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パラレル

美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

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ヤオコー川越美術館で開催中の「三栖右嗣 「今を生きる」 画家は画面の向こうに在る その神秘を追い求めた。」展へ行って来ました。

生涯を通して「いのち」をテーマに描き続けた画家・三栖右嗣。

優れた写実力だけでなく人生の瞬間を深く捉え、温かく人間味あふれる表現で、時を超えて今、観る者の心に静かに響きます。

本展は、人物画を中心に秋、冬を感じる作品と共に展示しています。

三栖右嗣(1980)《中国 少女》

 

三栖の絵画は写真のような写実性を備えつつ、単なる「精密再現」にとどまりません。

対象の表情、光の扱い、筆致の一つひとつが、「生きている瞬間」を捉えようとする画家の意志を感じさせます。

三栖右嗣(1975)《かもめとキッツォ爺さん》

 

本展では、人物画だけではなく、風景や花の作品も並びます。

三栖は「終わりかけているもの」に美しさを見出したと言われていますが、枯れゆく花や厳しい冬の光景の中にも、次に繋がる強靭な生命のエネルギーが感じられます。

三栖右嗣(1991)《冬野》

 

また、伊東豊雄氏が設計した美術館の建築そのものも、本展の重要な要素です。

天井のユニークな開口部から注ぐ自然光が、作品に柔らかな表紙を与えます。

展示風景より

 

静かさの中で深く作品と向き合える空間で、「生きること」の意味を感じてみませんか。

 

 

 

会期:2025年9月30日(火)〜2026年3月15日(日)

       月曜日休館、祝日の場合は翌平日

会場:ヤオコー川越美術館

       〒350-0851 埼玉県川越市氷川町109-1

 

 

今年もあとわずか。

毎年恒例の『日経おとなのOFF 2026 絶対見逃せない美術展』が日経BPから刊行されました。

美術ファンにとっては「師走の風物詩」とも言える一冊です。


『日経おとなのOFF 2026 絶対見逃せない美術展』(2025) 日経BP

 

本書は、2026年に日本国内で開催される主要な美術展を網羅し、一冊で年間の展覧会情報を俯瞰できるように構成されたガイドブックです。

その完成度は高く、随所にこだわりが感じられます。

例えば、「美術展カレンダー」は、毎月どの美術館で何が開催されているのかが一目で分かり、多忙な大人にとっての「旅の計画書」になります。

東京や大阪といった主要都市だけではなく、地方巡回スケジュールも明記されており、非常に実用的です。

 

また、注目展覧会をテーマ別・美術史的な流れに沿って紹介しています。

中でも話題性の高い展覧会として、ルーブル美術館所蔵のレオナルド・ダ・ヴィンチ《美しきフェロニエール》が出展される「ルーブル美術館展」や「アンドリュー・ワイエス展」などが大きく取り上げられている点が特徴です。

 

日本美術では、葛飾北斎・歌川広重を中心とした里帰り展、「ロックフェラー・コレクション 花鳥版画展」が取り上げられており、西洋・東洋双方の美術をバランス良く網羅されています。

 

本書は美術愛好家だけなく、これから展覧会巡りを楽しみたい人にも優しい編纂がなされたガイドブックと言えるでしょう。

常に手元に置いておきたい一冊です。

 

 

WHAT MUSEUMで開催中の「きみはうつくしい」展でこれは、と思う作品、《father》の主観レビューをお届けします。

高齢の父親が病院のベッドに横たわっています。

窓からは白いインクが垂れており、この世ではない、つまり死を感じさせます。

描かれた父は、威厳や理想化された父性を示す存在ではありません。

むしろ、老いや疲労、沈黙を帯びた身体として描かれ、そこには生の重さや不可逆的な時間の流れが刻み込まれています。

つまり、血縁や家族愛といった感情的物語よりも、人が「在る」ことの現実性を静かに提示しています。

 

しかし、どれほど写実的に描いても、記憶や関係性を掬い取った「その人」になることはありません。

写実によって、かえって人の不可解さが露わになるのです。

ここで描かれているのは「父の像」であると同時に、他者を理解しようとすることの限界、そしてそれでもなお描こうとする行為の誠実さです。

ここでも通底しているのは、「どうせなにもみえない」なのです。

諏訪敦(1996)《father》