国宝 雪松図と能面×能の意匠 特集展示 新寄贈能面 | パラレル

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三井記念美術館で開催中の「国宝 雪松図と能面×能の意匠 特集展示 新寄贈能面」展へ行って来ました。


毎年年末年始の恒例となっている、国宝《雪松図屏風》の展示。

今回は、能面と能の意匠をテーマとし、三井記念美術館が所蔵する能面・能装束のほか、能にまつわる茶道具などを紹介しています。

また、橋岡一路氏より新たに寄贈を受けた能面も展示しています。

能の厳かな雰囲気とともに、華やかで美しい色やデザイン、作品の中に広がる豊かな能の世界を楽しめる展覧会となっています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

能面

茶道具

国宝雪松図・能装束

能面・楽器

特集展示:新寄贈能面

 

本展では能面の「表情」に着目しています。

「表情」とは、感情が顔にあらわれたものです。

人間には、基本六感情(喜び・嫌悪・驚き・悲しみ・怒り・恐れ)があり、それらの感情が顔のパーツ・骨格・筋肉・皮膚・皺などの位置や形状の変化によって様々な表情として顔にあらわれます。

 

一方、能についてはどうでしょうか。

能は役者が能面をかけて舞い謡ういわゆる仮面劇です。

しばしば無表情のことを「能面のような顔」と言い表すことがありますが、能面は決して無表情ではありません。

舞台上で能面の目や口が動くことはありませんが、観客は豊かな感情を受け取ることができます。

これは、能面があらゆる感情を凝縮した一つの造形であるからともいえます。

 

会場入ると、伝春日作《翁(白色尉)》(室町〜桃山時代・14〜17世紀 三井記念美術館)が出迎えてくれます。

天下泰平・五穀豊穣を祈る演目『翁』で主役の翁が掛けます。

能面の特徴である「への字形の目」と「切顎」(顎の部分を紐で繋ぐ構造)が、目を細めて穏やかに微笑む様子を表しています。

丸みを帯びた皺の盛り上がり、鼻の付け根から鼻先にかけての穏やかな起伏など、柔らかな肌の質感表現も見どころです。

 

伝赤鶴作《大飛出》(室町時代・14〜16世紀 三井記念美術館)は、『加茂』『嵐山』などの雷神や蔵王権現の役に用いられます。

大きく飛び出した目が特徴で、目には能面において神威を示す金具が嵌められています。

目を見開き、口を大きく開けて真っ赤な口内を見せる表情は、強烈なエネルギーを感じさせます。

目の見開きに伴い、大きく引き上がった眉の表現や、皺一つないつるんとした張りのある肌の質感も見どころです。

 

出目満照作《景清》(桃山時代・16〜17世紀 三井記念美術館)は、『景清』の専用面です。

源氏に敗れ流罪とされ、盲目の身になった武将・平景清の姿を表しています。

窪んた眼窩とと細長く刳り抜かれた目で盲目の様子を表します。

額には血管が浮き出て、眉間や目尻に皺が刻まれ、無念の表情が窺えます。

景清は平家滅亡の世を見かねて自ら両目をえぐり取ったとも言われていますが、それを表すかのように上瞼の中央がへこんでいます。

 

能舞台を彩る能装束は様々な種類があり、組み合わせや着方によって配役の性格を表します。

本展では、能装束の中でも特に華麗な唐織と縫箔を中心に展示し、その色彩や文様に着目しています。

 

その中でも目を引くのが、《紅地御簾葵檜扇模様唐織》です。

全面に御簾を織り表し、葵と檜扇を配した唐織です。

御簾は、平安時代の御殿などで用いられた簾です。

葵と檜扇は色彩の変化を見せながら、御簾を飾るようにリズミカルに配されます。

『源氏物語』の一場面を想起させるような格調高い一領です。


《紅地御簾葵檜扇模様唐織》(明治〜大正時代・20世紀)三井記念美術館

 

《茶納戸島取地秋草模様唐織》は、秋草と露芝を斜めの縞状に配した唐織です。

菊や撫子など様々な草花の合間には、三日月形の芝草に丸い露をあしらった露芝が表されています。

地色は灰色と薄茶色を交互に表し、秋草も色味が抑えられ、絢爛豪華な唐織の中では渋い雰囲気が漂う珍しい作例です。


《茶納戸島取地秋草模様唐織》(明治時代・19世紀)三井記念美術館

 

展示室の最奥部には、《雪松図屏風》が展示されています。

墨と金泥と金砂子を用い、紙の白さを活かしながら、輪郭線を表さない没骨技法で雪中の松と土坡が立体的に描かれています。

写生と伝統的な装飾画風が見事に融合された、円山応挙の代表作例です。


円山応挙《雪松図屏風》(江戸時代・18世紀)三井記念美術館

 

展覧会の後半は、能面の表情をつくる要となる「目」と「口」に焦点を当てています。

伝福来作《山姥》(室町時代・14〜16世紀 三井記念美術館)は、『山姥』に用いる専用面です。

山姥というと、山に住む老婆のイメージが一般的ですが、能における山姥は、山の神秘を象徴し、大自然のスケールを示す存在とされています。

目は黒目の部分にのみ金具を嵌め、白目の部分を朱としています。

老人でありながら、肌に張りがある逞しい顔つきですが、黒目の部分だけが光る眼差しからは、ただならぬ神秘的な性格が窺えます。

 

伝龍右衛門作《泥眼》(桃山時代・16〜17世紀 三井記念美術館)は、つい見入ってしまいます。

泥眼の名称は、白目の部分に金泥が塗られていることに由来します。

『海女』の龍女のほか、『葵上』の六条御息所の生霊、『鉄輪』の嫉妬に狂う女性などに用いられ、白目と歯先部分に表された金色の表現が超人的な性格を示しています。

やや冷たい美しさが魅力の女面ですが、金泥の鈍い輝きが霊的で怪しい雰囲気を増長させています。

 

また、楽器も紹介されており、《御用車夕顔蒔絵太鼓胴》(江戸時代・18世紀 三井記念美術館)は優作です。

本作は、御用車と夕顔を表した太鼓胴です。

胴の両側に対称的に御用車を配し、その合間を夕顔が蔓を伸ばし咲き乱れています。

夕顔と御用車の組み合わせは、『源氏物語』「夕顔」の帖の場面を暗示すると考えられます。

特に御用車の装飾が緻密で、前簾や物見窓には流水に楓、花菱などの文様が表されています。

 

このように、本展では能面の豊かな表情に触れ、古の人々の感性に思いを馳せながら、《雪松図屏風》を楽しむことができる贅沢な展覧会です。

能面の構造や鑑賞ポイントを学べ、その高い精神性にも触れることのできる機会です。

おすすめします。

 

 

 

 


 

 

会場:三井記念美術館

   東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館7階

会期:2023年12月8日(金)〜2024年1月27日(土)

開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)

休館日:月曜日(但し1月8日は開館)、年末年始 12月25日(月)〜1月3日(水)、1月9日(火)

主催:三井記念美術館

問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)