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パラレル

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東京国立近代美術館で開催中の「下村観山展」でこれは、と思う作品、《大原之露》の主観レビューをお届けします。

本作は、『平家物語』の一場面、「大原御幸」をもとにしています。

画面では、山里・大原で静かに暮らす建礼門院と大納言局が描かれています。

人物の視線は画面外に向いており、後白河法皇の突然の来訪を暗示しています。

 

両者とも、表情は固く警戒しています。

恐れやためらいといった、再会への複雑な感情も含まれています。

大納言局の前屈みになり、ゆっくり進む様子からも分かります。

動きの小ささが、逆に心理の大きさを表しています。

 

空はどんよりとしており、2人の心境を表しています。

霧がかった空気やくすんだ色調は、単なる風景ではなく、無常感・不安・過去の重さを象徴しています。

それは、警戒だけでなく、諦観や静かな受容を含んでいるようにも思われます。

 

そして、建礼門院の赤い花が画面を引き締め、緊張感を演出しています。

また、赤をかつての栄華・俗世と捉えると、それが今は小さく控えめにあると解釈できます。

つまり、過去の華やかさの名残とも読めます。

下村観山(1900)《大原之露》茨城県近代美術館

 

東京国立近代美術館で開催中の「下村観山展」でこれは、と思う作品、《女三之宮》の主観レビューをお届けします。

タイトルの「女三之宮」は、『源氏物語』に登場する皇女を指します。

本作は、物語のドラマそのものというより、「静かな一場面」を切り取っています。

 

水平線・垂直線が目立ち、安定構図です。

建物の水平線や柱などの垂直線が画面を支配していて、全体に安定した構図が作られています。

これは神殿造の建築描写を通じて、宮廷の秩序や静謐さを表しています。

この時点で「動きの少ない、内面的な場所」であることが示されています。

 

色彩は淡く、落ち着いた印象を受けます。

淡い色彩は、華やかさを抑えた上品さ、感情の高まりではなく、抑制された心理を感じさせます。

また、感情が外に出ていない状態とも読めます。

 

その中で、床の斜線などがあり、動きも感じられます。

つまり、静けさの中に、これから何か起こる気配を忍ばせていると言えます。

 

女三之宮が指差す方向には猫がおり、『源氏物語』に書かれたことが起きることを想像させます。

『源氏物語』では、女三之宮のもとにいた猫が御簾を引き上げ、それによって柏木が彼女の姿を見てしまいます。

そこから密通へとつながる、という重要な事件が起こります。

この猫は単なる小動物ではなく、物語の転換点を引き起こす存在です。

 

まとめると以下のようになります。

安定した構図と抑制された色彩によって静謐な空間を作りつつ、斜線と猫の存在によって、物語の転換点となる出来事の予兆を暗示している。

下村観山(1927)《女三之宮》横浜美術館

 

東京国立近代美術館で開催中の「下村観山展」でこれは、と思う作品、《木の間の秋》の主観レビューをお届けします。

本作は、秋の林の静かな情景を描いたものです。

明確なストーリーはなく、感覚的・詩的な秋の気配がテーマ。

 

右隻には、明るい部分と暗い部分があり、画面外の木が日差しを遮っていることが分かります。

木々の下部をクローズアップして描いており、地面でひっそりと生きる植物に共感を覚えていたのかもしれません。

しかも、それらは日陰になっています。

 

つまり、目立たない存在への視線、自然の中で弱い、小さいものへの注目、という読みを導くことができます。

そして、あえて”陰の領域”を主題にしているとも読めます。

光が当たる主役的な場所ではない、条件の厳しい場所に視線を向けているということです。

 

また、木々の垂直線が目立ちます。

その間の陰に視線を向けていることになります。

つまり、垂直に伸びる木々の間の陰の領域に視線を向けることで、光の当たらない場所に生きる植物の存在感を強調していると言えます。

下村観山(1907)《木の間の秋》東京国立近代美術館