空へ、望む未来へ ⑩ | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

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嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

中に入った智たちを笑顔で迎えたのは、椎名と同年代の男だった。二人を見ると、

「やぁ、智君と潤君だね。こんにちは。僕の名前は沢木、今日から君たちの担当になった。よろしく」

と肩に手を置いた。智は椎名の手の温もりが消えてしまいそうな気がして少しだけ身を捩った。

「これから、沢山の事を説明するけど、全部覚えなくても僕の言う通りにしておけばいい。ついて来て」

と前を歩く。


沢木の後を追いながら周りを見ると、たくさんの机が並び、多くの人がいて、その様子はまるで学校の職員室の様だった。違うのは、やはりここも異様に静かなところだ。

パソコンのキーを叩く音、電話の話し声、決して無音ではないのだが、すべてが無機質で、まるでロボットが発する機械音のようだっだ。智は思わず目をこすった。前を歩く沢木までもがロボットに見えた。

『1』と書かれた小部屋に入ると、沢木は小さな机をはさんで二人の前に座り、笑顔で話し始めた。

「ここは、今までの学校とは違って、普通の勉強だけをするところじゃないんだ。君たちのご両親は国を守る仕事をしていたって知っているね?」

智が頷く。潤は黙って智に体を寄せていた。

「君たちは、ご両親の後を継ぐんだ。二人ともとても優秀な隊員だった。調べたところによると、君たちにはものすごい力がある。きっとご両親よりすごい正義の味方になれるよ」

最後の言葉に潤が反応した。

「正義の味方? ヒーローっていうこと?」

「ああ、そうだよ。たくさん勉強して、たくさん訓練すれば最強のヒーローになれる」

沢木が張り付いた仮面のような笑顔で答えた。

「ほんと? そしたら、お母さんたちに会いに行ける?」

智はドキッとした。この人が本当のことを言ってしまったらどうしようと顔が強張った。だが、

「ああ、行けるさ。ヒーローになったら、何だって出来るよ」

沢木は両手を広げ、オーバーな仕草で答えた。智はほっとした。同時にこの男を大嫌いになった。潤の質問に言葉を詰まらせた椎名の顔がふいに浮かんだ。

「だから、頑張ろう。君たちはここで暮らすしかないんだからね」

沢木は作り物の笑顔の最後に氷のような冷笑を重ね、智たちに選択肢のない事をさりげなく知らしめた。


その後、カリキュラムについての説明を始めたが、言葉が難しい上に、口調を変えた抑揚のない平坦な声に、智はただ頷くだけだった。それが全てを了承したという事なのだろう。沢木は最後に智に三枚ほどの書類に署名をさせた。それを確認して立ち上がると、

「さぁ、教室に行こう。全部揃っているから何も持っていく必要はないよ。あ、それは僕が預かろう」

と、潤の手からすばやく剣を取り上げた。

「だめ、返して!」

驚いて潤が叫んだ。

「いや、だめだ。他の子が欲しがったら困るだろう? おもちゃはあるからこれは僕がしまっておいてあげるよ」

と、ドアを出た。智は後を追い、

「お願い、返して。それはお母さんにもらった大事な物なんだ」

と腕を掴んだ。だが、

「それなら、尚更だよ。失くさないように保管しておこう。いいね?」

と、するりと智の手を振りほどいた。見下ろすその目は冷やかで、それ以上何も言えなかった。智は、

「大事にしまっておいてくれるって。な、他の子に取られちゃうよりはましだろ?」

と泣きじゃくる潤をなだめるしかなかった。潤は、智に手を引かれ、

しゃくりあげながらも、トレーナーの中のペンダントだけは取られまいと、胸を押さえて歩いた。

スタッフルームを出て通路をしばらく歩き、沢木はグリーンのドアの前で立ち止まった。振り向いて、

「潤君、ここが君の教室だ。中に君と同じくらいの年の子が五人いる。さっそく勉強を始めてみようか」

と、ドアをノックした。

「はーい」

ドアが開いた。顔を出したのは、ぽっちゃりとした明るい笑顔の中年の女性だった。潤に気づくと、

「こんにちは、潤君ね。待ってたのよ」

と言ってしゃがみ、

「私の名前は、梨田桃子。おいしそうな名前でしょ? 今日から一緒にお勉強することになりました。よろしくね」

と潤の肩をきゅっと抱いた。久しぶりの母のような柔らかい温もりに、潤は思わずその丸い背中に手を回した。梨田はそのまま潤を抱き上げ、

「お兄ちゃんの智君ね。よろしくね。潤君はしばらくここで遊んでいるから、大丈夫よ。沢木さん、もういいですよ」

梨田は沢木が何か言おうとするのを遮り、もう一度智に微笑みかけると潤を抱いたまま、ドアを閉じた。沢木は、

「…まったく、いつもマニュアルを無視して!」

と苛立たしげに舌打ちした。


「さ、君の教室へ行こう」

再び歩き出し、ブルーのドアの前で立ち止まった。
「ここが、君の教室だ」
ドアを開けたのは若い男性だった。智を見ると膝を折り目線を合わせた。
「始めまして、智君。僕は木村って言います。名前は、タケル。よろしくお願いします」
智の右手をとり握手をした。微笑んだ顔が清々しかった。
「さ、入って。皆に紹介しよう。沢木さん、もういいです。ありがとうございました」
「あ、木村先生、少しお話が」
「後でお聞きします。今は授業中ですので」
木村はきっぱりと言うと智を中に入れた。
「では、失礼します」
再び目の前でドアを閉められ、沢木は張り付いた笑顔を本来の顔に戻すと、悪態をつきながら戻って行った。

 教室の中には同じ年頃の男の子が8人いた。木村は皆の前に智を連れていくと、

「今日から新しく仲間になる智君だ。仲良くしてください。さ、自己紹介しようか」

戸惑う智に、

「名前と年だけでいいよ。そのうちにいろんな話をするようになるだろう」

木村は優しく肩に手を置いた。智は頷いて教卓の前から皆の顔を見渡した。全員が興味深げに智を見ている。だが、一番後ろの席の一人だけは窓の外に目をやり、前を見ようともしない。頬杖をついたその姿は教室の中で一人だけ浮いているように見えた。



続く…。