源氏物語の世界 | パラレル

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新潮選書から刊行となった中村真一郎著『源氏物語の世界』を読んでみました。

中村真一郎『源氏物語の世界』(2023)新潮選書

 

わが国の長い歴史のなかで、感覚的文明が最も高度に発達したのは、平安朝後期です。

そこでは文学も空前絶後の、豊かな感受性の実験の舞台となり、美と愛と性との陶酔的な融合となって、華麗な開花を行いました。

その中心にあるのが『源氏物語』です。

ほの暗い御簾の陰に潜む人間ドラマと、失意と孤独を抱えた作書・紫式部その人の内奥に、名うての読み巧者が光を当てます。

 

本書の構成は以下の通りです。

 

Ⅰ 紫式部と『源氏物語』

Ⅱ 『源氏物語』の世界

Ⅲ 『源氏物語』の女性像

Ⅳ 『竹取物語』と幻想

Ⅴ  王朝のエッセー

Ⅵ『狭衣物語』の再評価ー二つの変奏曲ー

Ⅶ『堤中納言物語』

Ⅷ『今昔物語』ー武士を頂点とする庶民の世界ー

Ⅸ『とはずがたり』による好色的恋愛論

Ⅹ  平安朝の女流文学

 

最初に、作者の紫式部の生活から、『源氏物語』という作品がどのように作られて行ったのかと考えます。

そして、作者の生い立ちを概括し、『源氏物語』という作品の含む、様々な要素について、散策的に語っています。

また、忘れてはいけないのが、物語のなかに次々と登場してくる女性たちです。

彼女たちを幾組かに分類、比較することによって作中人物の品評も試みています。

ここでは、空蝉ー夕顔、末摘花ー源典侍のグループが興味深いところです。

 

『源氏物語』以外にも、『竹取物語』や『狭衣物語』などの文学的位置付けも解説されており、その秀逸さには舌を巻くばかりです。

豊穣な王朝文学のなかへ、これから分け入って行く、良い羅針盤となることでしょう。