宝塚雪組 壬生義士伝 東宝観劇感想②美のハレーション | 百花繚乱

百花繚乱

駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。

 ※以下内容に触れてあります

■望海風斗/吉村寛一郎

ずっと笑っているだいもん吉村に、得体のしれない怖さを感じる。

冒頭の南部の田畑に囲まれている時、しづに求婚した時までは屈託のない笑顔を見せるけれど、そのあとは、苦しくても悲しくても、ただただ笑っている。

それが怖くてかなしくて。

雨ニモマケズではないけれど、「決シテ驕ラズ イツモシヅカニワラッテヰル」

南部者の頑固一徹さと腰の低さ、素朴さの中の強靱さが笑顔の中に同居していたと思う。

しづと似ているみよと一緒にいるときだけは、笑いを無理につくらない穏やかな顔をしているのがまた泣ける。

 

迫力だったのは、斉藤との立ち回りと刀の伽代を要求するシーン。

 

「死ね」と 斉藤に恫喝された吉村が、鍔迫り合いをしながら 「いんや、死ぬわけにはいかん」 と本音を見せるところと、立ち去るとき 「失礼、つかまつりヤンス」 で瞬時に仮面にもどる落差。

 

隊士仲間の切腹を介錯した”お清め代”を土方からもらうとき、通常の手当てに加えて、刀のとぎ代と称してさらに金を要求するシーン。

 

「とぎ代」 と、土方がひそかに驚き、吉村の了見を問い直す翔ちゃんの迫力も素晴らしかったし、だいもんが 「生きるために人を斬っておりやんすから」 と顔は笑いながらも一歩も引かぬ緊迫感にぞくりとした。

 

 

望海さんの演じる役は白い役か黒い役と、とても極端なことが多い。

今回の吉村は白くて黒く、黒くて白い、両者を併せ呑んだ役で、幕末という狂気をはらんだ騒乱の時代に、矛盾を引き受けて生き抜く武士の強さと哀しさを巧みに滲ませた生き様にさすがの説得力があった。

 

 

誠の群像の土方とか、幕末太陽伝の高杉のような、いかにも宝塚の襟を正した侍姿もかっこよかったけれど、今回みたいなちょっと所帯じみた中に漂う男臭さも大変好きでござんした。

身も蓋もない俗なことを言うと、浮気しない妻帯者のおっさんがモテるみたいな、守るものがあってほかに見向きもしない人が魅力的に見えるというか。

みよ、あんさんお目が高い!! 

並み居る美剣士じゃなくて吉村選ぶあたり、さすがだよ。

 

 

立ち回り、吉村の剣は剛剣で、勢いで一気に叩きのめすような剣。

斉藤の剣は下段の構えから水平に凪ぎ切るような太刀筋が多い。

二人の剣の違いが見えるようでとても面白い。

 

 

最後の切腹のシーンは、だいもんの独壇場。

よれよれに曲がったやせた刀と、遺書を筆とって書こうとしてとれず、指で書くシーンで心が千切れる。

途切れ途切れの独白のとき、舞台上の世界と客席の世界が、違うはずなのに、つながる気がする。

だいもんは、歌も言葉も身振りもたたずまいも、持てるすべてを使って全身で伝えてくる

舞台の摩訶不思議な醍醐味を浴びて、涙する。

 

おもさげ、ながんす。

 

 

■真彩希帆/しづ・みよ

大好きだったのは、みよのシーン。

華やかな振袖姿に、いかにも金持ちの鼻っ柱の強そうなわがままっぷりがかわいくてたまらん。

大阪ネイティブの方からすれば突っ込みどころがあるかもしれませんが、「ふんっ」 (プイッ)  のまあやちゃんの大阪弁の愛らしさに、客席でめためたに崩れ落ちておりました。

 

見合いの席でも、完全に話は決まったような嬉しげな笑顔でいる世間知らずのお嬢様ぷり、断られて強がる様も、みよらしくてうまい。

殺伐として派手ではない場面が多い作品の中で、みよのシーンは一瞬明るさとそれゆえの哀しさを残した好きな場面でした。

 

本舞台の切腹する吉村と交差して、銀橋を歌いながらみつがわたるシーン。

まあやちゃんの透明な美しい歌声が響き渡るのが哀切。

あ、でもね、石田先生、あの時代、残り香はもうさすがに残っとらんと思うのですよ。(演歌じゃございやせん)

 

 

