A Fairy Tale-青い薔薇の精-/シャルム! 東宝観劇感想 | 百花繚乱

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駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。


■人間の時間と永遠の時間

トート、エドガーなど明日海さんの演じてきた異界の役は始まりも終わりもない時間に属していて、人間を永遠の時間に連れ去ったが、今回の薔薇の精霊エリュは、人間の時間によって永劫の漂流という罰から解き放たれる点が、これまでの役が救済されるようでとても感慨深かった。

 

 

白い薔薇の精であったエリュが、姿を見た少女に忘却の粉をかけるのを拒んだために、女神に青い薔薇に姿を変えられ、霧の世界に閉じ込められるという罰を受ける。

呪いを解くために少女を探していく過程で、人間の時間の効用と情愛を知り、記憶から消えることを受け入れる。

 

物語としては、罪のために王子が野獣に変えられたり、妖精が人間界に落とされて声を奪われる「美女と野獣」「PUCK」のように、本来の姿でなくなったとき、愛によって救済される型の御伽話に属すると思う。

退団公演で悪霊・怨霊にはできないため、冥界に閉じ込められた霊になったのかと勝手に推測しますが、白でも青でも変わらずひたすらに美しく、落差に乏しいため、罰の悲劇性が薄れてしまった感はありました。

PUCKはハーミアを守るために禁じられた声を出すし、野獣は自分の呪いが解ける期限が迫っていることを知りながらも美女を逃がし、自己犠牲を払って愛する相手を助ける。

エリュはといえば見守る存在で、直接関わって少女シャーロットへの愛の真摯さを証明するシーンがなかったのは、まるで舞台の上の妖精のよう。

夢がないと現実に負けてしまいそうになる大人達の、一方向性のまなざしの先にある人のように。

 

クラシカルな世界に対して言葉が現代的で直接的だったり、ストーリーと楽曲の関連性が乏しく唐突に感じるところもあったけれど、すべては明日海さんへの惜別の思いとれいちゃんや組子へ花園を託す演出によって美しく彩られてました。

 

英国式庭園の理想化された自然の姿、多種多様の植物が共生して伸びやかに茂っている空間に、ニンフに扮したヴァニラ色の花娘達がたおやかに集っている姿はとてもロマンティックで、現代的な演目とはまた別の古典教養主義的な美しさを楽しめました。

 

 

植田先生がおっしゃってたように、この物語の主人公は、エリュより愛より、時間だったように感じる。

シャーロットがエリュを見失うのも、再びエリュが見えるようになるのも、エリュが何かを働きかけたわけでなく、人間の時間のしわざ。

 

人間の時間は始まりと終わりがあり、直線的に一方向へ進んでいく。

限りあるゆえに、ヴィッカーズ商会の研究員ケヴィン(優波慧)の家族達のようにささやかな日常と情愛がいとおしく感じられるし、シャーロット(華優希)の苦しみの時期も時がやがて運び去ってくれる。

過ぎゆく時間の中でも、シャーロットの絵本が子供達に与える夢想や庭師ニック(水美舞斗)から甥の植物学者ハーヴィー(柚香光)に受け継がれる生命への畏敬のように、変わっても変わらずに手渡されていくものがある。

それを知ったときに、エリュが有限の時間を受容し救済される結末は、退団していく明日海さんへの演出家からの最大の餞だと感じました。

  

■花男×大英帝国  花娘×真夏の夜の夢

華優希ちゃん、トップ娘役就任おめでとうございます。

白いドレスに、小花がついたサックスブルーのチョーカー姿、みずみずしくて可憐なヒロインぶりに見惚れました。明日海さんとの並びもとても美しかった。

少女から老婦人までの人間の時間の変化を演じ分けていたのも素晴らしかったし、大好きだったのは、びっくの妻の時の襟に大きなレースの付いた黒衣のドレス姿。

貴婦人の落ち着きと凛とした美しさがあって、少女時代よりも私は好みでした。

 

イギリスの邸宅、妖精の庭、ロンドン駅の雑踏など、アーチ上の張物が幾重にも配置された空間構成が、科学の黎明期の英国のクラシカルな雰囲気を漂わせていて美しい。

花男達はこういうフロックコートに山高帽、傘差してるようなノーブルで知的なスタイルが似合いますね。

ヴェッカーズ商会はしぃ様、ゆうなみ君含め、相変わらず手堅い仕事っぷり。(新人公演では春矢祐璃君がもしゃもしゃ頭でキュートでした)

あかちゃん(綺城 ひか理)の品があって少し四角張ったきびきびした佇まい、古きよきロンドンの紳士にぴったりでした。(シャーロック帽似合うだろうNo1)  星組のジェントルマンとして、これからもひときわ輝きますように。

 

妖精達のさりげない身のこなしがとてもロマンティックで、動きの少ない舞台の中で、バレエの「ラ・シルフィード」のような幻想的な雰囲気を作り上げてた。

あかり姉さんと更紗那智ちゃんはニンフそのものだったし、音くり寿ちゃんの妖精が、コケティッシュで柔らかくて、エリュにやたらなついてなでなでしてもらってるのがニャンコのようにかわいい。新公も圧巻でした。

