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パラレル

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東京国立近代美術館で開催中の「企画展 下村観山展」でこれは、と思う作品、《春日野》の主観レビューをお届けします。

本作は、奈良の春日野を舞台にしています。

奈良では鹿は「神の使い」とされており、この絵は単なる自然風景ではなく、神聖で穏やかな世界を象徴しています。

 

上から垂れる蔓が鹿に視線を導きます。

また、曲線を多用しているため、優しい印象を受けます。

そして、朦朧体を使っていることも、その印象を強くします。

鹿の表情は穏やか、座っていることからもそれが分かります。

 

朦朧体は「優しさ」だけでなく、距離感・奥行き・夢幻性も作っています。

藤の繰り返しは、装飾的なリズムを生んでいます。

 

まとめると次のようになります。

奈良・春日大社の神鹿を描いた作品と考えられる。

上から垂れる藤の蔓が視線を鹿へと導き、画面全体に曲線が多用されていることで、柔らかく穏やかな印象を与えている。

さらに朦朧体によるぼかしが空気感と奥行きを生み出し、静かで神聖なのどかさを強調している。

鹿は穏やかな表情で座っており、安心感のある平和な世界が表現されている。

下村観山(1900)《春日野》横浜美術館

 

 

東京国立近代美術館で開催中の「下村観山展」へ行って来ました。

下村観山は、紀伊徳川家に代々仕えた能楽師の家に生まれ、狩野芳崖、橋本雅邦に学んだのち、東京美術学校に第1期生として入学しました。

卒業後は同校で教鞭を執りましたが、校長の岡倉天心とともに辞職、日本美術院の設立に参加し、天心の指導のもとで横山大観、菱田春草らと新時代に相応しい日本美術の道を切り拓きました。

 

本展は2部構成で、まず第1部では、観山の代表作により画業を通観し、その魅力に迫ります。

そして第2部では、日本の古画や中国絵画の研究成果、本人のルーツである能を主題とした絵画制作、そして時の政財界人とのサロンのようなネットワークにもスポットを当てています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1部 画業をたどるー生涯と芸術

 第1章 若き日の観山(1873-1902 誕生・上京〜修行時代〜日本美術院への参加)

 第2章 西洋を識る(1903-1905 イギリス留学)

 第3章 飛躍の時代(1906-1913 帰国〜日本美術院再興前夜)

 第4章 画壇の牽引者として(1914-1930 日本美術院再興〜死没)

第2部 制作を紐解くー時代と社会

 第1章 何をどう描いたかー不易流行

 第2章 なぜこれを描いたかー日本近代と文化的アイデンティティ

 第3章 作品の生きる場所、作品がつなぐもの

 

第1部は、観山の画業を年代順に追う構成で、幼少期から晩年までの作品を体系的に提示しています。

観山の作品を特徴づけるのは、細部に宿る異様なまでの密度と、画面全体に漂う軽やかさの共存です。

一方で、そうした細密さにも関わらず、画面は重たくならず、むしろ「透けるような」静けさを保っています。

下村観山(1900)《日・月蓬莱山図》静岡県立美術館

 

修行期の観山作品は、《闍維》などに見られるように、すでに物語性と劇性を強く意識した画面構成が成立しているのが特徴です。

下村観山(1898)《闍維》横浜美術館

 

代表作《弱法師》においては、物語性を強調するのではなく、時間がゆっくりと流れるような空気が支配しており、鑑賞者は「絵を見る」というより、その空間に入り込む感覚を覚えます。

 

第2部では、年代ではなく「問い」で再編されています。

観山作品の画題や図像については、日本美術院再興後の作品においてでさえ、一見伝統的と言えるものが多い。

このことをもって観山芸術を保守的ととらえる見方もありますが、先人の作を比較すると、観山画には明らかにそれらをアレンジした跡が見受けられます。

下村観山(1915頃)《寿星》福井県立美術館

 

また、注目作として《大原之露》をあげることができます。

本作は『平家物語』に由来する「大原御幸」が主題。

平家滅亡後、建礼門院が暮らしていた大原寂光院へ後白河法皇が訪れる場面を描いています。

何も知らされておらず、戸惑う二人の心情が感じ取れます。

下村観山(1900)《大原之露》茨城県近代美術館

 

本展には、大観のような「破壊による創造」の派手さはありませんが、静謐な画面の奥に潜む思考や実験性が感じられます。

繰り返し見るほどに深みが増すーーそんな”遅効性”の魅力を持った展覧会であり、日本画の近代を見直す上でも貴重な機会となっています。

 

 

 

会期:2026年3月17日(火)〜5月10日(日)

会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

   〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1

休館日:月曜日(ただし、3月30日、5月4日は開館)

開館時間:10:00〜17:00(金曜・土曜は10:00〜20:00)

   ※入館は閉館の30分前まで

主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、テレビ東京、BSテレビ東京

協賛:ライブアートブックス

特別協力:神奈川県立歴史博物館、横浜美術館

協力:Vixen、国立能楽堂

巡回情報:【会場】和歌山県立近代美術館

     【会期】2026年5月30日(土)〜7月20日(月・祝)

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

 

 

 

アーティゾン美術館で開催中の「モネ没後100年 クロード・モネー風景への問いかけ」展でこれは、と思う作品、《アルジャントゥイユの洪水》の主観レビューをお届けします。

本作は、モネがパリ近郊のアルジャトゥイユに住んでいた時期に描かれました。

1872年冬、雪解け水によってセーヌ川が増水し、町は洪水に見舞われました。

この実際の出来事が作品のモチーフになっています。

 

しかし、洪水という出来事を扱っているにも関わらず、地平線が比較的安定しており、構図が崩れていません。

通常、災害を描く絵は、斜め構図、強い動きなどでドラマ性を強調しますが、モネはそうしていません。

災害のドラマより、風景としての出来事を描いていると言えます。

 

また、空に垂直に伸びる木々が描かれています。

画面では、水平と垂直が対比されています。

この垂直線は、空間を安定させる、視線を止める、重心を保つ役割があります。

その結果、洪水という状況にも関わらず、自然の秩序は保たれているという印象が生まれます。

 

モネの特徴は、出来事を劇的に描くのではなく、光と空気の状態として観察することです。

そのため、画面は静かで落ち着き、均衡しているという雰囲気になります。

つまり、洪水という非常事態でも、自然は動じていないという読み方になります。

そこから、構図の安定が洪水とアンマッチに感じるのです。

クロード・モネ(1872-73)《アルジャントゥイユの洪水》石橋財団アーティゾン美術館