■彩風咲奈/大野次郎右衛門

だいもんもずっと 「ちぎさんと仲間の役がやりたいーー」 と切望してたけど、咲ちゃんは咲ちゃんで、仲間は仲間なんだけど、完全に道が別れてしまったり追い詰める役が多すぎて、さらに辛い役どころ。

だいきほのラブラブ生存ストーリーを切望するのと同じぐらい、肩叩き合ってガハハ、みたいな能天気なバディ役をやらせてあげてくれーと願っております。

 

咲ちゃんは、今回はずいぶんな辛抱役だったと思いますが、心優しさを見せる場面がいいなあと思う。

「剃刀次郎衛門」などと切れ者として一目置かれていても、中身はずっと心細げな心の柔らかな男の子だったのかもしれないなあ、と、みとさんとのシーンを見て思いました。

側室の子が名家の跡取りとなって、侮られまい藩を守りたいと、大野は大野の戦いがあったのだな、と原作より感じさせた。

 

 

■新撰組

宝塚の新撰組は美しくてなんぼじゃあああ!!

 

清涼感!!  品格!!  抑えた和の色気!!

 

これやで!!と、ばんばん膝打ちすぎて、半月板割れるわ!

 

今回の土方・斉藤・沖田の並びの美しさったらない。

翔ちゃん、あーさ、ひとこの銀橋わたり、USAの間奏の振りみたいに、永遠に100往復ぐらいしててほしい。 (東西公演合わせるとそれぐらいしてるか)

美×美×美で、もはや美がハレーションを起こさんばかりの勢い。

新撰組の曲の歌詞は、何を言っているんだかてんで聞き取れないのだが、視覚補正されるのでなーーんの問題もなし!

 

 

でもって、美しいだけじゃなくて、今回の新撰組はいつもより男くさい、と感じた

不機嫌な斉藤の暴力性もそうだし、小川の切腹を見学している場面の一堂の不敵な感じも不隠。

斉藤と沖田が目配せしあって谷を嘲笑したり、谷を殺してしれっとしてる態度も、値踏みしあい、排他しながら組織をつくっていく男性集団の暗い一側面を思わせるリアルな感触がある。

 

あーさ、魅力の目の美しさがよく生かされてた。

長い刀を左手で操るたちまわり、見事に奮闘してました。

斉藤のやさぐれ感とかイきり感が、あ、そういえば、新撰組って若い集団だったんだな、と思い出させてくれた

世の中が嫌いで、苛立っていて、それをすぐ態度に出す斉藤に対して、辛酸をなめても決して絶望しない吉村の強さが際立った。

鹿鳴館のときは、もう少し老け感があってもよかった気がする。一人時を止めたような姿もらしくてよかったが。
 

 

ひとこちゃん甘さと残酷さの入り混じった沖田も絶品でした。

特に声!

涼しげでよく通る声が沖田のイメージそのままで、「ふふっ」て笑うとことか、斉藤を「ハジメ君」呼ばわりとか、無邪気なくせに妙な色気がありすぎて、え、こんなもの見ていいの?と汗かいてしまった。

穏やかな微笑を浮かべてるのに絶対に笑ってない目とか、死と殺気が濃厚に漂うところとか、底冷えするような怖さで、涼やかな美しさといい、見事なはまり役でした。

 

今回のまなはるの近藤さんは、リーダーシップより俗物っぷりが強調された役どころで、黒紋付に仙台袴の姿がかっこいい。翔ちゃん土方との並びは、さすがに同期ならではの安定感がある。

カリ様伊東の知的な鋭さも秀逸だし、あす君の小川さんは、宴会の席で斉藤さんが不機嫌になり始めたあたりから心底怯えきっていて芸が細かい。

たっちーとまちくんの原田と永倉とはコミカルさと同時に、新撰組の中核である剣豪の海千山千ぷりさえ感じさせる名バイプレイヤーっぷりでした。

 

 

■彩凪翔/土方歳三

これはもう別項にせざるをえん!

あのどっしりした落ち着きっぷりと色気で、殺人・内ゲバ集団新撰組が一気に正当化されとる!

 

・「あー、めんどくせえ↑、めんどくせえ↓」  → 面めーーん!

 

・刀を納めるとき、血振りをして、くるりと一回転してから鞘に納める (なんじゃそりゃ!!)   →胴っ!

 

・宴会で、手枕に寄りかかり、片膝立てて酒をのむ  →小手っ!! 

 

・見合いの席で、下からうちわを仰ぎ、着物の襟元をあける   →突き!!!!!

