えと文を語れ | 百花繚乱

百花繚乱

駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。

タカラジェンヌに要求されるもの、第一に「容姿端麗」、

歌唱・クラシックバレエ・ 演劇といった芸能の基礎

舞台人としての協調性、上下級生の序列 、お客様や目上の方への礼儀作法、

「清く正しく美しく朗らかな」 品格 

そして、画力

 

ジェンヌさんとイラストはきっても切り離せない。

宝塚を見始めたとき、イラストプレゼンの多さに度肝を抜かれた。

GRAPHやスカイステージでも 「絵しりとり」 は定番の企画だし(20年ぶりに見た)、年はじめに各組トップスターコンビがリレーのように描き込んで一枚の絵を完成させたり、 「トップさんが、組子たちが描いたイラストをみ見て、誰が書いたかあてる」 という企画すらある。

イラストレーターさんならいざ知らず、いっちょ前に成人した大人が、ここまで日常的に絵をかくことを要求されることはなかなかないと思う。

 

 

 

 

「えと文」は、歌劇に月刊で連載されているジェンヌさん達によるエッセイである。

そこに必然的に 「え」 がくっついてくるあたりが、ほんっと宝塚である。

本文だけでなく、題字のロゴ、本文の挿絵もジェンヌさんたちが描いている。

たいていは同期が描くか、各組の絵の匠が筆をふるっているが、これがうまいことうまいこと。

同級生たちがカラフルペンとシールを駆使して愛らしいイラストでノートを飾っていた時代、絵を要求されるときはすべて仏像の絵を殴り書きして乗り切ってきた自分は、 その他の条件をすべて棚に上げたとしても、絶対にジェンヌさんになれない自信がある。

 

このえと文が、なんと10年分、どどーんと単行本発売である。

しかも一冊500円、各組から一人ずつ、3か月間担当するので、1年間で20人のエッセイが入っている。

一人当たり、原稿料25円である。

もう一度いう、単価25円である。

LINEスタンプ1個分である。

北翔さんもびっくりである。

(※北翔さんのLINEスタンプは現在part3まで出ている)

 

 

■巨匠と画伯

巨匠 花野じゅりあ澄月奈音風馬翔秋音光

画伯 →天寿光希望海風斗

 

花野じゅりあ様(花) :存在そのものが絵  

容姿端麗と画力、まさしく生けるジェンヌ募集要項

一時期の花組の絵師はじゅりあ様と大澄れいさんで二部してましたね。

少女漫画チックから劇画調まで、なんでもござれの絵柄の書分け。

鹿の角はやしたシュールなせんとくんと、むさくるしい髭の北島三郎を描き分け、 恵方巻食べてるもじもじ君の一瞬のポージングをとらえる画力たるや。

あのかわいらしく美しいお体の、いったいどこにこんな絵面が眠っているのか。

 

澄月菜音くん (花) :グラデーションの魔術師

じゅりあ様から代替わりして、最近の花組絵と題字はほとんどたも君

洋服の色とか背景の影のかけ方がプロ。

あれは水彩絵の具で描いてるの? 白黒なのが悔しいほど、濃淡のかかったグラデーションや構図が見事。

 

かける(宙) :剛柔使い分けるエンターテイナー

裏切らない。かけるはいつも裏切らない。

可愛い絵からリアリズムまで、丁寧で、見てて掛け値なしに楽しくなる絵。

大好きなのは先生シリーズ。サイトー先生、ケントモリ先生・ウエクミ先生のイラストは、クリソツであることを信じて疑わない。現物お見かけしたことないけど、絶対似てる。むしろ本人のほうがキャラ寄せそうな吸引力のある絵。

 

 

秋音光ちゃん(宙) :シュール

アフリカの置物を思わせる立体的なフォルムが素晴らしい。もはや大地の力強さを感じる。

みりおんが音楽指揮の手島先生のヘアセットをしている図、北白川に扮したまあさまの頬、版画のような線が絶品である。王家のファラオ様の緻密な素描。線の魔術師と呼びたい.。

 

 

それに対して、「画伯」は。

赤コーナー →王者天寿光希

青コーナー →挑戦者われらが望海風斗

 

うん、うすうす気づいてたんだけど、天寿さんの画伯っぷりは有名だが、いやいやどうして、だいもん、ぜんっぜん負けてなかったっす。

 

天寿さんの絵は、基本、手が生えてくる位置がおかしい

ライマンさんもコマロフスキーさんもびっくりである。

音楽同好会の時もそうだったが、脱臼?と思うほど、縁もゆかりもないところから腕が生えてくる。

ダンスにおける腕のポジショニングは完璧な美しさなのに、なぜそれが紙の上に反映されないのか永遠の謎である。

 

対してだいもんの絵は、言っちゃなんだが、下手というより不気味である。

笑ってほしいキャラが真顔で、笑ってほしくないキャラが薄笑いを浮かべておる。

 

最近だとカリ様のえと文の題字をだいもんが書いていて、小さな天使がたくさん飛んでいるのだが、菊人形みたいな おかっぱの天使の目がうつろで、羽がこうもりのように下向きに生えてるのでほぼ悪魔だった。

正月特番で描いていた雪だるまは何故か雄叫びを上げていたし、昔3月号に書いてたお雛様はものすごい不信感に満ちた目でこっちを見ている。 (そこは笑っとこう。)

背中に角の生えた巨大ななまずがせせら笑っていると思ったら、なんと辰年の龍だった。(そこは笑わなくていい )

 

いうなれば、天寿さんの絵は小学生の絵だが、だいもんの絵はひねた小学生の絵である。

天寿さんの絵は「画伯」と爆笑できるが、だいもんの絵を見ると「・・・・」と一瞬無言になる。 (←ひどい)

