パナソニック汐留美術館で開催中の「美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像」展へ行って来ました。
ユートピアは、イギリスの思想家トマス・モアの小説タイトルで、「どこにもない場所」を意味します。
同じくイギリスの社会思想家、ウィリアム・モリスは自著『ユートピア便り』の中で、暮らしと芸術の総合を唱え、今ここにある課題を見つめ、どこにもない理想を夢みています。
その理想が紹介された20世紀の日本でも、ユートピアは暮らしをめぐる課題と理想となりました。
本展では、美しい暮らしを求める20世紀日本のユートピアをたずね、当時の来るべき世界を振り返り、今日のユートピアを思い描く方法を探っています。
展覧会の構成は以下の通りです。
第1章 ユートピアへの憧れ 1849-1929
第2章 たずね求める 周縁、国外でのフィールドワーク 1917-1943
第3章 夢みる 都市と郊外のコミュニティ 1926-1949
第4章 試みる それぞれの郷土で 1919-1936
第5章 ふりかえる/よみがえる ユートピアのゆくえ 1958-1993
第1章では、西欧美術への憧れと共に、日本固有の暮らしや「民衆」の美しさを見直そうとした雑誌『白樺』の活動、そして柳宗悦による民藝運動などが紹介されています。
「理想の暮らし」を語る上での思想的基盤を鑑賞できます。
第2章は、近代化が進むなかで伝統的な暮らしや民俗文化を記録しようとしたフィールドワークがテーマです。
近代化する社会のなかで、農村・漁村等の人々の生活に根ざした文化を調査し、失われつつある生活文化を記録し、未来につなぐ役割を果たしました。
渋沢敬三自邸の屋根裏の博物館、「アチックミューゼアム」には、民族、民俗学研究者が集いました。
フィールドワークや蒐集、ミュージアムへの様々な考えや実践がある中で、立場や分野を越え渋沢がつないだ人脈から、「日本民族学博物館」構想が生まれました。
第3章では、関東大震災後の新しい都市/郊外の生活のあり方が描かれています。
蔵田周忠による住宅コミュニティや、立原道造の芸術家コロニー構想は、「郊外のユートピア」への実践例として紹介されています。
「社会の変化」と「日常生活の理想」が具体的な空間と結びつき、ユートピア観がより現実的に感じられます。
第4章では、郷土に根ざした「暮らしの美しさ」を実現しようとした実践が作品で表現されています。
山本鼎の農民芸術運動、竹久夢二やブルーノ・タウトの工芸・美術運動などの表現者が、地域文化と美意識を結びつけ、生活全体をアートと考えた実践例が紹介されています。
ユートピアが「遠い理想」ではなく、地域社会や人々の交流・実践から生まれることを感じさせる展示となっています。
第5章では、戦後の日本における新しい理想空間の探求や、これまでの実践が未来へどう繋がっていくかが示されます。
戦後復興のなかで生まれた建築・デザイン運動や、日常生活のさらなる美しさを目指す試みが提示されています。
ここでは、現代の私たちがユートピアをどう考えるのかを問うています。
本展は、単なる懐古趣味ではありません。
不確かな時代を生きる私たち現代人にとっても、「自分にとっての理想郷とは何か?」「どこに心の拠り所を置くのか?」という問いを投げかけてくれます。
「ユートピア=人間らしい暮らしのビジョン」を立体的に理解できる展覧会です。
会期:2026年1月15日(木)〜3月22日(日)
会場:パナソニック汐留美術館
〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
※2月6日(金)、3月6日(金)、20日(金)、21日(土)は夜間開館 午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)
休館日:水曜日(ただし2月11日と3月18日は開館)
主催:パナソニック汐留美術館
後援:一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会、港区教育委員会
企画協力:株式会社TNCプロジェクト
会場構成:GROUP