乙羽映美ちゃんはまさしくレディ・ミステリアス、女神にふさわしい美しさ。

あかり姉さんもそうなんだけれども、量感のある色気を感じさせてくれる娘役さんがとても好きでした。

 

くみさん(芽吹幸奈)は、はまり役のしっかりした養育係。印象的だったのはエリザベートのリヒテンシュタイン。折り目正しさと温和さを併せもった娘役さんで、舞台を見ると安心感があった。

光ちゃんのまじめな繊細さ、あきらオジのかっこよさと一抹のおかしみ、マイティの穏やかで誠実な美丈夫ぶり、みれいちゃんの愛にあふれた聖母ぶり、春妃うららちゃんの品格のある妻役、皆とてもはまり役でした。

 

 

最後のシーン、爛漫に咲き誇る白薔薇の庭の豊麗な美しさは壮麗。

エリュが白き精霊となって天へ上っていくシーンは、トートの昇天を思いだした。

違うのは、エリュは人間と共に生きる精霊として転生し、永遠の時間から、人間の時間へ還って行くこと。

千秋楽、純白の世界の中で神々しいまでに光り輝く明日海りおの姿は、エリュという役を越えて、永遠の旅路についたロミオやギィや四郎達までもが幸福な世界へ転生する姿を目にするかのような、荘厳なグランフィナーレでした。

 

 

■シャルム!

Melodia赤ラテン&beautiful gardenの怪しげゴージャスな明日海さん、サンテのジゴロに似たシャイニー縦縞スーツベルバラを髣髴とさせる地下舞踏会の軍服ファンタジアビジュー白シフォンwithデコバンド、台湾ファンタジアのF4オレンジシフォン・・・これまでの役とショーが一気によみがえってくるようなお衣装達。

劇とはうって変わった気障り全開が嬉しい。

 

明日海さんの作品は、テーマソングがすごく耳に残る。

私のituneには「casanova」「「幻想曲 花」「Santé!!」「Melodia」などのタイトルロールがずらり。

フックの強いメロディーに滑らかに乗ってくる歌声と、花組子の色っぽい囁き声の合いの手 &反復が麻薬みたい。

 

 

言語学者の方が明日海さんが、pの形を発音する時に唇をつけずに歌っていることに驚嘆なさってた呟きを拝見したけれど、いつでも完璧に口角が上がった状態で朗々と歌い続ける明日海さんの歌が大好きだった。

酔ったような艶っぽさのある歌声で、ベースには宝塚の男役としてのけれんみを感じる。

明日海さんが歌うと、どの歌も宝塚に聞こえる。

Jpopは苦手とするジェンヌさんも多い中で、「楽園」「HOT STUFF」「恋をとめないで」 何を歌っても見事に「明日海化」されていて、恋するARENAの「さよならの向こう側」も、しっかりと宝塚の明日海りおの「さよならの向こう側」になっていて、しびれた。そして泣けた。

 

そして黒燕尾。

サンテの黒燕尾、Cocktailの乾杯を目にしたときに、自然に涙が零れたのを覚えている。

明日海さんの男役に対する神聖な誓いを目にしたようで。

黒燕尾はどの組でもそうだけれど、特に明日海さんの黒燕尾に漂う集中力と緊迫感には、こちらも背筋がのびるような思いがした。

 

柔らかなピアノの音色にのせて、明日海さんの最後の歌がスポットライトの中から客席に染み渡るのがとても美しい。

壮さんが歌ったケ・セラ・セラを、愛と感謝を伝える歌だったのに対して、明日海さんのケ・セラ・セラは、「明日」を信じる希望の歌

銀橋を一歩一歩、力強く踏みしめながら歩む姿は行進のようで、決意と誇りと共に歩んできた「明日海りお」 の足跡に万感の思いがこみあげた。

 

シャルムで印象に残ったのは、Night jungleの明日海さんのダンス。(縦じまスーツのシーン)

並居る花男を後ろに控えて、堂々たる魅せるダンスで、力が適度に抜け、洒脱で成熟した男の風格まで見えた。

体格を越え、男役として魅せるダンスを最後の最後の最後まで追求し続けたことが伺えるその姿が、最高に気障だった。

 

どの姿も美しかったけれど、パステルブルーのお衣装で、ローズピンクのドレスの娘役さん達に囲まれた夢夢しさは、これぞ宝塚、これぞ明日海りお、という感じ。

ショーで見せる明日海さんは、女性が演じる男役の甘さという宝塚の最大の魅力があって、「わー、きれーい、すてきー、宝塚だー」という素朴な感動を、いつも思い出させてくれた。

 

 

東京公演パンフレットの最後に、菫色のお衣装に身をつつんだ妖精の姿が閉じ込められている。

17年を経てなお、このみずみずしい透明感のある美しさに、すべては夢まぼろしのひと時だったのかと思うほど、あまりに美しい幻影でした。

 

 

 

 

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