石川九楊大全 | パラレル

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上野の森美術館で開催中の「石川九楊大全」展へ行って来ました。

本展は、現代における書の美をひたすた追求し、言葉と格闘し続けてきた書家・石川九楊の書作品300点余を、前期・後期ひと月ごとに全て掛け替える大規模連続展覧会として開催されています。

前期の「【古典篇】遠くまで行くんだ」では、既成の書的情緒を否定・拒絶してきた石川がなぜ古典文学に挑んだのかを掘り下げています。

 

石川にとって古典への挑戦は新領域への序章でもありました。

日本・中国の古典文学を題材に、墨と紙のもたらすニジミ、カスレといった「東アジア的情緒」を極限まで突き詰めることで見えてくる限界を見定めること。

それは新たな表現の地平を切り拓くためには必要なことでありました。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

<第一室>天は暗黒。地は黄色。宇宙は広く茫漠である(千字文)

<第二室>長安に男児あり。二十にして心すでに朽ちたり(李賀)

<第三室>たとえば人を千人殺してんや、しからば往生は一定すべし(親鸞)

<第四室>世の末なれど、仮名のみなん今の世はいと際なくなりたる(源氏物語)

<第五室>そこはかとなく書きつくればあやしうこそものくるほしけれ(徒然草)

 

第三室には一見したところ、書には思えない作品が並んでいます。

「東アジアの書は西洋の音楽に匹敵するものである」と石川は主張します。

代表作である《歎異抄 No.18》(1988年)は、一点一画を数値化し、音楽として展開しています。

書がどのように音楽へと生まれ変わるのかを目の当たりにすることができます。

 

そして、源氏物語54帖に表題だけで本文のない「雲隠」帖を加えた全55点からなる「源氏物語書巻」は圧巻です。

活字では表しきれない情景や登場人物の感情の動きまでもが、気配のように立ち現れています。

特に、《源氏物語Ⅰ 澪標》(2008年)には目を奪われます。

性愛の挫折の心たる嫉妬は物語の主題です。

それを体現する光源氏の愛人・六条御息所が死にます。

一筆は一画、一文を一群塊とし、物語の主題を毛髪のごとき筆画の集合体で暗示しています。

 

その他、『萬葉集』をはじめ、『徒然草』『方丈記』『枕草子』や『良寛詩』など日本の古典・近代文学作品群も紹介されています。

本展は、書を世界大スケールの表現に深化させた、石川の全書業を一堂に集めるまたとない機会です。

時空を超えた壮大な「書の宇宙」を体感してみませんか。

 

 

 

 

 

 

会期:【古典篇】遠くまで行くんだ

   2024年6月8日(土)-30日(日)

   【状況篇】言葉な雨のように降りそそいだ

   2024年7月3日(水)-28日(日)

会場:上野の森美術館

   〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2

主催:石川九楊大全実行委員会、日本経済新聞社、上野の森美術館

協賛:株式会社思文閣、サントリーホールディングス株式会社、株式会社グラフィック、株式会社SCREENグラフィックソリューションズ、株式会社モリサワ、キンキダンボール株式会社、吉田浩一郎(株式会社クラウドワークス)、株式会社サンエムカラー、大塚オーミー陶業株式会社、京都精華大学

協力:株式会社ほぼ日、株式会社竹尾、株式会社ミネルヴァ書房、株式会社左右社、市之倉さかづき美術館、文学文明研究所