えーと、途中で第2回本試験ショックという不慮の出来事があり、ずいぶん間があいてしまいましたが、忘れてしまわないうちに続きをまとめておきたいと思います。

というわけで、今回は〈 子どもの神経発達症と睡眠問題 〉の第3弾になります。


ちなみに第1弾はこちら↓↓

 

第2弾はこちらです↓↓

 




第2弾はごちゃごちゃ書いてしまい大変分かりづらくなってしまいましたので、自分のために要点だけを書き出してみたいと思います。

 


・ヒトは毎日ほぼ同じ時刻に眠くなり、大人であれば7-8時間ほどで自然に目覚める。
・このようなヒトの睡眠-覚醒リズムは 「睡眠欲求」 と 「覚醒力」 の2つの因子で形成されている。
・「睡眠欲求」は 『睡眠恒常性』 と呼ばれるシステムが、「覚醒力」は 『体内時計』 が決定している。
・ヒトの脳内には 睡眠中枢覚醒中枢 が存在し、それぞれ睡眠物質、覚醒物質(覚醒を維持する物質であるオレキシンもこちらに含まれます)と呼ばれる神経伝達物質を分泌している。

睡眠中枢覚醒中枢 は互いの活動を抑制し合っている。
・たとえば 覚醒中枢 からの 睡眠中枢 への抑制の方が強くなると覚醒が開始され、睡眠中枢 から 覚醒中枢 への抑制の方が強くなると睡眠が開始されるが、この睡眠-覚醒の切り替えのタイミングを決定しているのも 『体内時計』 である。

 

 

 

 

つまり、睡眠-覚醒リズムの最高司令官は   『体内時計』  ――

 


ということで、ここからは神経発達症の睡眠障害との関連も深い『体内時計』についてまとめてみたいと思います。

 

 

 

■マスター時計(視交叉上核)が全身の末梢時計のリズムを同調


ヒトの体内時計の中心は、視交叉上核という視床下部の先端部にある小さな一対の神経核に存在します。

しかし体内時計の周期は24時間ジャストではなく、およそ24時間10分サイクルになっています。
つまりそのままでは1日約10分ずつ遅れていき、1ヶ月経つと約5時間も遅れてしまうことになります。

そのズレを、外界の明暗サイクルや、メラトニンという脳内で分泌される睡眠ホルモン、食事、運動などで調節することによって、地球の自転サイクルである24時間に日々同調させているのです。


視交叉上核にある体内時計の他に、体のほぼすべての臓器・すべての細胞内にも体内時計が存在し(いわゆる末梢時計)、24時間10分周期でそれぞれリズムを刻んでいます。

 

例えば、血圧の日内変動やホルモンの分泌や自律神経の調節なども、体内時計が刻む生体リズムのひとつだそうです。

これら全身の末梢時計は、視交叉上核のいわゆるマスター時計から送られてくるさまざまなペプチド類の液性因子やダイレクトな神経投射からの時刻情報によって、統一されたリズムへと同調されます。

特に、視交叉上核(下図①)から上頚神経節(下図②)を介して松果体(下図③)に投射する神経投射路は、松果体からのメラトニンの分泌を調整することによって、全身の末梢時計を24時間リズムに同調させる非常に重要なツールとして作用しています。

 

 

(ともに秋田大学大学院医学系研究科 精神科学講座教授 三島和夫先生のご講演より)

 

 


では、ここからいよいよメラトニンの話に・・・

 

 

■メラトニンは暗期を伝えるダークホルモン


メラトニンの分泌は光を浴びると低下し、夜暗くなってくると分泌量が増えるのが特徴です。

メラトニンは主に夜間に、必須アミノ酸であるトリプトファンからセロトニンを経て、松果体細胞内で合成されます。
(*必須アミノ酸とは:タンパク質は20種類のアミノ酸から作られますが、うち9種類のアミノ酸はヒトの体内で合成することができず、食物から摂取しなくてはなりません。これら9種類のアミノ酸を必須アミノ酸と呼ぶそうです)

(この画像はこちらから引用させていただきました)

 

 

その後、松果体から血中に放出されて視交叉上核に至り、メラトニン受容体に結合して作用を発揮します。

 


メラトニンの受容体は1型(=MT1)と2型(=MT2)の2種類が知られており、

1型受容体(MT1) に結合することで 催眠作用 を発揮
2型受容体(MT2) に結合することで 概日のリズム調節 を行う

ことが分かっています。

 

(この画像はこちらから引用させていただきました)

 

 

(*ホルモンや神経伝達物質などはすべて、細胞表面にある受容体に結合することで作用を発揮します。物質ごとに結合できる受容体が決まっています。)


(*余談ですが、他の哺乳類に比べヒトの視交叉上核ではMT2の発現量が少なく、ヒトの場合は概日リズム調節にはMT1も関与しているのではという説もあるそうです。)
 

 


ここで、2/12の記事でも書かせていただきましたが、メラトニン分泌の一般的な特徴について転記させていただきます。

 

