★去年の日記をブログにしてみる試み⑨




2024.11.某日 晴れ 
【早稲田大学会津八一博物館「館仏三昧Ⅱ」】
早稲田大学の会津八一博物館で行われている会津八一の集めた仏像展「館仏三昧Ⅱ」に行ってきた。

・早稲田大学
早稲田は、全く用がないので初めて来る。
方向音痴なのでグーグルマップの位置情報に従って歩いてゆくと、どこまでが敷地なのかいまいちよくわからない感じで早稲田大学の建物のいくつかが集まっているゾーンに入り込む。会津八一博物館は、そこからすぐの所だ。しかし、会津八一博物館の入口がわからなくて裏に回り込み「ここか!」と思って東博の庭(?)にもある韓国の石の羊像が狛犬のように囲う市役所や病院の裏口のような小さな入口を入るが、明らかに学生さん勉強中!お静かに!感が漂う、部外者立ち入り厳禁っぽい読書ルームしかない。うぇ〜、うわぁ〜…と思いつつ来た道を戻る。ふといい香りがして振り向くと、ギンモクセイが植えてある。キャンパスっぽいイメージ(?)の大通りを行くと、会津八一博物館の正面入口がある。入ると受付があるが、入館無料で自由なので「いらっしゃいませ」と言われるだけでとくに何の提示もいらない。フロアガイドの見方がよくわからず2階に行くが焼き物の展示らしいので1階に戻る。奥の部屋へ進むと近代彫刻家の天部像や女性像などがあり、向かって左側の部屋でお目当ての「館仏三昧Ⅱ」が開催されているようだ。展示目録を取り、展示室に入ったら、展示目録が英語のやつで、日本語verを取り直す。つくづく怪しい行動しかしない奴だな自分。

●館仏三昧Ⅱ
・本物志向
法隆寺金堂釈迦三尊像の光背の拓である。国宝の魚拓を取っていたなんて今では考えられない。思ったよりもかなりデカい。そして模様は繊細。薬師如来じゃないのに化仏は7体。化仏の格子状の小さな螺髪まで見える。お隣は、これも今では考えられない、救世観音の顔の石膏。顔の型を取り、そこに石膏を流し込んで作られた救世観音の顔の複製品。型取りだからなのか表情がまろやかに見える。目も、実仏を堂外から拝んだ時ですら元像はギョロッとして目ヂカラがすごいが、この顔型は百済観音くらい、あるいは興福寺の阿修羅くらい柔らかくぼやっとしている。さらにお隣は国宝第一号、広隆寺宝冠弥勒菩薩像の顔型。救世観音は張り子のお面のようにつるっとしていたが、こっちは型を分割したのか顔中に大きな線が走っている。弥勒菩薩像にはもう十年以上お会いできていない。う〜ん、こんな大きかったっけ?という感じ。近いとなんでもデカく見える。会津八一先生は、本物志向というか実物志向だったようで、石膏型や拓本なども「実物を思わせるもの」として重視したようだ。当然といえば当然だろう。大学で学ぶことの利点はもちろんこの道何十年のプロの講師から直接学べることもそうだが、何より一次資料にあたれるツテを持つことだろう。在野がなんやかんや言おうとも、結局一次資料を間近で観察したり触れることは叶わない。嗚呼、権力と金が欲しい…。本当に必要なのは知能のほうだが…。いやしかし、下々の者にも「実物を思わせるもの」あるじゃないか!例えば、寺社仏像修復時の旧材入のお守りとか、御神木入のお守りとか!そういう感覚?なのだろうか…?

・鳥追観音の謎を解け!
で、正面ガラスケース。
なんと、そこにはこの間の福島旅行(11.某日)で拝観した鳥追観音(如法寺)の三十三応化身のうち6体が並んでいらっしゃるではないか!そういえば、如法寺のトイレの横にこの、ちょうど目の前にいらっしゃる三十三応化身の写真とともに「どなたか、これと似ている仏像を知りませんか?33体の中、あと6体を探しています!!」という張り紙があった。最近仏像盗難が全国的にも増えているので、もしかして盗難?と思っていたが、ネットで調べるかぎり如法寺の仏像が盗難に遭ったという記事はない。如法寺の公式サイトから会津八一博物館に仏像が存在することを知らせるべきなのか?とも思ったが、「この仏像」ではなく「似た仏像」というのが引っかかり再びネットで調べたところ、面白いブログ記事を見つけた。これを読むと、全ての謎が融解する。
『「インターネットで日本彫刻史研究が少し進んだ話」現在新潟で仏像文化財修復工房を営む松岡誠一(仏像文化財修復工房)さんの2023.09.19のブログ記事』だ。内容を要約すると、「会津ころり三観音」のポスターを見た松岡さんが「弘安寺中田観音と恵隆寺立木観音は重要文化財指定なのに、なぜ南北朝時代の仏像に見える如法寺の鳥追観音は重要文化財ではないのだろう?」と思い如法寺を訪ねたのがことの始まり。如法寺を訪ねた松岡さんは観音像が南北朝時代のものであると確信し「機会があったら調査させてください」と申し入れ、2017年に調査開始となると前立本尊である観音像だけではなく三十三応化身も調べることに。その情報をツイッターに呟いたところ、愛知県の大学の先生から「私が論文に載せた仏像(会津八一博物館のもの)が如法寺仏像と一具だと思われます」と連絡をもらう。仏像の内部を調べたところ、製作年代などの墨書を見つけ晴れて一具だと判明した、というのが事の顛末。そして、如法寺のものと会津八一博物館のものを合わせても三十三応化身としては6体足りないため「似ている仏像」を探しているという話なのだ。私はこの間会津の如法寺に行ったばかりだし、今回は如法寺の三十三応化身がいらっしゃるとは知らずに早稲田を初めて訪れた。もし縁があるならば、残りの6体にも近々巡り会えると嬉しいのだが。

