根津美術館で開催中の「伊勢物語 美術が映す王朝の恋とうた」展へ行って来ました。
平安時代前期に活躍した在原業平は、天皇の孫で、和歌に優れた貴公子です。
『古今和歌集』などに収められる業平の和歌からは、恋多き生き方も浮かび上がってきます。
そうした業平の和歌を中心とする短編物語集が『伊勢物語』です。
2025年は業平の生誕1200年にあたります。
本展では、それを記念して『伊勢物語』が生み出した書、絵画、工芸を一堂に集めています。
展覧会の構成は以下の通りです。
第1章 在原業平と伊勢物語 古筆と古絵巻
第2章 描かれた伊勢物語 歌とともに
第3章 伊勢物語の意匠 物語絵と歌絵のあわい
印刷技術が発達する以前、物語は写本、あるいは本文に絵を添えた絵巻や絵本のかたちで享受されました。
鎌倉時代になると写本の数は増えますが、美麗な料紙を用いた調度本となるといわゆる古筆切、また絵巻も一部分が伝わるのみです。
しかし断片ではあるものの、美しい文字や絵とともに物語をよりよく味わおうとする気持ちがうかがえます。
『伊勢物語』を題材にした絵画の中で、彩色を施した絵巻としては現存最古の作例である《伊勢物語絵巻》(鎌倉時代 13〜14世紀 和泉市久保惣記念美術館)は、建物の長押をジグザグに表す幾何学的とも言われる構成が斬新で、金銀を多用した装飾的な画面が魅力的です。
平安の物語世界が初めて視覚化された貴重な作例として、その繊細な筆致に引き込まれます。
『伊勢物語』の享受の歴史で画期となったのは、江戸時代のはじめに挿絵入りの版本(嵯峨本)が出版されたことです。
これによって物語がより多くの人々に読まれるとともに、その絵画表現に対する関心を高め、ひいては多様な絵画作品が生み出されることになります。
そうした絵画作品がしばしば和歌をともなう事実は、『伊勢物語』の魅力を明瞭に示しています。
近世初期、豪商・角倉素庵が中心となり、木活字を用いた出版事業が展開されました。
一連の本の嚆矢となったのが、『伊勢物語』です。
しかもそれは49もの挿絵を伴うもので、文学史的にも美術史的にも極めて重要な位置を占めます。
『伊勢物語』の絵画には、物語のストーリーを描くものと、そこで詠われる和歌の内容や情景を描くものがあります。
言い換えればそこには、「物語絵」とともに、「歌絵」の伝統が息づいているのです。
時に歌のモチーフのみを表す「歌絵」は、工芸におけるいわゆる留守模様とも関わりながら、『伊勢物語』の美術に文芸の香り高い意匠性を加えます。
《扇面歌意画巻》(江戸時代 17世紀 根津美術館)は、和歌とその歌の内容を描く扇型の絵を集めた「扇の草子」と呼ばれる作品のひとつです。
本展は、単なる「物語の挿絵」展ではありません。
『伊勢物語』の核心である「和歌」が、時代を超えて人々を魅了し、絵画や工芸といった形で新たな「かたち」を与えれれてきた、その壮大な美の系譜を辿る旅です。
平安の恋物語に思いを馳せながら、日本美術の奥深さに触れてみませんか。
会期:2025年11月1日(土)〜12月7日(日)
会場:根津美術館 展示室1・2・5
〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1
開館時間:午前10時〜午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日 ただし11月3日(月・祝)、11月24日(月・祝)は開館、翌火曜休館



