生誕180年記念 呉昌碩の世界ー金石の交わりー | パラレル

パラレル

美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

ご連絡はこちらまで⇨
yojiohara21@gmail.com

東京国立博物館で開催中の「生誕180年記念 呉昌碩の世界ー金石の交わりー」展へ行って来ました。


清朝末期から中華民国初期に活躍した呉昌碩は、書画篆刻の芸術に偉大な業績を遺しました。

中国では18世紀後半以降、古代の金属器や石刻など、金石の銘文を制作の拠りどころとする碑学派や金石画派が興ります。

呉昌碩もまた奥深い金石の研究に没頭しました。

とりわけ「石鼓文」の臨書は、呉昌碩の芸術を「金石の気」に満ちた素朴で重厚なものへと昇華させます。

後年、呉昌碩は上海芸術界の中心人物となり、その作品は日本でも愛好されました。

 

2024年は呉昌碩生誕180年にあたります。

本展はこれを記念し、「金石の交わり」のなかで築かれた呉昌碩の芸術を紹介するものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

中国の書跡

中国の絵画

中国文人の書斎

 

まずは、中国の書跡が紹介されています。

漢字は、各時代における様々な要求のもとに、読みやすさ・書きやすさ・美しさなどの要素を満たす、最もふさわしい姿が模索されてきました。

紀元前に考案された絵画的要素の強い篆書は、やがて隷書となり、草書や行書が生まれ、唐時代に楷書が完成しました。

 

篆書・隷書・草書・行書・楷書の五書体は、それぞれが人々の叡智の結晶であり、文字の構造だけでなく、審美的な側面からも考え抜かれたものです。

さらに筆・墨・硯・紙の改良によって、書の表現の幅は格段に広がりました。

 

楊峴は、帰安(浙江省湖州)の人です。

清末の学者で碑学派の能書です。

呉昌碩は37歳頃より楊峴に詩文・書法を学び、門生を自称しました。

《隷書六言聯》は、清に渡った日下部鳴鶴を楊峴ら同好の士が歓迎した席で贈られたものです。

漢隷に基づく得意の隷書で書写されています。


楊峴筆《隷書六言聯》(清時代・1891年)田中眞洲氏寄贈 東京国立博物館

 

《篆書般若心経十二屏》は、呉昌碩が74歳の時に篆書で般若心経を12幅に書写したものです。

款記によれば、かつて見た鄧石如の「篆書般若心経八屏」は剛柔、虚実をそれぞれ兼ねた用筆で、呉はそのことを肝に銘じて久しく、ここでは更に石鼓文の筆意をまじえて書写したと言います。

謹厳な運筆で端正な字姿をしています。


呉昌碩筆《篆書般若心経十二屏》(中華民国 1917年)高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館

 

陸恢は呉江(江蘇省)の人です。

清末民国期に上海の海上題襟館金石書画会などの美術団体で活動した海上派の書画家。

《書画扇面合璧軸》は、当時新たに出土した北魏の「韓顕宗墓誌銘」の臨書と清初の王翬(字石谷)が重んじた元の高克恭(号房山)を倣った山水画からなる書画合璧の扇面です。


陸恢筆《書画扇面合璧軸》(清時代 1895年)西林昭一氏寄贈 東京国立博物館

 

続いては、中国の絵画です。

中国における絵画の歴史は古く、中国人の人生や理想を反映しながら発展しました。

宋時代には精緻な宮廷絵画が最盛期を迎え、元・明時代には自由な精神を表現する文人画が発展しました。

 

日本人は奈良時代から中国絵画を愛好し収集してきました。

収集品には、現在の中国では失われてしまった作家やジャンルの貴重な作品もあります。

室町時代になると、足利将軍家が中心となって中国絵画を積極的に収集しました。

 

呉昌碩は梅花を好み、画題としても多用しました。

《梅花図扇面》は左右に広がる扇面を梅の枝によって斜めに分断し、右方に奇石を、左方に文字を密に詰めた賛を配して、左右のバランスを保っています。

呉の画は、賛を含めた構図や賛の書法も見どころです。


呉昌碩筆《梅花図扇面》(清〜中華民国時代 19〜20世紀)高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館

 

趙之謙は、明末清初の遺民画家、八大山人に倣って枇杷を描いたといいます。

《枇杷図軸》は、もともと四屏として作られたものの、最後の1幅。

余白を大胆にとり、金石の気のある力強い墨線と華麗な彩色を共存させた趙之謙の様式は、清時代末期に人気を博しました。


趙之謙筆《枇杷図軸》(清時代 19世紀)青山杉雨氏寄贈 東京国立博物館

 

《完白山人印譜》は、鄧石如の印影を収録した冊です。

鄧は幼少の頃に父から篆刻の手ほどきを受けて、はじめ徽派、浙派といった漢印を宗とする近人の作風を学びました。

篆書の学習が進むと、確かな筆法を印に反映させ、書と篆刻が密接に連関する新たな様式を開拓しました。


鄧石如作《完白山人印譜》(中華民国 1916年)小林斗盦氏寄贈 東京国立博物館

 

呉昌碩生誕180年を記念した展示は、本展の他にも、台東区立朝倉彫塑館、台東区立書道博物館、兵庫県立美術館でも開催されています。

あわせて鑑賞し、呉昌碩の世界を堪能してみてはいかがですか。

 

 

 

 

 

 

会期:2024年1月2日(火)〜2024年3月17日(日)

会場:東京国立博物館 東洋館8室