博物館に初もうで | パラレル

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東京国立博物館で開催中に「博物館に初もうで」展へ行って来ました。


毎年恒例の博物館に初もうで。

今年は辰年です。

古代中国の天文学に端を発した十二支は、東アジアの人々の生活に深く浸透し、方角、月日や時刻、そして12年で一巡する年まわりを示すようになりました。

十二支にあてられた動物を十二支獣と呼び、辰には龍があてられています。

 

本展では、龍をモチーフとした作品を四つのテーマで紹介することで、辰年の始まりを寿ぐものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章 龍麗闊辰めでたし書画

第2章 龍は何しに日本へ!?

第3章 細工は龍龍仕上げをご覧じろ

第4章 筋骨龍龍今年こそ理想の体型に!?

 

中国古代人の豊かな想像力によって生み出された龍は、皇帝の象徴ともなりました。

会場入ってすぐ目に留まるのは、その中国皇帝や天皇による雄揮な「龍」字です。

《楷書四字軸「龍飛鳳舞」》は名君と称えられる清朝第四代皇帝康熙帝の書です。

「龍が飛び鳳が舞う」とは、雄壮で立派な様子を表した言葉です。

龍と鳳は「龍鳳呈祥」の句が示すように最上の吉祥ともされました。

光沢のある蠟箋と濃墨は、この書に威厳とめでたさを加えているかのようです。


康熙帝筆《楷書四字軸「龍飛鳳舞」》(中国・清時代 1686)高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館

 

また、堂々とした龍図の屏風や、龍に見立てられた梅の図のおめでたい雰囲気が新年を寿ぎます。

《龍虎図屏風》では、龍の巻き起こす風が波を逆立たせ、竹の葉を激しくなびかせています。

画面を支配する巨大な虎は、強風に耐えつつ竹林から歩み出て龍に対峙しています。

右から左への大気の流れが圧倒的で迫力満点なこの大作の著者直庵は、近世初期に堺を拠点に活躍した水墨画の巨匠です。


曽我直庵筆《龍虎図屏風》(安土桃山〜江戸時代・17世紀)東京国立博物館

 

《芝園臥龍梅記並詩歌》は、梅の木が荘厳かつ華やかに描かれています。

大きな幹や枝が地を這い、龍が横たわったように見えることから臥龍梅といわれます。

芝園(浜離宮)にたたずむ古い梅樹を、幕府奥絵師・狩野栄信が描いたものと伝わります。


狩野栄信画・成島司直筆《芝園臥龍梅記並詩歌》(江戸時代・1814)東京国立博物館

 

古代中国人の想像力によって生み出された龍はアジア各地へと伝わりました。

また、黄河の急流、龍門を遡ることのできた鯉は龍へと変じるとの伝説が各地で格好のモチーフとなりました。

 

《マリア観音像》は、中国・福建省の徳化窯産のいわゆる子安観音像を、日本の潜伏キリシタンが聖母子像として礼拝したものです。

幕府の禁教政策によって長崎奉行所が押収しました。

観音(マリア)の足元に龍を従えています。

禁教期のキリシタンはこの龍をどう見ていたのでしょうか。


《マリア観音像》(明〜清時代・17世紀)長崎奉行所旧蔵品 東京国立博物館

 

《五彩龍涛文長方合子》は、中国の万暦年間の景徳鎮官窯で焼かれた五彩です。

赤や黄、緑の上絵付けで地を埋めるように繁辱な文様表現を施すのが万暦官窯製品の特徴です。

蓋表の各面にあらわされた五爪の龍は、皇帝のシンボルです。

しかしその表情はどこか愛嬌があって、親しみやすさを感じます。


《五彩龍涛文長方合子》(明時代・1573〜1620)広田松繁氏寄贈 東京国立博物館

 

細やかで巧みな技を用いた龍の作品も紹介されています。

《龍涛螺鈿稜花盆》は、火炎宝珠を見据える龍の姿は躍動感にあふれ、そのまわりには雲が逆巻いています。

鱗の一枚一枚を螺鈿で細かく表現することで、見る角度によって色が微妙に変化し、まるで生きているかのようです。

中国螺鈿の名品として名高い作品です。


《龍涛螺鈿稜花盆》(元時代・14世紀)東京国立博物館

 

《自在龍置物》は、銀製の龍で、鍛造した部材を細かく組み合わせており、銅、脚、爪、口を動かすことができます。

箱書に「自在龍」とあることから、現在この種の作品を自在置物と称しています。

自在置物には龍や蛇、海老、昆虫などがあり、いずれも胴や節、脚などを自由に動かすことができます。


里見重義作《自在龍置物》(明治時代・20世紀)東京国立博物館

 

スマートで引き締まり生き生きとした龍の造形は、逞しさを表現させれば日本彫刻史上ならぶもののない鎌倉彫刻に見事に表現されています。

十二神将像や舞楽面などにも龍があらわされています。

 

十二神将は薬師如来に付き従う仏教の守護神で、日本では平安時代以降に十二支と結びつきました。

《十二神将立像(辰神)》は躍動的な姿と写実表現に優れ、鎌倉時代の運慶系統の仏師の作と考えられます。

頭上の龍と、歌舞伎役者が見得を切るようなポーズには注目です。


《十二神将立像(辰神)》(鎌倉時代・13世紀)京都・浄瑠璃寺伝来 東京国立博物館

 

舞楽「陵王」は羅陵王または蘭陵王とも呼ばれます。

用いられる面は、中国・北斉の武勇の王、蘭陵王長恭が出陣に際して着した怪異な面に由来し、頭上に龍がまたがるのを定形とします。

数多く残る陵王面の中でも、《舞楽面 陵王》は鎌倉時代に遡る優作で、ユーモラスな龍が見どころです。


《舞楽面 陵王》(鎌倉時代・13〜14世紀)和歌山・丹生郡比売神社伝来水野忠弘氏寄贈 東京国立博物館

 

辰年の始まりに、技巧を凝らした作品の数々が見せる、龍の堂々とした姿やユーモラスな表情を楽しんでみてはいかがですか。

 

 

 

 

 

 

会期:2024年1月2日(火)〜28日(日)

会場:東京国立博物館 本館特別1室