上行って参ります。父上も今からお出掛けでごさいますか?」
「おお、国王陛下と会食を兼ねての打ち合わせでな。お前はチョン伯爵家に行くそうだな。」
「はい。ジョングクから招待を受けました。」
溢れんばかりの息子の笑顔と手にしているプレゼントらしき物を見て、大公は目を細めた。
「ジョングクとセオドラ卿によろしくな。」
「はい。父上もいってらっしゃいませ。」
テヒョンは先に大公を見送る。
「父上!《明日》を楽しみにしております。」
何かを思い出したように大公の背中に声を掛けた。
「うん、《明日》だな。」
と振り向くと、手を挙げて応えた。
テヒョンは今年のクリスマスに期待を寄せた。


「テヒョンのあの幸せそうな顔を見たか?」
大公は馬車に乗り込むとオルブライトに訊いた。
「はい。いつも以上にお可愛らしい笑顔でいらっしゃいましたなぁ。」
「早く大人にしてしまったと思っていたが、まだ、あのようなあどけない笑顔を見せてくれるとはな。」
大公の目尻が下がる。
オルブライトは子煩悩な父親の表情を見せてくれる大公こそ、とても幸せそうに見えて喜ばしいと思った。



【チョン伯爵家へ】

大公の馬車が出て直ぐに、テヒョンは自分の馬車に乗り込んだ。
「どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ。」
いつの間にかスミスが見送りに出て来ていた。
「うん。行ってくる。」
扉が閉まると馬車は直ぐに動き出した。
スミスが馬車に向かってお辞儀をする姿が遠ざかる。
デイビスが振り向いてスミスの姿を見ていた。

「スミス様がお寂しそうに見えます。」
馬車の後方の窓を見ると、小さくなっていくスミスが見えた。
「・・・彼はずっと私の親代わりをしてくれていたからな。だがいつまでも甘えるわけにはいくまい。」
言いながら心なしかテヒョンの胸がチクリと痛んだ。同じ屋根の下にいるとはいえ、ずっと世話をしてくれた人が少し離れてしまう。寂しくないと言ったら嘘になる。
しかし今は《明日の事》に気を向けて感傷的になるのはやめた。
それにもうすぐジョングクに会えるのだから。

テヒョンの表情が色々変わるのを間近で見ていて『なんと魅力的なお方なのか』とデイビスは改めて感心した。
お側近くでお世話が出来ることを世間の皆が《幸運》だと言って羨む理由を今更ながら実感するのだった。
『いや、その幸運に甘んじること無くこの方の生活をお守りするのだ。』
デイビスはスミスの言葉を思い出し気を引き締めた。
「どうしたデイビス、馬車酔いか?」
不意を突かれて我に返る。
「失礼致しました!なんでもございません。」
テヒョンはニヤリと笑った。
「お前も案外面白いな。」
デイビスはしまったと反省する。
テヒョンが頗る勘が鋭いというスミスからの情報を忘れていた。

「昨夜雪が降らなくて良かったな。積りでもしたら馬車は大変だ。」
「本当に。降りそうな空模様でしたけれど、珍しく晴れましたね。」
「ロンドンで太陽を見るのは珍しいな。」
とはいえ冬の街並みはクリスマスに湧いている人以外は、どこか寒さに耐えているように見えた。
テヒョンは流れていく窓の外の景色をずっと見ていた。

馬車は徐々にジョングクの館に近付いていく。見知った景色はテヒョンの胸の鼓動を速くさせた。馬車の車輪の回転音がなければ聞こえてしまうかもしれない。
もう既に馬車はチョン伯爵家の門柱の間を入っていく所まで来ていた。
門番が脱帽すると馬車に向かってお辞儀をした。
テヒョンは窓越しに笑顔で応えた。
敷地内は以前に訪ねた時とは景色が変わって木々の葉は落ち、こちらもすっかり冬の様相になっていた。

チョン伯爵家の屋敷が見えてきた。
屋敷の玄関前では既にジョングクとハンスが到着を待っていた。
テヒョンはジョングクの姿を見た瞬間、自ら扉を開けて彼の胸に飛び込みたい衝動に駆られた。
グッと逸る気持ちを抑えて扉が開くのを待つ。
御者が扉を開くとジョングクが直ぐに近付いて手を差し伸べてきた。差し出された彼の手を取って馬車を降りた。

お互い見つめ合い笑顔で挨拶を交わす。
「やあ来たよ。ご招待ありがとう。」
「ようこそいらして下さいましたテヒョン様。」
二人は触れた手も交わす視線も離さなかった。
「殿下、本日のご来訪をとても楽しみにお待ち申し上げておりました。」
ハンスの挨拶でやっとテヒョンの視線と手がジョングクから外れた。
「こちらこそ楽しみにしておりましたよ。」
ハンスと握手を交わす。

