先日の朝9時頃、西洋蜜蜂蜂場へ向かうと上空にオオスズメバチ数匹が旋回していた。既にオオスズメバチの襲撃期の最盛期に入っているので
[ 幾らか西洋蜜蜂を襲撃しているな ]
と予想し、身支度をして蜂場に入った途端に言葉を失った。
私の西洋蜜蜂蜂場は北東の角から蜂場に入るようになっている。そしたらその角にある西洋蜜蜂巣箱とその隣の巣箱を大量のオオスズメバチが襲撃していた。粘着紙に接着したものやスズメバチ捕獲器に入ったものを含め数えると、最終的にオオスズメバチ約 130匹による襲撃だった事が判った。
さすがにオオスズメバチ 130匹による襲撃というのは強力で、襲撃中のオオスズメバチを処理したくてもすぐには近寄れなかった。なぜなら 50匹ものオオスズメバチが 2つの巣箱周りを飛び回っており、離れている私にも威嚇してくるほどだったからだ。それにオオスズメバチの巣を捕獲に向かう時とは異なり、蜜蜂の手入れに向かう時には防護服など携帯していない。私の場合には蜜蜂の手入れの時には、現在のように夏季~初秋の時期には上半身に Yシャツ様の透けて見えるほど薄い作業服1枚を着ているだけで、蜜蜂用防護服のようなものは一切着用しないし携帯もしていない。それゆえに 50匹ものオオスズメバチが蜂場内を飛び回っている蜂場の中には入って行けなかった。
実はこの時、総勢 130匹のオオスズメバチは2つの西洋蜜蜂の蜂群(巣箱)を襲撃しているだけではなかったのである。2つの蜜蜂の巣箱の巣門前にて、オオスズバチ同士で大喧嘩をしていたのだった。オオスズメバチ同士が互いに追いかけ回し合い、空中で抱き合うようにしてつかみ合い、そのまま地面に落下してそこでも刺し合い、噛み合いの大喧嘩を繰り返していたのだった。まさにオオスズメバチの巣を麻酔をかける事なくそのまま捕獲している時のような光景であり、防護服の持ち合わせが無かったものだから恐ろしくて近づけなかった。
それでもそのまま放置したのでは西洋蜜蜂2群が全滅してしまうので、蜂道具箱に常備している粘着紙を2枚取り出してきて蜂場内にある板を2枚どうにか取って来てここへ取り付けた。木を切って直径4cmほどの木の棒を作り、この棒で地面に置いた粘着紙・板を襲撃中の蜜蜂2群の巣門付近へ滑らせ押していった。
10分ほどで多くのオオスズメバチがスズメバチ捕獲器に入ったり粘着紙に接着したので、すぐに普通に蜂場内へ入れるようになった。用事があったのでそのまま放置し、オオスズメバチ襲撃の処理をするために5時間後に蜂場へ戻ると、今度は別の蜂群にオオスズメバチが群がって襲撃していた。それでも多くの襲撃蜂を捕獲した後で再び起きた襲撃なので襲撃蜂数は少なかった・・・が、被害は大きかった(涙)
この1件で、先人のプロ養蜂家が秋にこの地区に西洋蜜蜂を設置しない理由がとてもよく理解できた。だがスズメバチ愛好家の私としては別に動じることは無く、それはそれでこれまで見たことが無かったオオスズメバチの一面を観察できて勉強になった。
今回は、同時に2巣~3巣のオオスズバチの巣から大量に襲撃蜂がやってきたため、巣門前にて大喧嘩になっていたようだ。もっとも、オオスズメバチが仲間を呼ぶ際に使用する [ 餌場マークフェロモン(ファンデルフェヒト腺フェロモン)] は、同じオオスズメバチならば別群同士であっても同じように誘引されてきてしまうので、近距離に複数のオオスズメバチの巣があると今回のような事が起きやすいと考えられる。
同じような現象を紹介すると、同一蜂場内に複数の西洋蜜蜂をしくしている場合に、一つの蜂群が分蜂行動を開始すると他の蜂群が一緒に分蜂行動を開始する事がある。また、このような時に巣を出て蜂場の上空を飛行中の分蜂群が他巣の分蜂群と自然合同してしまう事が起きてくる。しかしながら女王蜂は分蜂球の中で殺し合いをしたり他群の働き蜂から攻撃を受けるので、全女王が死亡して [ 出戻り分蜂 ] になる事も起きてくる。蜜蜂の場合には [ ナサノフ腺フェロモン ] が集合フェロモンとして働くが、蜂群が異なってもナサノフ腺フェロモンは同じように作用するのでこのような事が起きる。
ちなみにスズメバチの仲間にある [ ファンデルフェフィト腺 ] と西洋蜜蜂・日本蜜蜂にある [ ナサノフ腺 ] は、いずれも尾部先端から数えて一つ目の体節にあるが、フェンデルフェヒト腺は下側にあり、ナサノフ腺は背面側にあるという違いがある。下側と背面のように幾らか分泌腺の場所は異なるが、同一の体節にあるのでもともとは同じ器官から進化した分泌腺なのであろうと私は予想している。
ちなみに襲撃された 3群は無事だったが、外勤蜂など威勢の良い蜂をある程度の数で噛み殺されてしまった。だが巣内にはまだ多くの成蜂が存在し、蜂児量も大量に抱えているので問題は起きなかった。加えて大量の貯蜜を貯め込んでいるので、ちょうどアレチウリ超大量流蜜が明後日あたりにも始まる時期であるため、越冬貯蜜量への不安も不要だ。
オオスズメバチの襲撃について
[ 弱い蜂群が狙われて集団攻撃を受けやすい ]
という言い方をしている養蜂家がとても多い事に驚く。確かにそのような話を耳にするとそのまま納得してしまいそうな話だが、実はオオスズメバチが集団攻撃目標にする西洋蜜蜂蜂群は、蜂群規模の大小(強群弱群の別)とは無関係であり、蜂場に吹いた風の最も風下にある蜂群や蜂場内にあるクヌギやケヤキなどの目立つ木の横にある蜂群、複数列並べて蜂群を設置している場合には外側の角あたりにある蜂群などが狙われやすい。また、巣箱位置の特徴にかかわらず、たった1匹のオオスズメバチがファンデルフェヒト腺フェロモンを塗布した時点で、直後からフェロモン塗布した巣箱が集団攻撃目標になったりしている。ただ、小群過ぎたり蜂病で調子を崩している蜂群では貯蜜が発酵していることがあり、このような場合には最初からその発酵臭がオオスズメバチを誘引しやすいなどの条件になってしまっている。