新潮選書から刊行となった中村真一郎著『源氏物語の世界』を読んでみました。
わが国の長い歴史のなかで、感覚的文明が最も高度に発達したのは、平安朝後期です。
そこでは文学も空前絶後の、豊かな感受性の実験の舞台となり、美と愛と性との陶酔的な融合となって、華麗な開花を行いました。
その中心にあるのが『源氏物語』です。
ほの暗い御簾の陰に潜む人間ドラマと、失意と孤独を抱えた作書・紫式部その人の内奥に、名うての読み巧者が光を当てます。
本書の構成は以下の通りです。
Ⅰ 紫式部と『源氏物語』
Ⅱ 『源氏物語』の世界
Ⅲ 『源氏物語』の女性像
Ⅳ 『竹取物語』と幻想
Ⅴ 王朝のエッセー
Ⅵ『狭衣物語』の再評価ー二つの変奏曲ー
Ⅶ『堤中納言物語』
Ⅷ『今昔物語』ー武士を頂点とする庶民の世界ー
Ⅸ『とはずがたり』による好色的恋愛論
Ⅹ 平安朝の女流文学
最初に、作者の紫式部の生活から、『源氏物語』という作品がどのように作られて行ったのかと考えます。
そして、作者の生い立ちを概括し、『源氏物語』という作品の含む、様々な要素について、散策的に語っています。
また、忘れてはいけないのが、物語のなかに次々と登場してくる女性たちです。
彼女たちを幾組かに分類、比較することによって作中人物の品評も試みています。
ここでは、空蝉ー夕顔、末摘花ー源典侍のグループが興味深いところです。
『源氏物語』以外にも、『竹取物語』や『狭衣物語』などの文学的位置付けも解説されており、その秀逸さには舌を巻くばかりです。
豊穣な王朝文学のなかへ、これから分け入って行く、良い羅針盤となることでしょう。