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パラレル

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パナソニック汐留美術館で開催中の「ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末 生活のデザイン、ウィーン・劇場都市便り」展でこれは、と思う作品《椅子》(1830年 アセンバウム・コレクション)の主観レビューをお届けします。


ビーダーマイヤー家具は「シンプル・温かい・心地よい」という三拍子が揃う”生活のための家具”です。

上質な木材の艶、そして機能優先の落ち着いたデザインは、現代の北欧家具にも通じるミニマルさがあります。

 

《椅子》は、曲線が多様され、過度な装飾を排した作品です。

シンメトリーで、安定感があり、座面には植物、背もたれにはトンボが2匹飛んでいるようなデザインがされており、自然の中にいるような心地よさがあります。

直線を極力用いないことで、自然のままに生活するという思いが表現されているようです。

 

政治的に抑圧された時代だからこそ、伸び伸びとした生活を求めていたのではないでしょうか。

19世紀初頭のウィーン市民が「家庭そのものを小さな美術館にする」ように工夫していた息遣いが感じられ、美意識の原点を体感できます。

 

パナソニック汐留美術館で開催中の「ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末 生活のデザイン、ウィーン・劇場都市便り」展へ行って来ました。


19世紀末、ウィーンは独自のモダンスタイルを築きます。

オットー・ヴァーグナーが実用性と合理性を重視する「実用様式」を提唱し、その思想に共鳴した弟子ヨーゼフ・ホフマンらが推進したウィーン世紀末のデザインは、幾何学的で建築的な造形を特徴とし、実用性と快適さを実現する機能美が備わった革新的なものでした。

しかし、その革新は新しさだけでなく、19世紀前半のビーダーマイヤー様式を再評価し、質の高い手工芸、模倣でない主体的なデザイン、自然をモチーフとした装飾などを規範の一つとしながら、より時代に即した技術とデザインをもって、意識的に継承することでもたらされたという背景があります。

 

本展では、この二つのスタイルを銀器、陶磁器、ガラス、ジュエリー、ドレス、家具など多彩な作品を通じて、その共通性やスタイルの継承と発展を相互比較も交えながら紹介しています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

序章 ー美意識としてのビーダーマイヤー

第1章 ビーダーマイヤーーミニマルなかたちに宿る宇宙の雛形、日常を彩る劇場的な装飾

第2章 「総合芸術」、二つの時代ービーダーマイヤーとウィーン・スタイル

第3章 ウィーン世紀末とウィーン工房ー暮らしと時代をリードした女性たち

 3-Ⅰ ウィーン世紀末と女性インフルエンサー(文化人・パトロン)たち

 3-Ⅱ ウィーン工房ー1903-1932

 3-Ⅲ ウィーン工房の女性アーティスト・デザイナーたち

第4章 ウィーン・エコーズー「ウィーン・スタイル」の継承と共鳴

 

第1章では、ビーダーマイヤーの時代のウィーンの生活文化と造形の展開を紹介しています。

ビーダーマイヤー時代とは、政治的にはウィーン会議(1814-15)から1848年革命までの保守体制下の時代を指しますが、デザイン史的には18世紀末から19世紀半ばにかけてのウィーンの生活文化と造形の展開を意味します。

この時代には、抑圧された政治状況のもとで、公的空間から私的生活へと人々の関心が移行し、家庭の幸福や個人の内面といった価値が重視されるようになりました。

 

ビーダーマイヤーの工芸は、シンプルで幾何学的な形、控えめな装飾、手仕事の丁寧さが特色です。

銀器、家具、ガラス、陶磁器、テキスタイルに至るまで、生活に寄り添う機能性と温かみを兼ね備えています。

また、自然のモチーフや花を主題とする装飾が親しみを生み、広く市民層に受け入れられました。

 

第2章では、19世紀前半のビーダーマイヤー銀器やガラス作品と、19世紀末から20世紀前半のウィーン工房やロブマイヤー製の作品を並置し、相互比較しています。

具体的には、例えば1807年のキャセロール鍋と1907年のグラーシュ皿、また1838年のサモワールと1924-25年のセンターピースなど、時代をまたいだ造形の類似性を示す作品が対比展示されています。

 

このことから分かるのは、ビーダーマイヤーの形態や素材を、後のウィーン工房などが再解釈し、住空間を芸術化しようとする意思があるということです。

 

第3章では、世紀末ウィーンおよびウィーン工房時代のデザイン文化を紹介しています。

オットー・ヴァーグナーは、都市鉄道や郵便貯金局の設計を通じて「実用様式」という近代の美学を提示しました。

彼の高弟ヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザーは、1903年にウィーン工房を創設し、総合芸術としての生活芸術を目指します。

これにアドルフ・ロースが対峙しつつも、自らの建築において同時代的な合理性を追求しました。

 

この時代にはまた、男性中心の文化の中で独自の輝きを放った女性たちの存在がありました。

ベルタ・ツッカーカンドルは、ウィーン分離派やウィーン工房を擁護し、彼女のサロンは芸術家たちの交流と発信の中心となりました。

グスタフ・クリムトの肖像画に描かれた、マーガレット・ストンボロー=ヴィトゲンシュタインは、精神分析や哲学に関心を寄せ、ウィーン工房によってしつらえられた結婚祝いの住居をベルリンに構えるなど、総合芸術の実践者でもありました。