80年代に玖保キリコ さんという、低体温でシニカルな漫画を書く作家さんがいたが、そんな感じ。

 

そもそも、えと文の挿絵は絵の上手な人に依頼されるので皆うまい。

その中に無理やり引っ張り出されただろうお二方の奮闘には拍手を送りたい。(音量:先導が入らず、拍手入れるタイミングにいまいち自信持てずに弱め):

ちなみにお二方とも字はお綺麗ある。(なんのフォロー)

 

 

しかし昨今、世間の皆様はどうも絵がうますぎる。特に、お子さん。

子供の展覧会などを覗いたりすると、みんな構図も上手けりゃ細部まで隙がなく、バランスもいい。

きっと漫画やアニメの影響だと思うが、一昔前みたいに右と左の目の大きさが違う、みたいなアナーキーな絵を描く子が少なくなったように思う。

そんなに上手に世界を見なくてもええがな、とおばちゃんは思ったりする。 (←ただの羨望)

 

遠近感無視、お母さんは真ん中にでっかく、ラーメンもそれと同じぐらいでかく隣に、ペットの犬もそれぐらいでかく、自分をいじめるお兄ちゃんは画面の端っこにゴマなみに小さく、左下には巻きグソ、右上にがらんどうに隙間があいてしまってあわててスカイツリー書いてみる・・・みたいな自分にとっての重要度 = モチーフの大きさというような、自分だけの偏った世界を描いてもいいのにな、と思ったりする。 

(なんかそんなポスター最近見た気が・・・)

だいもんの絵を見ると、「ああ、素朴でいいなあ」とほっこりしてしまう。

 

ジェンヌさんの絵は、上手い方でもどこか牧歌的な雰囲気が漂ってる。

画伯は画伯で、近年なかなかお目にかかれないカタストロフィぶりで実にすがすがしい。

彼女達の世界は、現代の時間とは少し違ったところで、自分達の目で構成されているのかもしれない。

 

 

 

 

■大好きな「文」

私の好きだった文豪→ 柚香光真彩希帆涼 紫央

皆さん個性豊か過ぎて、うまいとか下手とかそういう比較は全然できないので、ただの私の好みです。多分相当マニアック。

 

柚香光 :わが道を行くウルフ

本文に絵文字一切なし。使用記号は!マークと?のみという潔さ。

えと文の文は、そのときの公演ネタや舞台袖のお話、お正月やお休みなどの季節ネタが多いのだが、柚香光、既存のフォーマットを使いつつ、10年間誰も使わなかった「きょうは何の日」 ネタを発掘。

この独自すぎる切り口に唸る。

しかもよりにもよって取り上げてるのが 「裏切りの日」 「むちうち治療の日」 

10年間のえと文の歴史で初である。そして今後もきっとないだろう。

喋り言葉と書き言葉がとても似ていて、読んでるとれいちゃんのあの声と口調がよみがえってくるようなライブ感もいい。

 

(ちなみに、裏切りの日→6/2 本能寺の変より  むち打ち治療の日 → 6/7 む(6)ちうちをな(7)おそう らしい)

(裏切りの日は仮面のロマネスクとか月雲の皇子見て過ごせばいいの?)

 

真彩希帆: 恐ろしい子

2018年の1月という記念すべき歌劇での真彩ちゃんの「まあやきほのまあ聞いて」

望海さんのアドリブネタ、だいきほのミッキーミニーネタ (綾凰華ちゃんの絵が癒しそのもの) と真彩スマイル全開の文だったが、少しだけ気になったのが行間。

 

ゆとり原稿といえば、ダントツで凰輝かなめさんで、 挿絵が10年史上で最大

絵が2段落ぶちぬくぐらいでかく、おかげで文の容量は25%減となっている。

それには全く及ばないが、真彩ちゃんもなかなかの通気性のよさ

花組のゆきちゃん、月組のゆりさん、星組のあーちゃん、宙組のあっきーさん、どなたも米とおかずをぎっちりと詰め込まれた弁当のように無駄な空間は一切なく、字で埋め尽くされた原稿だったのに対して、真彩ちゃんは通学の時にうっかり縦にしたら寄って半分に縮んでしまうぐらいの、柚香パイセンにでも差し入れたらその日以降シカトされつづけること間違いなしという、ふわりとした盛り付け。

 

と思っていたら翌月2月号。

きっちきちに詰めてきました

 

今度は舞台ネタを綿密に先輩たちに楽屋取材。

そして次の3月号は、ひかりふるの好きなところを劇・ショーとぶっ通しでひたすら熱く語り続けるというひとりNOWONステージスタイル。さらにきっちきち。

3回の連載で、3回全部原稿のスタイルを変えてきた真彩希帆、たった3回でみるみる変化してった真彩希帆、ただもんじゃないと思いました。

しかも、ひたすら熱く語ってるだけの回が特に輝いてた。恐ろしい子・・

 

涼紫央 まなざし

トップの柚希さんの話から、影コーラスをしてる生徒たち、新人公演の生徒の話題 (えと文ででてくることはなかなかない)、退団者のお話、 OGさんとのお話、100周年の歴史のつながりへのリスペクト、被災地の人々や募金活動をされる生徒たちの風景。

涼さんの絵と文にはとてもとても沢山の人が登場してくる。そしてその人達を見る目が暖かい。

今だけではなくて、宝塚の歴史や影で支える人達にまで視点を配っているように感じた。

かと思うと、黒塗りの絵の具を 「ウナギのタレ」と表現するセンスも星組っぽくていい。

 

 

ジェンヌさんたちの生声でお届けするというこの体温が、えと文の醍醐味。

明らかに寝起き体温の方も (例:まっつさん)、インフルなみに熱発している方も(例:ともみんさん)もいて、ほんっとおかしい。

 

 

 
関連記事