空へ、望む未来へ ⑨ | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

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嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

 三日後、二人の幼い兄弟は椎名と共に病院を出た。そして、智がいつも窓から見ていた建物に向かった。小さな森の遊歩道を抜けると、目の前に五階建の四角い建造物が現れた。


智は駆け寄って余計な装飾のないシンプルな両開きのガラスのドアの前に立った。
「ここは、何?」
潤が後を追い、ドアを覗きこむ。
「ここは、これからお前たちが暮らす場所だ」
「…マンション?」
「でもあるが、学校でもある」
「学校?」
「窓から子供が見えただろう? あの子たちもみんなここで学んでいる。そして、ここに住んでいる」
「へぇ…」

智は良くわからないまま建物を見上げた。静かだった。
通っていた小学校はいつもざわめいていた。話し声、笑い声、泣き声、先生の怒鳴り声、廊下を走る足音、チャイム、校内放送、様々な音が融合し、学校特有のBGMを作りあげていた。


 だが、椎名が学校と呼んだこの建物からは、何の音も聞こえない。
(きっと、皆一生懸命勉強してるんだ)

同級生に、中学受験を念頭に置き、毎日塾通いをしている子がいた。その塾の前を通った時、覗いた窓からは物音一つせず、皆が一心に机に向かっていた。
(きっと、あんな所なんだ。どうしよう。勉強、いやだな)
智が顔をしかめていると、
「行くぞ」
 と、椎名がIDカードを認証装置にかざした。データを読み取ったドアが左右に開く。


 智と潤が足を踏み入れた場所は不思議な空間だった。小学校の体育館の半分程の広さの半円形のエントランスホールに人影はない。バランス良く配置されたソファーとテーブルは淡いブラウンで統一されていて、壁には絵画が飾られている。調和のとれた落ち着いた雰囲気は、ホテルのロビーのようにも見える。


視線を上げると、壁と天井の繋がる位置に監視カメラが一定の間隔を置いてぐるりと設置してあり、フロアー全体をを余すところなくカバーしていた。訪れた三人の姿を、各々が意思を持っているかのような三台のカメラのレンズが追っている。まるで、見慣れぬ者達に何らかの警告を発しているようだ。

「ここは本当に学校?」
思わず口に出して尋ねた。自分の持つ学校の記憶とあまりにもかけ離れている。
「そうだ。でも、普通の学校ではない」
「普通じゃないって、どんな?」
無邪気に見上げる智に椎名は、何と答えてよいか分からず、
「これから先生に会うからその時詳しく話を聞けるだろう」
とだけ答えた。

潤は一言もしゃべらず、ただ智の腕にすがっていた。左手には、ただ一つ残された両親との思い出となるおもちゃの剣を握りしめている。椎名は、それを取り上げることは出来なかった。すぐにその手から奪われてしまうことになるのだが。
 
三人は無言のままエレベーターで三階に上がり、スタッフルームと表示されたドアの前に降り立った。椎名は膝をついて二人の肩に手を置き、視線を合わせて静かに言った。
「ここから先は二人で行くんだ。お前たちがここで暮らすことは決定したことだ。しばらくは俺と会う事は出来ない」
「なぜ?」
智が不安げに問う。
「そういう決まりだ」
そう答えるしかなかった。
「いいか、智。お前は兄貴だ。潤が頼る者はお前しかいない。潤の前で決して弱音を吐くな」
(何かあったら…)と喉まで出かかったが、言葉を飲み込んだ。智はそんな椎名を黙って見ていた。椎名は潤に向かい、
「お前はまだ小さくて難しい事は解らないだろうが、お兄ちゃんの言うことをよく聞くんだぞ。お兄ちゃんはお前がいるから、色んな事を頑張れるんだからな」
と頭を撫でた。潤は小さく頷いて、
「どれ位経ったら、お父さんとお母さんに会えるの?」
と呟いた。瞬いた目から涙が溢れる。椎名は言葉に詰まった。智が横から、
「潤、二人ともたくさん怪我をしたんだ。だから、まだいつ会えるか分からない。僕たちがここでいっぱい勉強して元気にしてたら、きっと会えるよ」
と潤の手を取った。そして、椎名の目を正面から見つめ、
「じゃ、行くよ。中に入れば誰かがいて、どうすればいいのか教えてくれるんでしょ?」
と静かに言った。
「…ああ」
二人は椎名の両肩に顎を乗せ、精一杯の力で抱きしめた。そして、
「先生、また会えるよね。僕たち頑張るから、絶対会いに来てね」
「約束だよ」
と微かに震える声で囁いた。
「…分かった。ひと月過ぎたら必ず来る」
椎名の言葉を聞いて智はその腕を解いた。
「行こう、潤」

二人は椎名が開いたドアの中に振り返る事なく入っていった。目の前で閉じられたドアは、智の悲壮な決意ごと二人の姿を飲み込んだ。椎名は自分の手を見つめた。この手がこのドアを開き、二人を非情な世界に送り出したのだ。拳を握り締めたまましばらく動けずにいた。


ようやく立ち上がり歩き出した椎名の表情からは何も読み取れなかった。だが、その背中は智と同じく、悲壮感で溢れていた。
 
  続く…。