或る冬。
ひとり暮らしの母を訪ねた。
玄関でインターホンを数回押しても母は出て来なかった。
合鍵で家に入り、居間のホットカーペットの上で寝そべり、TVを見ている母を見つけた。
カーペットはダイニングテーブルの下に敷かれていたので、母の体はほぼテーブルの下にあった。
「なんか秘密基地みたいだね」と私が笑うと、
「寒くてね。ここが気持ちいいの」と少し照れたように母は言った。
母自ら、炬燵は暮らしぶりがだらしなくなるからと、座敷にある掘り炬燵を封印して久しかった。
母は、起き上がると、いつものようにお茶と菓子で私をもてなした。
体の具合はどうかと訊ねると、母は、冬は調子が悪い、と言った。
滅多に聞かない、母の弱音だった。
炬燵を使わない母に、磁場カットのホットカーペットを買ったのは私だった。
ダイニングテーブルの下に敷いたのは、ダイニングチェアに座りTVを見る時間の長い母が、
暖を取るのに丁度いいと思ったからだ。
母が、このカーペットの上で寝そべるのは想定外だった。
当時、私は明確に、電化製品の電場が自律神経を乱すのを認識していた。
炬燵、ホットカーペット、電気毛布は特に体に密着するので、
私には、生涯使えない電化製品になった。
でも、電磁波過敏症でない母が、足元に触れるだけの電場の曝露なら問題ないだろうと思った。
寒くて縮こまり、暮らしに覇気がなくなるデメリットの方が気になった。
何より。
母の寝床にはアーシングシーツを設置していた。
母は、お陰でよく眠れるようになった、と言っており、
これはアーシングが効いているわけで、
母の健康はそこそこ維持される、と思った。
この日、母がホットカーペットから難儀そうに起き上がったことと、
何度も鳴らしたインターホンが聞こえなかったのが気になった。
私は、言った。
「ホットカーペットの上で寝ない方がいいよ。脱水症状になるし、電磁波で気分も滅入るよ。
認知症の呼び水になるかもよ」
そして、長椅子に毛布を置き、明日からここで横になって、と頼んだ。
母も、ホットカーペットの上で横になるのが、漠然と不調の原因と思ったようで、
もう、カーペットの上で寝ない、と言った。
帰り際、庭に出て、
母のベッドのアーシングシーツに繋がるアース棒を打ち込んだ土に、バケツ2杯の水をかけた。
ひどく地面が乾いていた。
翌週、母を訪ねた。
庭から居間を覗くと、母はテーブルで新聞を読んでいた。
ガラス越しに私に気付き、驚いた。
一週間前に来たばかりなのに、とその顔が言っていた。
それからいくつかの冬を、母はつつがなく過ごした。
母の寝室は2階で、冬場は特に、1階にあるトイレに行くのに往生していたが、
アーシングをしながら就寝するようになって、ほとんど、夜中、トイレに起きなくなった。
夜中のトイレの回数が減った、というのは、就寝しながらのアーシングを始めた高齢者からよく聞く。
眠りが深いからですよ、と言うと、納得する。
だから、アーシング効果を確かめる時、夜中、トイレに起きますか、と訊く。
深く良く眠れる人は、機嫌がいい。
アーシングをしなくてもそういう人はいる。
ただ、普段からよく眠れる、と言っていた人が、アーシングをしながら就寝して、目覚めて、
いつもと違う眠り、という表現をすることがある。
「いつもの眠り」が「質の良い眠り」であるなら、不調を訴える人は少ないだろう、と思う。
