茶碗 茶の湯を語るうつわ | パラレル

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東京国立博物館で開催中の「茶碗 茶の湯を語るうつわ」展へ行って来ました。

 

茶の湯は、中国宋よりもたらされた抹茶による喫茶法が室町から安土桃山、江戸時代にかけて、僧侶や武家、町人のあいだに広く浸透するなかで、遊芸として発展しました。

本展は、特別展「本阿弥光悦の大宇宙」の開催に因み、日本の伝統文化を代表する茶の湯の主役ともいうべき「茶碗」を紹介するものです。

 

茶会を詳細に記録した「茶会記」をたどると、天目や青磁、高麗茶碗など、じつに様々な種類の茶碗が用いられていたことがわかります。

掛幅や茶器といった他の道具との取り合わせや演出の一部として自由に選ばれ、使用された様子がみてとれます。

 

茶事の初座、つまり正式な茶会の前半には床に軸を掛けます。

季節や茶事の趣旨によって、亭主が心を砕いて運ぶ掛軸は、茶会の「顔」と呼ぶべき重要な存在です。

 

茶の湯が「茶会記」に記録されるようになる天文年間(1532〜55)より、朝鮮製の「高麗茶碗」が多用されていたことが確認できます。

《青井戸茶碗 土岐井戸》は、高麗茶碗の中心的な種類である井戸茶碗の一種、青井戸の名品で、スッキリと直線的に立ち上がった形が特徴です。


《青井戸茶碗 土岐井戸》(朝鮮時代・16世紀)広田松繁氏寄贈 東京国立博物館

 

《建盞》は必見です。

南宋から元時代にかけて、福建省の建窯で焼かれた黒釉碗、いわゆる建盞は、日本に運ばれて次第に茶の湯の碗として珍重されるようになります。

ただし、天目期の頃には「建盞」と、建窯以外で焼かれた黒釉碗を指したと思われる「天目」の定義が曖昧であった様子がみてとれます。


《建盞》(南宋時代・12〜13世紀)広田松繁氏寄贈 東京国立博物館

 

「茶会記」には、古器だけでなく、リアルタイムの中国や朝鮮半島でつくられたと推測される茶碗も登場します。

特に16世紀半ば頃から、朝鮮製の高麗茶碗が人気を集め、頻繁に用いられていたようです。

 

さらに、茶の湯が隆盛期を迎えた天正年間(1572〜93)には、京都において茶人たちの理想を反映した革新的な楽茶碗が登場しました。

また、瀬戸・美濃や九州各地でも、中国や朝鮮半島にはない独自の工夫を凝らした器が次々と焼かれ、日本の製陶が大きく前進しました。

 

《無地刷毛目茶碗 銘 村雲》は、白化粧が施された穏やかな釉膚に、雨漏と呼ばれる染みが生じており、その景色から「村雲」の名がつきました。

朝鮮時代の祭器であったものを茶碗に見立てたもので、独特の形が印象的です。


《無地刷毛目茶碗 銘 村雲》(朝鮮時代・16世紀)平戸藩松浦家伝来 仰木魯堂旧蔵松永安左エ門氏寄贈 東京国立博物館

 

ベトナム、15世紀の黎王朝のもとで作られた五彩の器である《紅安南唐草文茶碗》も紹介されています。

日本にもたらされ「紅安南」と呼ばれ、茶人のあいだで珍重されました。

本作は戦前にインドネシアで事業家として活躍した岡野繁蔵旧蔵品で、裏千家14代無限斎(淡々斎)の箱書きがあります。


《紅安南唐草文茶碗》(16世紀)岡野繁蔵旧蔵 東京国立博物館

 

そして、日本製です。

美濃で16世紀末に作られた志野は、日本初の本格的な白いやきものであり、国産(和物)茶碗を代表する作例の一つです。

《志野茶碗 銘 橋姫》は大振りでやや裾広がりの筒形が特徴的で、この形は志野に先んじて美濃で作られていた瀬戸黒茶碗に近く、初期の志野と考えられます。


《志野茶碗 銘 橋姫》(安土桃山〜江戸時代・16世紀〜17世紀)松永安左エ門氏寄贈 東京国立博物館

 

天正期、茶の湯が深まりをみせるなか、新たに登場したのが楽茶碗です。

絶妙な削りによって手に心地よく収まり、茶を喫することに集中できる革新的な機能をそなえています。

楽茶碗の名は、陶工長次郎の工房が当初聚楽第のそばにあったことから付いたと考えられます。


長次郎《黒楽茶碗 銘 尼寺》(安土桃山時代・16世紀)仰木魯堂旧蔵 松永安左エ門氏寄贈 東京国立博物館

 

《黒楽梯子文筒茶碗》は、縦に大きくヘラ目を入れ、薄く削り出した筒茶碗で、胴部に大胆な梯子の絵を、またもう一方には小さく桐の絵を刻みつけています。

新しい時代を映すように、創意に富んだ樂家三代道入ならではの作です。


道入《黒楽梯子文筒茶碗》(江戸時代・17世紀)東京国立博物館

 

本展では、本阿弥光悦が生きた16世紀後半から17世紀初頭の茶の湯に注目し、中国・朝鮮、東南アジア、そして光悦の創作の原点ともいうべき楽茶碗をはじめとする日本の茶碗をまとめて紹介しています。

特別展「本阿弥光悦の大宇宙」とあわせてぜひどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

会期:2024年1月2日(火)〜3月10日(日)

会場:東京国立博物館 本館4室