パラレル -29ページ目

パラレル

美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

ご連絡はこちらまで⇨
yojiohara21@gmail.com

サントリー美術館で開催中の「幕末土佐の天才絵師 絵金」展へ行って来ました。


土佐の絵師・金蔵は、幕末から明治初期にかけて数多くの芝居絵屏風や絵馬提灯、五月の節句の幟などを手掛け、「絵金さん」の愛称で、地元高知で長年親しまれてきました。

夏祭りの数日間、絵金の屏風を飾る風習は今でも変わらず、真夏の夜の闇の中、高知各所の神社の境内や商店街の軒下に提灯屋蝋燭の灯りで浮かび上がるおどろおどろしい芝居の場面は、見る者に鮮烈な印象を残しています。

 

しかし、約200点現存する芝居絵屏風のほとんどは、神社、あるいは自治会や町内会、公民館などに分蔵されており、絵金の作品をまとまった形で観ることができる機会は滅多にありません。

本展は、絵金の代表ともいえる芝居絵屏風をはじめとした作品を一挙に紹介する、半世紀ぶりの東京での大規模展覧会となります。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第一章 絵金の芝居絵屏風

第二章 高知の夏祭り

第三章 絵金の周辺の絵師たち

 

第一章では、絵金の基準作・最高傑作として名高い、香南市赤岡町の4つの地区が所蔵する芝居絵屏風が展示されています。

これらの屏風は、夏祭りで実際に使用されています。

 

夏祭りでは、野外に芝居絵屏風が置かれるため、時間帯によって見え方が異なってきます。

本展では絵金本来の鑑賞体験を、美術館という空間で最大限に再現しようと試み、展示室に照明を一定の時間をかけてゆっくりと変化させています。

 

また、この章では、御用絵師であった絵金らしい、故事人物を狩野派の画風で描いた作品の他、芝居の物語、安政元年(1854)に土佐を襲った大地震を描いた画帖など、芝居絵屏風以外の多様な作品も紹介しています。

 

第二章では、屏風を飾る、神社の絵馬台を再現しています。

毎年7月24日の高知市朝倉・朝倉神社の夏祭りでは、参道をまたぐ山門型の絵馬台が6台組み上げられます。

香美市土佐山田町の八王子宮には、5点の屏風を飾るための大型の「手長足絵馬台」があり、近年では2019年7月24日、25日の夏の大祭で披露されました。

8月5日の高知市春野町芳原の愛宕神社の夏祭りでは、2024年に久しぶりに絵馬台が組まれました。


展示風景より


展示風景より

 

また、本章では高知の夏祭りを彩るもうひとつの風物である絵馬提灯を展示しています。

行燈絵とも呼ばれる絵馬提灯は、毎年新調されるものであったため、現存するものは非常に少なく、近年発見された《釜淵双級巴》24点は貴重な作品です。

 

第三章では、屏風や絵巻、軸物以外の絵金の作品と、絵金と深い関わりのあった絵師の作品を紹介しています。

絵金に師事した弟子は数多くいました。

例えば、米国から帰国した、当時の土佐きっての知識人、河田小龍は、『漂巽紀畧』を土佐藩主に献上したことで知られ、坂本龍馬とも交流がありました。

また、野口左巖は、現在の香南市野市町の紺屋で、本名が金蔵であったため、「野市絵金」と呼ばれました。

 

絵金が描いたのは、殺人、裏切り、嫉妬、怨霊、忠義といった、人間の生々しい感情が爆発する瞬間です。

本展は、美しい絵を「鑑賞」するのではありません。

薄暗がりの中で、芝居のクライマックスという「事件」を「目撃」する体験です。

 

 

 

会期:2025年9月10日(水)〜11月3日(月・祝)

会場:サントリー美術館

   〒107-8643 東京都港区赤坂9丁目7-4 東京ミッドタウン ガレリア 3階

開館時間:10:00〜18:00(金曜日は10:00〜20:00)

   ※11月1日(土)、2日(日)は20時まで開館

   ※9月26日(金)、27日(土)は六本木アートナイトのため21時まで開館

   ※いずれも入館は閉館の30分前まで

休館日:火曜日

   ※9月23日、10月28日は18時まで開館

主催:サントリー美術館、読売新聞社

協賛:三井不動産、鹿島建設、サントリーホールディングス

後援:高知県、J-WAVE、TOKYO MX

協力:松竹

 

宇都宮美術館で開催中の「ライシテからみるフランス美術ー信仰の光と理性の光」展でこれはという作品、ジャン=フランソワ・ミレー《無原罪の聖母》(1858年 山梨県立美術館)の主観レビューをお届けします。


本作は、聖母が三日月に乗って蛇を踏み、頭上に星を戴く「無原罪の御宿り」の伝統的な図像を踏襲しています。

蛇の隣には、善悪の木の実と思われる果実も描かれます。

 

聖母の周りは青く描かれ、その外側の黒い部分に広がっていくようです。

まるで、聖なるエネルギーが私たちに向けて放たれているかのような印象を受けます。

また、真っ直ぐこちらを見、親しみやすい印象を受けます。

当時のマリア信仰の隆盛という背景もあり、カトリックの教義を広めるのに適した作品だと思われます。

 

 

宇都宮美術館で開催中の「ライシテからみるフランス美術ー信仰の光と理性の光」展でこれはという作品、エミール=ジャン=オラース・ヴェルネ《墓からよみがえるナポレオン》(1840年 東京富士美術館)の主観レビューをお届けします。


本作は、史実の出来事ではなく、ナポレオンが墓所の石の蓋を開けて地面に足を踏み出す場面を描き、その存在を神話化・神格化しています。

頭の周りには光が描かれ、まるでキリストのようです。

さらに、勝利と栄光の象徴である月桂冠を被っており、やはりその姿は茨の冠を被ったキリストと共通します。

また、顔は真っ直ぐ前を向き、正面から見る私たちと目が合います。

このことから、ナポレオンをキリストに準えて描いたと思われます。

 

では、なぜそのような描き方をしたのでしょうか。

1840年、セント・ヘレナ島で没したナポレオンの遺骸を、パリのアンヴァリッドへ移されました。

その背景には、議会内部の抗争から目を逸らそうとする当時の政府の思惑があったとされます。

本作は、ナポレオンを歴史上の人物から「フランスの栄光」という永遠の象徴へと高めたと言えるのではないでしょうか。