パラレル

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茅ヶ崎市美術館で開催中の「世紀末パリの煌めきーOGATAコレクションにみるミュシャ、シェレ、ロートレック」展でこれは、と思う作品、《サマリアの女》の主観レビューをお届けします。

本作の題材は、『新約聖書』ヨハネによる福音書4章の「井戸のサマリアの女」の物語です。

イエスは旅の途中で井戸にいたサマリアの女性に水を求めます。

二人の対話を通して彼女はイエスを救世主だと信じ、その教えを人々に伝える存在になります。


足元には、物語の舞台となる井戸で水を汲むための水瓶が置かれています。

その水瓶からは、星のようなモチーフが曲線を描きながら広がり、画面全体へと流れ出しているように見えます。

これは、イエスが語った「命の水」や聖なる言葉が彼女の内面に広がっていく様子を象徴しているようにも読み取れます。


女性の頭部を囲む円形のモザイクは後光を思わせ、彼女がイエスとの出会いによって精神的な覚醒を遂げたことを暗示しているようです。

円周に並ぶ装飾的な文字も、宗教的な神秘性やリズムを生み出しています。


足元にうずくまる男性像は、苦悩や迷いを象徴する存在として見ることもできます。

これに対して中央の女性はイエスとの対話を経て精神的な光を得た姿として描かれており、両者の代表によって「救済」や「覚醒」が強調されているように感じられます。


アルフォンス・ミュシャ(1897)《サマリアの女》OGATAコレクション



茅ヶ崎市美術館で開催中の「世紀末パリの煌めきーOGATAコレクションにみるミュシャ、シェレ、ロートレック」展でこれは、と思う作品、《メディア》の主観レビューをお届けします。

「メディア」はギリシャ神話の悲劇です。

主人公メディアは、夫イアソンに裏切られた復讐として、自らの子どもたちを殺害するという衝撃的な物語です。

本作は、その悲劇の直後を思わせる緊迫した瞬間を描いています。


メディアの目は大きく見開かれ、理性を失った興奮や極限の緊張状態を思わせます。

子殺しという悲劇を犯した直後の精神状態が、その視線に凝縮しているように感じられます。


腕に巻き付く蛇は、邪悪な知恵や魔性を象徴する存在として読むことができます。


頭部の背後には後光を思わせる円形が配置されています。

しかし、その中心は明るく輝くというよりも曇り、暗く沈んでいるように見えます。

そのため、神聖を示す後光ではなく、メディアの運命や混迷、不吉な未来を暗示する光として感じられます。


頭部から放射状に伸びる鋭い意匠は、女性らしい曲線ではなく、攻撃性や権力を思わせる直線で構成されています。

そのため、男性性や暴力性を象徴しているようにも感じられ、手にした短剣と呼応してメディア自身が「加害者」となった姿を強調しているように思われます。


アルフォンス・ミュシャ(1898)《メディア》OGATAコレクション


茅ヶ崎市美術館で開催中の「世紀末パリの煌めきーOGATAコレクションにみるミュシャ、シェレ、ロートレック」展へ行って来ました。

19世紀末、パリは「ベル・エポック(美しき時代)」と呼ばれる文化の黄金期を迎えました。

産業の発展を背景に、美術、舞台芸術、音楽、文学など多彩な文化や芸術が花開き、市井の人々と芸術がかつてなく近づいた時代です。

その中で、装飾芸術、特に流麗な曲線や植物文様を特徴とするアール・ヌーヴォー様式が台頭します。


本展では、OGATAコレクションより、ミュシャやジュール・シェレ、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックをはじめとするポスター芸術の礎を築いた巨匠たちの作品を紹介しています。


1881年にフランスで「出版の自由に関する法律」が成立すると、街中にポスターを掲示することが解禁され、パリの建築の壁面は一気に色彩に溢れました。

ポスターは単なる「広告」にとどまらず、美術館に行けない市井の人々が日常の中で触れられる「街頭のギャラリー」としての役割を果たすようになりました。


19世紀末、大女優サラ・ベルナールの舞台ポスター《ジスモンダ》を手掛けたことで、ミュシャの一大ブームが巻き起こります。

縦長の画面、ビザンティン風のモザイク輪郭、そして優美な曲線美が特徴です。


アルフォンス・ミュシャ(1899)《桜草》OGATAコレクション


OGATAコレクションの真骨頂は、大判のポスターだけでなく、ミュシャが手掛けた日常の商業デザインまで網羅している点にあります。

「すべての生活用品に美を」というアール・ヌーヴォーの理念が、ミュシャの仕事を通じていかに社会へ浸透していったかを体感することができます。


ジュール・シェレは「ポスター芸術の父」と呼ばれる存在です。

彼以前の広告は文字中心でしたが、シェレは躍動する人物と鮮やかな色彩で、ポスターを芸術の域に引き上げました。


シェレの女性たちは、当時のパリに広がり始めた新しい女性像を象徴しています。

コルセットに縛られた存在ではなく、自由に踊り、笑い、街を楽しむ姿が描かれています。


アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、モンマルトルのキャバレーやダンスホールに通い詰め、そこで働く踊り子や歌手たちを描きました。

ロートレックは人物を美化しません。

疲れた表情や癖のある仕草まで描き込み、華やかな夜の裏側にある人間の孤独や生活感をにじませています。


本展は、グラフィックアートの歴史を振り返る展示でありながら、現代における「デザインとアートの堺目」について心地よい思索を促してくれる質の高い展覧会です。


ミュシャの華麗さ、シェレの躍動感、ロートレックの鋭い人間描写。

それぞれの個性を比較しながら鑑賞することで、世紀末パリが単なる「美しい時代」ではなく、新しい芸術表現が次々と生まれた創造の時代だったことを実感することができます。





会期:2026年6月17日(水)〜8月23日(日)

会場:茅ヶ崎市美術館 展示室1・2・3

       〒253-0053 神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45

休館日:月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)

開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)

主催:茅ヶ崎市美術館(公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団)

協力:OGATAコレクション、OZAWAコレクション、株式会社尾形企画