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パラレル

美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

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アーツ前橋で開催中の「ゴースト 見えないものが見えるとき」展へ行って来ました。


人々は古来より、目に見えないゴーストに、恐れとともに強い関心を抱いてきました。

現世に現れる死者の霊や、人々の身体に憑依する霊、「地霊」のように土地に宿る精霊。

また、戦争や政治的抑圧によって引き起こされた破壊と殺戮の記憶も一種のゴーストとして、未解決の歴史的課題を私たちに鋭く突きつけます。

 

本展は、こうした私たちを取り巻く様々な「ゴースト」を、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなどの表現を通して紹介し、見えるものと見えないものが生み出す謎めいた魅力を探ろうとするものです。

 

岩根愛は、ハワイの日系移民によって継承されてきた、盆踊りに焦点を当てています。

夜のサトウキビ畑に投影された、かつてそこで働いていた福島移民の家族写真。

そして、後半には現代の福島の人たちの踊る姿が展示され、かろうじて残された日本人移民の墓の風景画対比されています。


展示風景より

 

ハラーイル・サルキシアンは、当時のシリア政府によって公開処刑が行われた広場を撮影しています。

その撮影時間帯も処刑が行われたのと同じ時間帯です。

何も映っていなくても、これらの写真に見えない何かを見てしまうのではないでしょうか。


展示風景より

 

尾花賢一と石倉敏明は、赤城山の山頂部に存在するカルデラと二つの湖に伝わる伝承に着目しています。

地下へ向かう階段から、沼底に誘われるように足を踏み入れ、生と死、日常と非日常のあわいに広がる異世界に身を投じ、「赤堀道元と娘の話」の物語で、沼に身を投じた16歳の娘の身に起きた出来事を辿ることができます。


展示風景より

 

幻想的な動植物や少女のモチーフでお馴染みのヒグチユウコ。

彼女の作品には、可愛らしさと不気味さが同居し、人間と動植物の境界が曖昧になった存在は私たちの世界の秩序をささやかに揺さぶります。


展示風景より

 

山内祥太《Being...Us?》は、人類が姿を消した未来に、未知なる存在が空間に現れるインスタレーション作品です。

彼らは、この地にいたであろう人間の姿を想像しています。

こうした行為は、かつて人間が営んでいた記憶や対話の残響を想起させます。


山内祥太(2025年)《Being...Us?》作家蔵

 

トニー・アウスラーは、目に見えなかった世界を可視化し、それとの対話を図る作品を制作しています。

それは不可知の向こう側の世界、並行して存在する別の世界を示唆しています。

《Obscura》の大きな目は、不気味であるとともに、ユーモアも感じられます。


トニー・アウスラー(2014年)《Obscura(Maebashi version)》作家蔵

 

本展は、単に驚かせたり怖がらせたりするものではありません。

「見えないもの」を想像する力を試される展示です。

「見えない存在」との対話を通じて新たな可能性を開いてみませんか。

 

 


 

会期:2025年9月20日(土)〜12月21日(日)

会場:アーツ前橋 1階ギャラリー+地下ギャラリー

   〒371-0022 群馬県前橋市千代田町5-1-16

開館時間:午前10時〜午後6時

   ※入館は午後5時30分まで

休館日:水曜日

主催:アーツ前橋

後援:上毛新聞社、群馬テレビ、FM GUMMA、まえばしCITYエフエム、前橋商工会議所

 

根津美術館で開催中の「伊勢物語 美術が映す王朝の恋とうた」展でこれは、という作品、土佐光起《伊勢物語図屏風》右隻(江戸時代 17世紀 個人蔵)の主観レビューをお届けします。


伊勢物語第68段「住吉の浜」に取材した本作。

本文には無い、女性の乗った船が描かれています。

これは、『源氏物語』「澪標」巻において、光源氏の住吉参詣を明石の君が沖から眺める場面のイメージが投影されていると考えられます。

 

