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パラレル

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パナソニック汐留美術館で開催中の「美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像」展で、これは、と思う作品、松本竣介(1941)《ニコライ堂の横の道》公益財団法人大川美術館蔵 の主観レビューをお届けします。

本作は、ニコライ堂の横の道を一人のシルエットの人物が歩いている風景を描いています。

また、樹木やニコライ堂の塔と十字架の垂直線がリズミカルに描かれています。

 

人物は小さく、黒いシルエットで、前傾気味に歩いており、不安や疲労、精神的重さを感じます。

 

季節は冬の夕刻と思われますが、完全な闇ではなく、まだ光が残ってるいます。

これは、希望が消えたのではなく、見えにくくなった状態を示しています。

 

また、ニコライ堂(ロシア正教会の聖堂ですが)から、キリスト教文化圏の米国と開戦し、敵対関係に入った事を意味しているのではないでしょうか。

しかし、敵国の象徴を告発するでも、敵国文化を賛美するわけでもなく、むしろ、切断されつつある精神的拠り所として描いていると思われます。

 

したがって、本作は、開戦を批判する政治画ではなく、開戦によって生じた精神的断絶と不安を都市風景に仮託して描いたと言えるのではないでしょうか。

 

パナソニック汐留美術館で開催中の「美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像」展でこれは、と思う作品、松本竣介(1943)《運河風景》石橋財団アーティゾン美術館蔵 の主観レビューをお届けします。

本作は東京の風景を描いた、一見すると無機質な都市風景です。

画面には、重厚な石橋、煙突や小舟が描かれており、人物は描かれていませんが、人の営みの痕跡は濃厚です。

 

色彩は、茶・灰を基調としており、抑制的です。

これは、戦時下の閉塞感や不安を直接的な描写ではなく、空気感として伝える役割を果たしています。

 

しかし、画面には電柱や煙突などの垂直線がリズミカルに描かれています。

水平に広がる運河や橋に対抗するように。

これは、「それでも生きよう」という意思を表しているのではないでしょうか。

ただし、露骨な生命讃歌ではなく、抑制された内向きな意思として。

 

芸術も国家に奉仕する事が求められた戦時下、個人の感情や疑念を表に出す事は困難でした。

松本はそのために、希望として掲げられる生ではなく、形を保つことによって示される生を描いたのではないでしょうか。

パナソニック汐留美術館で開催中の「美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像」展へ行って来ました。


ユートピアは、イギリスの思想家トマス・モアの小説タイトルで、「どこにもない場所」を意味します。

同じくイギリスの社会思想家、ウィリアム・モリスは自著『ユートピア便り』の中で、暮らしと芸術の総合を唱え、今ここにある課題を見つめ、どこにもない理想を夢みています。

その理想が紹介された20世紀の日本でも、ユートピアは暮らしをめぐる課題と理想となりました。

 

本展では、美しい暮らしを求める20世紀日本のユートピアをたずね、当時の来るべき世界を振り返り、今日のユートピアを思い描く方法を探っています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章 ユートピアへの憧れ 1849-1929

第2章 たずね求める 周縁、国外でのフィールドワーク 1917-1943

第3章 夢みる 都市と郊外のコミュニティ 1926-1949

第4章 試みる それぞれの郷土で 1919-1936

第5章 ふりかえる/よみがえる ユートピアのゆくえ 1958-1993

 

第1章では、西欧美術への憧れと共に、日本固有の暮らしや「民衆」の美しさを見直そうとした雑誌『白樺』の活動、そして柳宗悦による民藝運動などが紹介されています。

「理想の暮らし」を語る上での思想的基盤を鑑賞できます。

 

第2章は、近代化が進むなかで伝統的な暮らしや民俗文化を記録しようとしたフィールドワークがテーマです。

近代化する社会のなかで、農村・漁村等の人々の生活に根ざした文化を調査し、失われつつある生活文化を記録し、未来につなぐ役割を果たしました。

 

渋沢敬三自邸の屋根裏の博物館、「アチックミューゼアム」には、民族、民俗学研究者が集いました。

フィールドワークや蒐集、ミュージアムへの様々な考えや実践がある中で、立場や分野を越え渋沢がつないだ人脈から、「日本民族学博物館」構想が生まれました。

 

第3章では、関東大震災後の新しい都市/郊外の生活のあり方が描かれています。

蔵田周忠による住宅コミュニティや、立原道造の芸術家コロニー構想は、「郊外のユートピア」への実践例として紹介されています。

「社会の変化」と「日常生活の理想」が具体的な空間と結びつき、ユートピア観がより現実的に感じられます。

 

第4章では、郷土に根ざした「暮らしの美しさ」を実現しようとした実践が作品で表現されています。

山本鼎の農民芸術運動、竹久夢二やブルーノ・タウトの工芸・美術運動などの表現者が、地域文化と美意識を結びつけ、生活全体をアートと考えた実践例が紹介されています。

ユートピアが「遠い理想」ではなく、地域社会や人々の交流・実践から生まれることを感じさせる展示となっています。

 

第5章では、戦後の日本における新しい理想空間の探求や、これまでの実践が未来へどう繋がっていくかが示されます。

戦後復興のなかで生まれた建築・デザイン運動や、日常生活のさらなる美しさを目指す試みが提示されています。

ここでは、現代の私たちがユートピアをどう考えるのかを問うています。

 

本展は、単なる懐古趣味ではありません。

不確かな時代を生きる私たち現代人にとっても、「自分にとっての理想郷とは何か?」「どこに心の拠り所を置くのか?」という問いを投げかけてくれます。

「ユートピア=人間らしい暮らしのビジョン」を立体的に理解できる展覧会です。

 

 

 

会期:2026年1月15日(木)〜3月22日(日)

会場:パナソニック汐留美術館

   〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階

開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)

   ※2月6日(金)、3月6日(金)、20日(金)、21日(土)は夜間開館 午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)

休館日:水曜日(ただし2月11日と3月18日は開館)

主催:パナソニック汐留美術館

後援:一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会、港区教育委員会

企画協力:株式会社TNCプロジェクト

会場構成:GROUP