東京国立近代美術館で開催中の「下村観山展」へ行って来ました。
下村観山は、紀伊徳川家に代々仕えた能楽師の家に生まれ、狩野芳崖、橋本雅邦に学んだのち、東京美術学校に第1期生として入学しました。
卒業後は同校で教鞭を執りましたが、校長の岡倉天心とともに辞職、日本美術院の設立に参加し、天心の指導のもとで横山大観、菱田春草らと新時代に相応しい日本美術の道を切り拓きました。
本展は2部構成で、まず第1部では、観山の代表作により画業を通観し、その魅力に迫ります。
そして第2部では、日本の古画や中国絵画の研究成果、本人のルーツである能を主題とした絵画制作、そして時の政財界人とのサロンのようなネットワークにもスポットを当てています。
展覧会の構成は以下の通りです。
第1部 画業をたどるー生涯と芸術
第1章 若き日の観山(1873-1902 誕生・上京〜修行時代〜日本美術院への参加)
第2章 西洋を識る(1903-1905 イギリス留学)
第3章 飛躍の時代(1906-1913 帰国〜日本美術院再興前夜)
第4章 画壇の牽引者として(1914-1930 日本美術院再興〜死没)
第2部 制作を紐解くー時代と社会
第1章 何をどう描いたかー不易流行
第2章 なぜこれを描いたかー日本近代と文化的アイデンティティ
第3章 作品の生きる場所、作品がつなぐもの
第1部は、観山の画業を年代順に追う構成で、幼少期から晩年までの作品を体系的に提示しています。
観山の作品を特徴づけるのは、細部に宿る異様なまでの密度と、画面全体に漂う軽やかさの共存です。
一方で、そうした細密さにも関わらず、画面は重たくならず、むしろ「透けるような」静けさを保っています。
下村観山(1900)《日・月蓬莱山図》静岡県立美術館
修行期の観山作品は、《闍維》などに見られるように、すでに物語性と劇性を強く意識した画面構成が成立しているのが特徴です。
下村観山(1898)《闍維》横浜美術館
代表作《弱法師》においては、物語性を強調するのではなく、時間がゆっくりと流れるような空気が支配しており、鑑賞者は「絵を見る」というより、その空間に入り込む感覚を覚えます。
第2部では、年代ではなく「問い」で再編されています。
観山作品の画題や図像については、日本美術院再興後の作品においてでさえ、一見伝統的と言えるものが多い。
このことをもって観山芸術を保守的ととらえる見方もありますが、先人の作を比較すると、観山画には明らかにそれらをアレンジした跡が見受けられます。
下村観山(1915頃)《寿星》福井県立美術館
また、注目作として《大原之露》をあげることができます。
本作は『平家物語』に由来する「大原御幸」が主題。
平家滅亡後、建礼門院が暮らしていた大原寂光院へ後白河法皇が訪れる場面を描いています。
何も知らされておらず、戸惑う二人の心情が感じ取れます。
下村観山(1900)《大原之露》茨城県近代美術館
本展には、大観のような「破壊による創造」の派手さはありませんが、静謐な画面の奥に潜む思考や実験性が感じられます。
繰り返し見るほどに深みが増すーーそんな”遅効性”の魅力を持った展覧会であり、日本画の近代を見直す上でも貴重な機会となっています。
会期:2026年3月17日(火)〜5月10日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
休館日:月曜日(ただし、3月30日、5月4日は開館)
開館時間:10:00〜17:00(金曜・土曜は10:00〜20:00)
※入館は閉館の30分前まで
主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、テレビ東京、BSテレビ東京
協賛:ライブアートブックス
特別協力:神奈川県立歴史博物館、横浜美術館
協力:Vixen、国立能楽堂
巡回情報:【会場】和歌山県立近代美術館
【会期】2026年5月30日(土)〜7月20日(月・祝)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)