・その他の仏像
平安時代の菩薩像。一木造で、衣紋の彫りが浅くおとなしい表現だから平安時代後期っぽい。腕は欠失しているが膝を曲げたポーズだし、日光月光か観音勢至のどっちかっぽい。黒石のガンダーラ仏もいらっしゃる。彫りの深い目元、はっきりとした二重瞼、ウェーブした髪。日本や中国では武道の達人は腹式呼吸によって丹田に力を込めるために腹がぽっこり出ており、日本の金剛力士なんかも筋骨隆々でも腹は出ているが、ガンダーラ仏の、この厚い胸板に括れた腹などギリシャ彫刻の影響が強く、身体感が西欧のそれだ。エンジェル?のネックレスや、獅子の耳飾りをしているのも面白い。

・近代絵画コーナー
ついでに近代絵画コーナーも見る。ここは撮影禁止。抽象画が多くてよくわからない。わざと幼児のクレヨン画のように描かれた作品など、作者はどういう思いでどのようにして描いたのだろう。奥村土牛の鉛筆のクロッキーで猫を描いたものがあり、広い額やむにゅっとしたマズル、背中の盛り上がり具合など猫の可愛らしさがよく描けている。レオナール・フジタの自画像と猫の絵もあった。他に、彫塑でハトのブロンズ像とわりとベチャっとしたカラスのブロンズ像もあった。

・陶磁器の展示
2階は陶器の展示。黄瀬戸の茶碗。あまり黄色くない。細かな貫入がきれい。隣のぐにゃっと曲げた黒織部の茶碗が良い。ダイヤ型紋様をザッと描いてて清々しい。隣の同じく織部の取手付き水差しも、三角紋様をザッと描いていてモダンな感じがする。ガラスケースにスマホをあてて写真を撮っていたら、ガラスケースに触らないでください、と学芸員に注意されてしまった…。赤絵の皿や染付の皿なども見る。きれい。ゴージャス。釜の中で潰れてしまった薩摩焼の急須(土瓶)が面白い。四点の土瓶を幾重にも重ねて焼く時に失敗して潰れてしまったもので、パネルでその工程が説明されている。

・犬か狼か
キャンパス敷地内に、先ほどから「考古学資料展示中」といった看板があって気になっていたので、そこに行く。大きい道を出ると正面に西洋風の建物(大隈記念講堂)があって、空に向かって聳える姿が清々しくいい感じなので写真を撮る。一応リュックに折り畳み傘を入れて来たが、アスファルトは雨の降りたてくらいには濡れているのに空は晴れて薄い青色だ。女性が、和犬とも洋犬ともよくわからない、柴犬でも甲斐犬でも秋田犬でもないシェパードを薄茶色にしたような犬を散歩させている。ニホンオオカミってこんななんだろうなぁ〜などと思いながら犬を盗み見る。

・大隈記念タワー
展示室は10階。
狭い展示室だが、いろいろなものが展示されている。
中国の銅鏡、埴輪、エジプトのレリーフや位牌、パプワニューギニアの精霊の像、アイヌの法被や剣や青いガラスの首飾り、縄文土器や土偶、弥生土器。銅鏡は、小ぶりのものだが三角縁神獣鏡のように霊獣や文字が鋳造されていてかっこいい。エジプトコーナーには、「世界ふしぎ発見」でお馴染みの吉村作治教授の発掘の経緯や、写真、ミニサイズの王族像は色も鮮やかだ。この王族像は日本で言うとこの位牌のようなもので、大きさも位牌によく似ている。パプワニューギニアの精霊の像は1m以上ある大きなもので、全て木製。顔を凹ませて、鼻だけ飛び出させるなど立体感があり面白い。弥生土器は、薄く作られているのでかなり割れていて立体パズルのよう。虫が粘土に押し付けられて穴が開いたまま焼かれた土器があり、虫の形がそのまま残っている。テントウムシかハムシだろうか。縄文土器は弥生土器より肉厚で、平たい椀にも紋様があり、縄を転がした紋様がついている。

・薄紫の空の下で…
帰り道では、講義や部活を終えて帰る若い学生たちがぞろぞろ歩いている。この子たちは全員頭いいのだろう…貧しい人や高卒や知能指数低い人を見下さない大人になってほしい。愚かな人の愚行は止めてほしいが。早稲田大学の校門に続く道にはちょっとお洒落な街灯がライトアップされて並んでいて、薄紫に染まる空に浮かび上がる。道の両脇には帰る学生を引き止めるようにたくさんの料理屋が並んでいて、美味しそうなにおいが漂っている。

・穴八幡宮
穴八幡宮に寄る。
もう日が落ちたので真っ暗だ。大きな門はライトアップされて鮮やかな朱色に光っている。参拝をしているサラリーマン三人組がいる。社務所で滑り込みでお守りを買う。袋は別売なのを知らず中身だけ買った。社務所の人たちはもう終わりらしく、すぐに帰りたそうだった。「財布以外に入れてお持ちください」と言われた。「穴」八幡宮だからなのか。境内は夕闇に包まれている。階段を下りて通りにでると、街明かりと行き交う人々でまだまだ賑やかだ。早稲田は夜が遅い。