 

ま、参りやんした。

一本とられるどころの騒ぎじゃない。た、立ち上がれん。

 

 だいたい宴会でさ、近藤さんさしおいて、土方さんのとこだけ芸者衆が3-4人はべってるよ?

手枕に半身もたれかかる男臭くもしどけない色気、

光源氏なの? 柚香光のフォトブックなの??  (※柚香光がゴージャス花娘四人はべらかすショットがあります)

刀も一人だけ赤いよ??

 

新撰組で集合写真撮るとき、凪様土方、斜めにポーズ決めてるんだけど、えーーっと、そのポート、来月の歌劇とかに載るってことでいいですよね?

 

だいたい、新撰組が登場して春の宴で、近藤・伊東・谷のインテリ家柄万歳派を、斉藤・沖田・土方の試衛館以来の古参が冷ややかに眺めてるシーン。

「百姓上がりの土方は己に卑しさを感じている。だから谷みたいなやつを抜擢しちまった」

という堅い説明のせりふ、片手に食いかけ三色団子もってる!!

そして、説明終わってまた頬ばる!!! 

 

タバコならわかる。三色団子片手というあんな間抜けな格好を、あんなに渋くかっこよく決められる人、凪様以外いる?

で、極めつけの、「あー、めんどくせえ↑、めんどくせえ↓」

 

ご、ごぶっ・・・ (喀血)

 

総司の喀血ってさ、単に凪様土方近くで見すぎたんじゃないの?? 

死ぬわ、そりゃ。

 

凪様の土方は、じいっ・・と見つめる。

物事の底を見極めるように、目を最後まで離さない。

「おもさげながんす!」 と隊士が、吉村を半分親しげ、半分揶揄気味に笑うときも、土方は笑わない。

幕臣にとりたてられ、「お手当てはいかほど」 と吉村が切り出したとき、呆れる近藤、目をひんむく斉藤、泰然自若とする沖田、騒然とする一同に対して、凪様土方は全く動じない。

小川の切腹のときも、じいーーと一部始終を見つめるまなざし、どんなときも、土方の風格がある。

 

上司にしたい隊士No.1抱かれたい隊士、もとい斬られたい隊士No.1、土方歳三こと彩凪翔

 

袴は私服と言い切る凪様の色気、余裕、貫禄・・・雪組の至宝です。

おもさげながんす。

 

 

■子供達

吉村たちの次の世代を演じる嘉一郎・千秋・みつらの瑞々しさが、切なくも救いになりました。

特に彩海せらちゃん演じる嘉一郎のいかにも清らかで懸命なたたずまい、意思の強いキラキラとした瞳が、いかにも吉村の嫡男らしい。

 

医師の道を歩んだ大野の息子・千秋も、あやな(綾凰華)ちゃんの優しげな持ち味とあいまって、知的な穏やかさを醸し出していてよかった。

あやなちゃんと朝月希和ちゃんのみつは、鹿鳴館のシーンで、ちゃんとアイコンタクトをとってる。

二人の寄り添い方が、確かに夫婦だな、と感じさせた。

父親の残酷さを見つめる目、嘉一郎に対して、父が切腹を命じたと告げられないが親友に嘘もつけない真摯さが、よく伝わってきて、あやなちゃんの優しげな雰囲気ととてもあっていた。

 

そう、あの谷の息子の修三君演じる眞ノ宮るい君も、旗本の息子らしい品と若々しさがあってきちんと爪あとを残す。

彩みちるちゃんは相変わらずの芝居巧者で、幼いみつがこらえるへの字口が涙をそそる。

 

そして、大野の家臣のお二方、望月篤乃君と朝澄希君、面構えがいいね!

裃姿も凛々しくて素晴らしい。

 

いつもタカラヅカニュースの新人公演トークで雪組下級生達が役作りについて語っているのを見るのをとても楽しみにしている。

贔屓組だからというのもあるが、和服のたたずまいも板についていて、とにかくみんな真面目に丁寧に役に向き合っている様子が伺えてとても頼もしい。

 

 

 だいもんが体を張って魅せ、まあやちゃんが寄り添い、組子が一丸となって役どころをしっかり勤め上げる。

何が何でも作品をまとめ、見せてくる雪組の力に改めて惚れ直しやんした。

 

 

関係者各位様、今の雪組で新撰組ものをやってくださって、改めて、おもさげながんす

幕末きってのあだ花を、今を盛りと咲き誇る清風佳麗な雪男が、きれいにかなしく咲かせて見せあんした。

舞台もそのただひと時のあだ花、まっことあっぱれな花こば見れて、お有難うござんした。

 

 

 

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