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パラレル

美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

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KADOKAWAから刊行された『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』を読んでみました。

井上響(2025年)『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』KADOKAWA

 

本書は、美術館で作品を前にして「なんとなくよかった」で終わってしまう経験に物足りなさを感じている、全てのアート入門者にとっての実践的な教養書です。

 

鑑賞の基本となる知識とはどんな知識でしょうか。

作者名を覚えること?構図について分析できること?誰かの解釈を勉強すること?

このように、美術作品に関する知識は膨大です。

しかも、美術についての知識と一言で言っても、その意味は人によって様々になってしまいます。

 

本書では、「物語」と「歴史」という視点から絵画をより深く読み解くための「観方」を解説しています。

その理由は、美術館に行って初見の作品を観た時に楽しめるようになるには、物語と歴史を学ぶことが手っ取り早いからです。

 

物語編では、西洋絵画の主要なテーマである聖書やギリシャ神話の物語、そしてモチーフやアトリビュートが持つ意味を解説しています。

これにより、日本人には馴染みの薄い西洋絵画の背景にある文脈を理解し、例えば「美女と生首」の絵がユディトなのかサロメなのかといった見分け方が学べます。

 

歴史編では、美術史を13のターニングポイントに沿って解説し、光と闇、写実性、空間表現、色彩の発展といった技法の変遷を辿ります。

画家が生きた時代背景や、技法の変化を知ることで、同じテーマでも画家によって捉え方や表現方法が異なる理由が腑に落ち、作品の表現意図を深く理解できるようになります。

 

本書では、「なんかよかった」という感覚的な感想を一歩進め、「なぜこの絵が名画と言われるのか」「画家は何を表現したかったのか」を自分の言葉で語れるように導いてくれます。

美術に興味を持ち始めた人、好きだけれど体系的に学んだことのない人に最適な、美術館が格段に面白くなる良書と言えるでしょう。

 

 

筆者プロフィール

井上響(いのうえ・ひびき)

美術史ソムリエ、クリエイター。東京大学文学部人文学科美術史学専修卒。「美術館が2割面白くなる解説」というTikTokアカウントをメインに、西洋絵画の背後にある物語や美術史を誰でも楽しめるように発信。2025年2月現在、SNS総フォロワーは15万人を超えている。本書が初著書。

 

監修 秋山聰(あきやま・あきら)

1962年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学(美術史学専攻)。フライブルク大学哲学部博士課程修了。電気通信大学、東京学芸大学を経て、現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書:『デューラーと名声ー芸術家のイメージ形成』(中央公論美術出版)、『聖遺物崇敬の心性史ー西洋中世の聖性と造形』(講談社)、『旅を糧とする芸術家』(共著、三元社)、『西洋美術史』(共編著、美術出版社)など。

 

東京シティビューで開催中の「30周年記念展 ALL OF EVANGELION」展へ行って来ました。

2025年に30周年を迎えたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。

同作品は斬新なデザインや表現技法が放送直後から視聴者のあいだで大きな反響を起こし、それはアニメにとどまらない社会現象として拡大していきました。

 

本展では、テレビアニメシリーズから『新劇場版』シリーズ4部作に至るまでの貴重な制作資料となるセル画や直筆の原画、デジタル制作資料などを一挙に展示しています。

作品世界の変遷とその制作の裏側が多角的に紹介されています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

序章 胎動

第1章 始動

第2章 鳴動

第3章 躍動

第4章 結実、そして新たな鼓動

 

序章では、テレビシリーズ制作時に用いられた設定資料が紹介されています。

放送前から試行錯誤が重ねられたというテレビシリーズは、「エヴァ」の世界を支える強い基盤となって『新劇場版』にも受け継がれ、物語がさらに広がっていく礎となりました。

展示風景より

展示風景より

 

第1章では、アニメや特撮の資料を管理・保全することを目的に庵野秀明が中心となって設立したアニメ特撮アーカイブ機構協力の下、現存する合計1万カットの中から厳選した貴重なセル画が展示されています。

テレビ放送が始まった95年当時、アニメーションは「セル」と呼ばれる透明なシートに手で描いた絵を転写し、絵の具で彩色したものを背景と合わせてフィルムに撮影して制作されていました。

展示風景より

展示風景より

 

第2章では、「音」に着目した内容となっています。

歌い継がれる主題歌や聞くだけで場面を想起させる劇中の伴奏音楽、そして印象的なセリフ回しや躍動感あふれる効果音など、それらは細部に至るまでこだわりをもって作られ映像に命を吹き込んでいます。

本章では、テレビ放送時の貴重な予告編映像や、声優オーディションの音声など、耳で楽しめる資料も公開されており、音と映像の融合に注目した構成になっています。

 

第3章では、膨大な手描き原画やレイアウトが紹介されています。

テレビシリーズから続く『エヴァンゲリオン新劇場版』では、テレビシリーズで登場しなかった新しいキャラクターを投入し、物語は全く異なる展開へと進んでいきます。

そして『:Q』では、3DCGを活用したビジュアル制作が強化され、より精密で大胆な映像表現が可能になりました。

展示風景より

展示風景より

 

そして、最後の第4章では、『エヴァンゲリオン新劇場版』完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にまつわる資料が展示されています。

庵野は『:Q』と『シン・エヴァ』の間に実写映画の制作に取り組み、その撮影方法をアニメーションの現場にも導入しました。

巨大なミニチュアセットを作って擬似的なロケハンを行い、マーカーをつけた人間に実際に芝居をさせ、それをカメラで撮影することでアングルとカット割りの可能性を探る方法はその代表例といえます。

展示風景より

展示風景より

 

本展はエヴァの壮大な世界観がどのように作られてきたのか、その歴史と制作の裏側を深く知ることができる、ファン必携の展覧会といえるでしょう。

また、限定グッズ、コラボメニューなどが用意されており、ファンとして記念碑的な体験になること間違いなしです。

 

 

 

 

 

 

会期:2025年11月14日(金)〜2026年1月12日(月・祝)

会場:東京シティビュー

   〒106-0032 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階

開館時間:10:00〜22:00(最終入館21:00)

主催:東京シティビュー

企画:朝日新聞社、ムービック・プロモートサービス、ムービック

特別協力:カラー、アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)、グラウンドワークス:

協賛:ぴあ

後援:TOKYO FM

お問い合わせ:03-6406-6652(東京シティビュー 受付10:00〜20:00)

 

 

 

 

 

 

アーツ前橋で開催中の「ゴースト 見えないものが見えるとき」展でこれは、と思う作品、松井冬子《世界中の子と友達になれる》の主観レビューをお届けします。


奇妙な木のようなものの左右に犬と人間の足のようなものが描かれます。

周りの木々は落葉し、寒々しい。

 

犬は元気なく横たわり、人間の足も動きは感じられません。

まるで中央の木のようなものが、関係性を無にしているみたいです。

バベルの塔のように。

何やら不穏な雰囲気です。

 

松井は若い頃、「自分は世界中のすべての子と友達になれる」と本気で信じていました。

しかし大人になるにつれ、それが現実には絶対に不可能な「誇大妄想」である、ある種の「狂気」であったことに気づきます。

 

「みんなと仲良くしなければならない」「友達になれるはずだ」という思い込みは、裏を返せば「誰からも嫌われたくない」「支配したい」という脅迫的な欲望や不安の裏返しでもあります。

 

大人になるにつれ不可能だと悟るその「痛々しい純粋さ」が、犬と人間との関係性に表れているのではないでしょうか。


松井冬子(2004年)《世界中の子と友達になれる》角川文化振興財団