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パラレル

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東京国立博物館で開催中の「インドネシア・スマトラ島 織と染めの世界」展へ行って来ました。


スマトラ島は古くから海上交易の要所でした。

そこでは、様々な民族グループが暮らしており、地域によって多様な織りと染めの技法が認められます。

素材と技法のバリエーション豊かさが印象的で、ろうけつ染め(バティック)、緯糸の染め分けで文様を表す絣(イカット)、そして金銀糸を織り込んだ豪華な織物など、地域ごとに特色のある染織が紹介されています。

 

本展は、スマトラ島の染織品の魅力を紹介するとともに、スマトラ製のバティックとスマトラ島伝世インド更紗を合わせて展示し、その関連性についても探るものです。

 

スマトラ島は、インド洋交易の要衝でした。

香辛料貿易を通じて、インド、イスラーム世界、東南アジア諸地域、さらにはヨーロッパの文化が流入し、スマトラ島の染織文化は単一の系譜ではなく、多層的な影響の蓄積として形成されてきました。

 

バティックは、力強く、象徴的な文様が多い。

また、イカットでは、文様が完全には一致しないズレが、布に独特のリズムと生命感を与えています。

ここでは、「精密さ」よりも、時間と労力をかけた行為そのものの価値が強調され、工芸観の違いを実感させられます。


《カイン・パンジャン(腰衣)紺地格子小花文様バティック》(20世紀初頭) 東京国立博物館


《カイン・リマール(肩衣)茜地草花文様》(19世紀) 東京国立博物館

 

本展のハイライトとも言えるのが、浮紋織や金銀糸を用いた織物です。

文様が布の表面に浮かび上がるように現れる浮紋織は、視覚的な豪華さと同時に、極めて高度な技術を要します。

金糸を織り込んだ布は、儀礼・婚姻・祖先崇拝と深く結びついており、装飾性と精神性が分かち難く結びついています。


《チョッキ 紫地縞文様》(20世紀) 東京国立博物館


《ウロス(肩衣) 紫縞幾何文様》(19〜20世紀) 東京国立博物館

 

本展は、染織の技法紹介にとどまらず、布と交易、社会など、複数のレイヤーを丁寧に編み上げた構成となっています。

静かな展示でありながら、布一枚一枚が雄弁に語りかけてくる、密度の高い展覧会です。

 

 

 

 

会期:2025年11月5日(水)〜2026年2月1日(日)

会場:東京国立博物館 東洋館13室

   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

 

 

 

東京国立博物館で開催中の「KAKIEMON 伊万里焼柿右衛門の世界」展でこれは、と思う作品、《色絵花唐草文皿》の主観レビューをお届けします。


菊、牡丹など6種類の花が枝葉で輪状に繋ぎ合わされて縁を彩っています。

白磁の素地に、藍と赤・緑・黄などの上絵具を組み合わせた華やかな装飾が特徴です。

 

近付いてみると、初期に柿右衛門様式では基本的に用いられなかった金彩が用いられていることに気付きます。

面積が極めて小さい、装飾の主役にならない、という点で、豪奢さを誇示する金彩ではありません。

そのため、「新しい素材を取り入れながらも主張し過ぎず、奥ゆかしい」印象を受けます。

 

一方で、余白を大きく取った白磁の地と、鮮やかな赤絵が生むコントラストは非常に強く、視覚的な緊張感があります。

ここで重要なのは、赤は強いが、面積と配置が制御されている、という点です。

結果として、赤が全体を「引き締める」、金はそれを補佐する役割に留まる、藍が構造線として全体を統御する、という三層構造が成立しています。

 

このことから、抑制的な金彩から導かれる奥ゆかしさと、画面全体を引き締める赤絵との対比が視覚的な緊張と豊かさを生んでいると言えるのではないでしょうか。


《色絵花唐草文皿》(江戸時代・1699) 東京国立博物館

 

東京国立博物館で開催中の「KAKIEMONー伊万里焼柿右衛門の世界ー」展へ行って来ました。


17世紀初め、肥前有田地域では日本で最初の本格的な磁器生産が始まり、これらは近くの伊万里港から運び出されたことから伊万里焼と呼ばれます。

これらは、内戦により輸出が減少していた中国・景徳鎮産の磁器を補うようにヨーロッパに輸出されていましたが、やがて中国の模倣にとどまらない独自の様式が確立していきます。

 

本展では、17世紀の伊万里焼・柿右衛門様式の磁器を中心に、日本陶磁器史の中でも特に世界との関係が深い磁器文化を紹介しています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

世界と出会った伊万里焼ー初期の輸出色絵磁器

ヨーロッパで愛されたKAKIEMONーいわゆる「柿右衛門様式」

有田窯とKAKIEMONー染付も含む上質磁器

 

肥前・有田で、17世紀初頭に日本で初めて磁器が誕生しました。

中国から伝わった技術と、日本の原料・需要が結びつき、硬質磁器が成立します。

それは、「中国の代替」から始まり、技術的には未完成ながらも、新素材としての磁器の可能性が強く意識されています。


《色絵雲文水注》(江戸時代・17世紀) 東京国立博物館


《色絵花卉図壺》(江戸時代・17世紀) 東京国立博物館

 

1670年代に入ると、輸出伊万里は中国磁器も模倣から脱します。

濁手(にごして)と呼ばれる乳白色の素地に、赤・黄・緑・藍を抑制的に配した色絵が特徴です。

これらは、「柿右衛門様式」と呼ばれてきました。

ポイントは、「描かない部分=余白」。

器全体を埋めないことで、軽やかで気品ある印象を生みます。

こうした日本的美意識が、結果的にヨーロッパで高く評価されました。


《色絵唐子甕割図八角皿》(江戸時代・17世紀) 個人蔵

 

柿右衛門様式が確立した1670年代には、有田南川原地区一帯において、上質な高級磁器が作られました。

ここには色絵だけではなく、染付を含むものも含まれます。

柿右衛門様式同様、良質な磁土、シャープな作り、そして精緻な絵付けが見られます。


《染付雲龍文鉢》(江戸時代・17世紀) 東京国立博物館

 

本展を通して浮かび上がるのは、KAKIEMON=技術・美意識・国際性が結晶した日本磁器の到達点、という姿です。

静けさと品格で世界を魅了した磁器、柿右衛門を鑑賞してみませんか。

 

 

 

 

会期:2025年11月11日(火)〜2026年2月8日(日)

会場:東京国立博物館 本館14室

   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9