10年は経つだろうか。
夕暮れ時だった。
駅を出ると、雨が降っていた。
小雨だったので、アーケイド街の軒を借りながら、家路へ向かった。
途中、ドラッグストアがあった。小休止のつもりで、店に入った。
店内は、混んでいない。
だから。
レジの光景が目に入った。
女性のカゴには、たくさんの小児用咳止めシロップが入っていた。
会計を済ませた女性は、大きなレジ袋をさげ、雨の中、足早に道の向こうに消えていった。
店内にいるのは、主婦にOLに学生だった。
皆、一日を終えようとしながら、うっすらと心の張りを残した生活者の顔をしていた。
でも。
彼女の顔は違った。
そういう、平凡で日常的なものではなく、張り詰めた顔をしていた。
女性は、若かったかもしれない。そうでなかったかもしれない。
よくわからない。
私は、その数日前、小児用咳止めシロップを乱用する大人が増えていると、あるニュースメディアで知ったばかりだった。
小児用の小瓶は飲み切るのに丁度良いらしい。
咳止めシロップには、コデイン(麻薬の成分)が入っている。
今でこそ、小児用はコデインの厳しい使用制限があるようだが、当時は緩かったと思う。
ドラッグストアの彼女は、咳止めシロップの中毒者であったと思う。
考えてみれば、1本の成分規制が緩くても厳しくても、中毒者は、満足するだけ、何本でも、子供用でも大人用でも飲むだけの話だ。
店に行けば、売っているのだから。
その店になくても、ドラッグストアはいくらでもあるのだから。