デイビスが挨拶が済んだ頃を見計らい、テヒョンに近づくと
「殿下・・・。」
とそっと耳打ちをした。
すぐに振り向いたところで馬車の中に置いたままになっていたプレゼントの袋をそっと手渡された。
目の前の《彼の存在》に夢中で大事なものを忘れていた。
テヒョンは照れ隠しの笑顔で
「ありがとう。」
と小声で礼を言った。
「さぁ、御身体が冷えてしまう前にどうぞ中へお入り下さい。」
ハンスが屋敷の中へ案内する。
ジョングクはテヒョンの横にピタリと付き添って中に一緒に入る。

玄関の中ではセオドラ卿が出迎えた。
「大公子殿下ようこそおいで下さいました。」
テヒョンがセオドラ卿に手を伸ばし握手をする。
「お招きありがとうございます。」
「どうぞごゆっくりクリスマスイヴを我が家でお過ごし下さい。」
「是非そうさせて頂きます。」
セオドラ卿がニヤリと笑うと、
「殿下をお迎えするために、息子が色々と趣向を凝らして準備をしていたようですので・・・」
と言い掛けた所でジョングクが父の言葉を遮った。
「ああ!父上、それ以上お話なさっては駄目ですよ。」
「おお・・・そうだな。
殿下、大変失礼を致しました。」

テヒョンがジョングクとセオドラ卿の顔を交互に見た。
「テヒョン様。あとのお楽しみでございますよ。」
キョトンとした顔のテヒョンにジョングクがウィンクをした。
「では殿下、またお食事の時間にお会い致します。どうぞゆっくりお寛ぎ下さい。」
セオドラ卿はテヒョンを見送り自室に戻って行った。

「ではテヒョン様、控室にご案内致します。」
「控室?」
「はい。今日は私の部屋でお過ごし頂きますので。お荷物など含め控室をご用意しております。」
テヒョンが横目でジョングクを見た。
ずっと視線を向けられて
「私の部屋ではいけなかったでしょうか?」
と問いかける。
いけないわけではなかった。
「ここには何度か来たけど君の部屋は初めてだよ。」
恥ずかしそうに笑った。
「そうでしたね。・・・改めて考えると恥ずかしくなりますね。」
「今頃?僕は君の部屋って聞いただけでドキドキしたよ。」
「えっ?そうなんですか?」

『意地悪だな』と言いたげなテヒョンの視線に、『なんて可愛いらしいんだろう』と柔らかい感情が湧いてくる。
「そのお顔をずっと見たかったです。」
いつもの歯が浮くような言葉がテヒョンの胸を弾ませる。
顔が赤くなるのを感じて、ジョングクの背中を叩いて誤魔化した。

少し離れた後ろでテヒョンの荷物を持ってデイビスが付いてきていたが、
仲睦まじく話をしているテヒョンとジョングクを見て、気を利かせて歩幅を遅くした。
不自然に空いた距離に気付いて振り返り
「デイビス、何をしている?えら
く遅れているぞ。」
と声を掛けた。
「大丈夫でございます殿下!どうぞ私のことはお気になさいませんように。」
言っている意味が解らず前を向くと、
「デイビスは何を言っているのだ?」
と怪訝そうな顔をした。
「きっと彼は私達に気を使ってくれているんですよ。」
ジョングクはフッと笑った。

テヒョンの為に用意された控室に着いた。
控室とはいってもちゃんとした貴賓室で装飾も美しい部屋だった。
「テヒョン様少しこちらでお待ち下さい。」
ジョングクがそう言って部屋を離れた。
デイビスはテヒョンの荷物を中に入れると、すぐに使えるよう中身を出してリネン室に揃えた。
「殿下、それでは私はこれで失礼致します。何かございましたらお呼び下さいませ。」
「うん、ありがとう。」
デイビスはお辞儀をして部屋を出ると、伯爵家の従僕の詰所に向かった。

テヒョンは貴賓室の壁に飾られた、ミケランジェロの《天地創造〜アダムの創造〜》を模して造られたタピストリーに気付き暫く眺めていた。
「お待たせ致しました。」
ジョングクが茶器を持って戻ってきたが振り向くことなく
「うん・・・。」
とだけ言うとタピストリーに集中して動かない。
背後からフワッと優しく包まれてジョングクの匂いがした。

「父上がミケランジェロが好きで、特別に織らせたタピストリーですよ。」
「見事な織物だね。神が最初の人類アダムに命の息吹を吹き掛ける瞬間だ。」
ジョングクは両手に力を込めて、
「神は6日をかけてこの世界と私達人間を造ったのですね。」
と言うと、
「7日目は神の休息の日です。私達も休みましょう。」
そのまま強く抱きしめた。
抱きしめられながらテヒョンは『僕の神は僕にジョングクの息吹を吹き掛けたんだな』と思った。


※ 画像お借りしました