男性の視線の先には船に乗った女性が描かれています。

住吉は良いところだと思い、楽しそうな男性とは違い、女性はどこか悲しげです。

画面中央に描かれる男性に対して、船が左端に小さく描かれていることからも、その対比が分かります。

 

この女性には明石の君のような運命が待っているのでしょうか。

ぼんやりした雲が周りを囲んでいるように、不安定な未来が感じられます。

 

根津美術館で開催中の「伊勢物語 美術が映す王朝の恋とうた」展へ行って来ました。

平安時代前期に活躍した在原業平は、天皇の孫で、和歌に優れた貴公子です。

『古今和歌集』などに収められる業平の和歌からは、恋多き生き方も浮かび上がってきます。

そうした業平の和歌を中心とする短編物語集が『伊勢物語』です。

 

2025年は業平の生誕1200年にあたります。

本展では、それを記念して『伊勢物語』が生み出した書、絵画、工芸を一堂に集めています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章 在原業平と伊勢物語 古筆と古絵巻

第2章 描かれた伊勢物語 歌とともに

第3章 伊勢物語の意匠 物語絵と歌絵のあわい

 

印刷技術が発達する以前、物語は写本、あるいは本文に絵を添えた絵巻や絵本のかたちで享受されました。

鎌倉時代になると写本の数は増えますが、美麗な料紙を用いた調度本となるといわゆる古筆切、また絵巻も一部分が伝わるのみです。

しかし断片ではあるものの、美しい文字や絵とともに物語をよりよく味わおうとする気持ちがうかがえます。

 

『伊勢物語』を題材にした絵画の中で、彩色を施した絵巻としては現存最古の作例である《伊勢物語絵巻》(鎌倉時代 13〜14世紀 和泉市久保惣記念美術館)は、建物の長押をジグザグに表す幾何学的とも言われる構成が斬新で、金銀を多用した装飾的な画面が魅力的です。

平安の物語世界が初めて視覚化された貴重な作例として、その繊細な筆致に引き込まれます。

 

『伊勢物語』の享受の歴史で画期となったのは、江戸時代のはじめに挿絵入りの版本(嵯峨本)が出版されたことです。

これによって物語がより多くの人々に読まれるとともに、その絵画表現に対する関心を高め、ひいては多様な絵画作品が生み出されることになります。

そうした絵画作品がしばしば和歌をともなう事実は、『伊勢物語』の魅力を明瞭に示しています。

 

近世初期、豪商・角倉素庵が中心となり、木活字を用いた出版事業が展開されました。

一連の本の嚆矢となったのが、『伊勢物語』です。

しかもそれは49もの挿絵を伴うもので、文学史的にも美術史的にも極めて重要な位置を占めます。

 

『伊勢物語』の絵画には、物語のストーリーを描くものと、そこで詠われる和歌の内容や情景を描くものがあります。

言い換えればそこには、「物語絵」とともに、「歌絵」の伝統が息づいているのです。

時に歌のモチーフのみを表す「歌絵」は、工芸におけるいわゆる留守模様とも関わりながら、『伊勢物語』の美術に文芸の香り高い意匠性を加えます。

《扇面歌意画巻》(江戸時代 17世紀 根津美術館)は、和歌とその歌の内容を描く扇型の絵を集めた「扇の草子」と呼ばれる作品のひとつです。

 

本展は、単なる「物語の挿絵」展ではありません。

『伊勢物語』の核心である「和歌」が、時代を超えて人々を魅了し、絵画や工芸といった形で新たな「かたち」を与えれれてきた、その壮大な美の系譜を辿る旅です。

平安の恋物語に思いを馳せながら、日本美術の奥深さに触れてみませんか。

 

 

 

 

会期:2025年11月1日(土)〜12月7日(日)

会場:根津美術館 展示室1・2・5

   〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1

開館時間:午前10時〜午後5時(入館は閉館30分前まで)

休館日:毎週月曜日 ただし11月3日(月・祝)、11月24日(月・祝)は開館、翌火曜休館