エミーリエ・フレーゲはウィーン工房の内装によるファッションサロンを経営し、改良服を提案、女性の身体を束縛から解放した先駆者のひとりです。

アルマ・マーラーは芸術家たちの創作のミューズとして生きました。

彼女たちは、近代の家庭像、ジェンダー観、創造の場に対し独自の影響を与え、ウィーン世紀末の多層的な文化の一翼を担ったといえるでしょう。

 

第4章では、「ウィーン・スタイル」の精神が、世代と場所を超えてどのように受け継がれたのかを紹介しています。

陶芸家ルーシー・リーは、ウィーン工房とも関わりを持ちながら作品を発表していました。

イギリス亡命後は、機能性と優美さを兼ね備えた、きわめて洗練された陶磁器を製作します。

その作品には「ウィーン・スタイル」の美意識が息づいています。

 

また、フェリーチェ・リックス(上野リチ)も紹介されており、彼女の七宝作品が、ウィーン由来の造形性をどのように現代に置き換えてきたかが示されています。

 

本展は、ビーダーマイヤーと世紀末を横断しながら、デザインと生活の豊かさを伝える完成度の高い展覧会です。

工芸、家具、テキスタイル、ガラス、ジュエリーといった多面的な展示を通じて、当時の美意識だけでなく、それがどのように現代まで継承されてきたかを感じることができます。

 

 

 

 

 

会期:2025年10月4日(土)〜12月17日(水)

会場:パナソニック汐留美術館

   〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階

開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)

   ※11月7日(金)、12月5日(金)、12日(金)、13日(土)は夜間開館、午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)

休館日:水曜日(ただし12月17日は開館)

ゲストキュレーター:新見 隆 氏(武蔵野美術大学教授)

監修:パウル・アセンバウム博士、エルンスト・プロイル博士、久保クネシュ幸子博士

主催:パナソニック汐留美術館、日本経済新聞社

後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京、オーストリア大使館観光部、港区教育委員会

特別協力:豊田市美術館

協力:全日本空輸株式会社、株式会社布、株式会社マルナカ

企画協力:株式会社ニキシモ

 

 

 

 

 

 

サントリー美術館で開催中の「NEGORO 根来ー赤と黒のうるし」展へ行って来ました。


「根来」は一般的に、堅牢な下地を施した木地に黒漆を中塗りし、朱漆を上塗りした朱漆塗漆器を指します。

おおらかで明快な姿かたちに加えて、長年の使用により表面の朱漆が磨滅して下に塗られていた黒漆が現れることで生まれる古色も、大きな魅力となっています。

根來寺で朱漆器が作られたという伝承から、この名称が生まれたともいわれますが、その関係については必ずしも明らかではありません。

 

本展は、一連の研究成果を踏まえ、根来の歴史を振り返る展覧会です。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第一章 根来の源泉

第二章 根来とその周辺

第三章 根来回帰と新境地

 

第一章では、根来という名前が定まる以前の、より古い時代の赤・黒漆の工芸品が紹介されています。

赤は太陽の色、生命の色など神秘的かつ呪術的な意味合いが込められていたとされ、縄文時代には櫛や腕輪、器などに赤い漆が塗られています。

黒は全てを包み込む闇の色、赤とは対照的な色ですが、どちらも色という概念が誕生する前から人々の感覚に根ざしていた原初的な存在といえるでしょう。

《瓶子》(1346年 惣社水分神社)の古い朱漆器の品格と技術の高さは必見です。

 

第二章では、根來寺の歴史に焦点を当て、寺院が持っていた文化・信仰の力と、そこから生まれた根来漆器の関係性が語られます。

覚鑁上人による開山、豊臣秀吉時代の根來寺の最盛期や焼き討ちまで、寺の隆盛と衰退が漆器と共に展示されており、歴史のスケール感があります。

中世根來寺と時をほぼ同じくして、あるいはその前後の時代にも朱漆塗漆器は各地で作られ、また時代を追うごとに宗教儀礼から日常の場にまで広がりました。

 

第三章では、江戸時代以降、根来漆器がどのように愛され、使われ、評価されてきたのかが描かれています。

著名人が収集した根来作品の展示もあり、単なる歴史遺産ではなく、「生活の中の美」としての根来の姿が浮かび上がります。

その動きは、1926年に柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって提唱された民藝運動も相まって、戦後には確たるものになります。

根来は実用品として、また根來寺への憧憬や追慕の念を抱くための役割だけではなく、愛でるべき美術工芸品として位置付けられるようになりました。

 

本展は、「美しさとな何か?」「モノを大切に使い続けることの意味は?」という、現代を生きる私たちにも通じる問いを投げかけてくるような、哲学的な深みを持った展覧会です。

漆や工芸に興味がある方はもちろん、日本美術、仏教美術が好きな方にもおすすめしたい展覧会です。

 

 

 

 

会期:2025年11月22日(土)〜2026年1月12日(月・祝)

会場:サントリー美術館

   〒107-8643 東京都港区赤坂9丁目7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階

開館時間:10:00〜18:00(金曜日は10:00〜20:00)

休館日:火曜日、12月30日(火)〜1月1日(木・祝)

主催:サントリー美術館

協賛:三井不動産、鹿島建設、竹中工務店、サントリーホールディングス

後援:岩出市教育委員会、TOKYO MX

特別協力:新義真言宗総本山根來寺

協力:根来塗曙山会