■メラトニンの分泌リズム
・メラトニンの分泌は光を浴びると低下し、夜暗くなってくると分泌量が増える。
・また、メラトニンの分泌は起床から約14時間後に始まり、2時間後に最大に達し(日中の数十倍)、翌朝目覚める2~3時間前から分泌が減少し始める、という日内変動も持っている。
・すなわちメラトニン分泌は、環境光と体内時計の両方から調節を受けている。
・そのため朝に光を浴びない生活や不規則な生活を続けるとメラトニンの分泌が乱れ、睡眠障害の原因となる。
・メラトニンは幼児期(1~5歳)に一番多く分泌され、年齢と共に分泌量が減っていく(50~60代で1/10程度とも)。年を取ると眠りが浅く、睡眠時間が短くなるのはこのため。

(この画像はこちらから引用させていただきました)

 

 

以上を頭の片隅に置きました上で・・・

 

■標準的な睡眠習慣の子どもの睡眠とメラトニン分泌リズムの関係


(この画像はこちらから引用の上、改変させていただきました)

 

上の図にありますように、メラトニンの分泌は、ふだん寝ている時間の1-2時間くらい前から始まり、覚醒を迎える時間の前に低下していきます。
 

このように体内時計のタイミングが正常であれば、ふだんは学校に間に合うように寝なければならないので、いつもの就床時間になれば自然な眠気が出てきますし、起床時間になれば親に声をかけられただけで比較的容易に目が覚めることが可能です。

 

 

 

ですが、夜型傾向が強い子どもの場合は・・・ ガーン

 

(この画像はこちらから引用の上、改変させていただきました)

 

 

上の図のように、夜型傾向が強く入眠困難がある子どもの場合は、メラトニンの分泌リズム自体が遅れており、眠気がなかなか出てきません。
そのため入眠時間が遅くなってしまいます。

それでも、翌朝は学校に間に合うように他の子たちと同じ時間に起きなくてはなりません。

 

ですが朝、親から声をかけられるタイミングでも、体内時計の遅れのために脳内のメラトニンはまだ高い値であり、また睡眠不足(睡眠負債)も重なって、非常に強い起床困難が生じてしまいます。

親も本人も困り、今夜こそ早寝をしたいと思っても、いざ夜になると体内時計が遅れているためにやはりなかなか寝付くことができません。


それもそのはず。

最初にご紹介させていただきました8/20の第2弾の記事で一瞬だけ触れさせていただきましたが、「覚醒力」が1日のうちでもっとも強くなるのはふだんの就床時刻の2-4時間前で、この時間帯は寝ようとしても簡単には眠つけず、睡眠薬も効きにくく、何とか入眠できたとしても睡眠の持続性が悪いので短時間で目が覚めてしまいます。

なぜならまだメラトニンが分泌される前であり、脳温も高く、交感神経優位であるため、眠りに対する体のコンディションが整っていないからで、この時間帯を  『睡眠禁止ゾーン』  (または入眠禁止ゾーン) と呼ぶそうです。

 

 

(この画像はこちらから引用の上改変させていただきました(厚労省のHP))

 

 

 

神経発達症、特にADHDの子の中に就床抵抗が強い(=布団に入るのを嫌がる、嫌がって暴れるなど)タイプがよく見られ、従来は"睡眠障害"で一括りにされていましたが、現在はこのメラトニン分泌が後ろにずれていることによる"夜型"が原因であることが分かってきているそうです。

でもそんなことを親は知らないので、この『睡眠禁止ゾーン』で必死に寝かせつけようとし、子どもは必死に抵抗するというバトルを繰り返すこととなり、家庭内の葛藤が生じてしまうことが多々あるのだそうです。

 

 

ちなみに神経発達症に限らず"夜型"による不眠の見分け方は比較的簡単で、

・寝つきは悪くてもいったん寝つくと爆睡する。
・週末に夜更かしをして翌日昼頃まで寝坊している。
(*確かに娘そのものダワ・・・ゲロー

という人の場合は、ほぼ"夜型"だそうで、早寝ができるようになるには『睡眠禁止ゾーン』を前倒しするしかないそうです。


*今回やっと謎が解けました!!
なぜ赤ちゃんの時から、娘が夜の9時~12過ぎにかけてが一番元気で、寝かせようとしてもぜんぜん寝なくて、やっと寝たと思ったらまたすぐに目を覚まして暗闇の中で遊び回っていたのか、その理由が!ポーンハッ

私は必死で『睡眠禁止ゾーン』で娘を寝かしつけようと、無駄な努力をしていたわけですね・・・チーンもやもやもやもや
そして朝起きられない理由も・・・
ドクロ
すべてが必然で、普通に眠れるはずも起きられるはずもなかったのだと分かり、何だか妙にすっきりした気分ですぶー

それにしてもホントあの頃は地獄でした・・・今も別の意味で地獄ですけれどもえーん



ではこの『睡眠禁止ゾーン』をどうやって前倒しするのか――

 


神経発達症に合併した睡眠障害の新しい治療薬にからめて、次回まとめてみたいと思います。
(*次回こそぜったい最後にします筋肉  多分デスケド・・・もやもや