ロックフェラー通りのクリスマスツリー
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正義の味方③

隆太はスーパーの前のベンチに座り、海の買い物を待っていた。



「遅いなぁ、にいちゃん」


隆太は立ち上がり、スーパーに入ろうとするが、高校生とぶつかってしまう。



「いってーなこのガキ」



高校生は三人組で、その内の一人が隆太のランドセルに付いている小銭入れを見つける。



「おい、あれ」



「チュッパチャップス買えるぐれーは入ってんじゃね」



「よしボウズ、慰謝料としてこれよこせ」



高校生に無理矢理取られようとするが、隆太は必死に抵抗する。



「やめて、取らないで」



すると、一人がロックフェラー通りのクリスマスツリーのカードを見つける。



「これテレフォンカードか、ついでにもらってくぞ」


高校生は隆太が一番大事にしているカードを取ってしまう。



「なんだよこれ、ただのカードじゃねーか」



高校生はカードをつぶした。



「なにすんだー」



隆太はカードをつぶした高校生の手を噛んだ。



「いってーな、放れろ」



隆太は勢いよく後ろに飛んだ。



そこにスーパーから海が出て来て、高校生グループに絡まれている隆太を見つける。
海は買い物袋を捨て、隆太の元へ走った。



「なにやってんだ、おめーら」



海は高校生一人の顔面をなぐった。
殴られた高校生はすぐ起き上がり海の顔面を殴り返す。



「なにすんだ、てめー」



海は急いで起き上がり、高校生三人にしがみつく。


「隆太、逃げろ」



戸惑う隆太。



「早く行け隆太」



隆太は戸惑いながらも走り出した。



高校生は追いかけようとするが、海が必死に抑える。


しかし、一人が海を振り払い、隆太を追う。



さすがに小学生と高校生では脚力に差があり、隆太はすぐに追い付かれ、後ろから服を掴まれてしまう。



「つかまえたぜ」



その直後、高校生は何者かに殴られ、隆太の服を離し、後ろに倒れた。隆太が後ろを振り返ると、雄二が息を切らして立っていた。



「雄二・・・」



海は突然のことに驚いた。


「大丈夫か?」



雄二は泣きそうになっている隆太の頭を撫でながら言った。



「うん」



殴られた高校生は、起き上がり、大声で叫んだ。



「なんだてめーは」



雄二は、にやっと笑い、息を整えてこう言った。



「正義の味方さ」

正義の味方②

一人寂しそうに下を向きながら帰る隆太。
校門に立っている海を見つける。



「あっ、にいちゃん」



海の元へ走って行き、抱き着く隆太。



「今日一人なのか?」



「うん、いつも一緒に帰ってる友達が風邪で休んでるの」



「そっか」



「にいちゃん、今日バイト?」



「あぁ」



「朝まで?」



「うん。今日美紀ねえちゃんも来れないんだって、だから一人だけど大丈夫か?」



「大丈夫だよ、僕もう小学生だよ」



「そっか、そうだよな」



海は隆太の頭をなでた。強がっている隆太を海はやたらかわいく見えた。






雄二は河川敷で一人で座って川に向かって石を投げている。



「雄二・・・」



後ろから美紀が来た。



「なんだよ」



美紀は無言で雄二の隣に座った。
少しの間沈黙が続いた。



美紀はようやく口を開いた。



「海の事なんだけど・・・」



「いいよあいつのことは」


「ずっと海から口止めされてたんだけど、雄二には話しておこうと思って・・・」



「なんだよ」



「海に弟がいるのは知ってるでしょう?」



「あぁ」



「その弟がね、隆太って言うんだけど、先天的な病気で年々悪化していってるの」



「えっ?」



雄二は驚いた。



「その病気を治すにはね、アメリカで手術しないといけなくて、ものすごいお金がかかるんだって。だから海は知り合いのいるコンビニに無理言って朝までバイトしてお金を貯めてるの」


「だからあいつ、あんな遅刻を・・・」



「うん、それで海の両親、飛行機事故で亡くなってるから、隆太は乗り物が怖くなってアメリカには行かないって言い始めて・・・
だから海は自分で勉強して絶対隆太の病気を治すってはりきってたんだけど、この前の検査の結果で隆太は他の患者より悪化するスピードが早いっていうのが分かって。海が医大卒業して一流の医者になるまで時間かかるじゃない?今の隆太にそんな時間の余裕は無いの。だから俺がアメリカに連れていく、自分の操縦する飛行機には乗ってくれる、そう信じて小さい頃からの夢を捨ててパイロットになろうと思ったの」



「なんで、あいつ・・・」


「雄二にその事言ったらもちろん雄二はなんかしようとするでしょ?変な気使わせたくなかったんだよ」



雄二は起き上がり、かばんを持って走り出した。

正義の味方

雄二と海は教室で話をしていた。
いつもテンションが高い雄二だが、今日は珍しくしんみりしている。



「もうすぐ卒業か~」



「そうだな~」



海はテンションが低い雄二に少し疑問を持っていた。でも深くは考えないようにしている。考えれば考えるだけ無駄だからだ。



「何か最後にでけーことやりてぇなぁ」



「賛成ー」



美紀がいつものように話しに混ざって来た。



「なんかねーかなー」



雄二はなんか企画しろと言わんばかりの目で海を見た。



海も最初からこうなることを予感していて、考えていた。



「別ににでかい事ではないんだけどさ、みんなで初詣に行くのはどう?」



「いいじゃん」



美紀は即答する。
もしかしたら、美紀も同じ事を考えていたのではないかと思った。



「よし決定。じゃあ今年はこのメンツで年越そうぜ」


雄二のテンションが上がっていく。
海は感じていた、
まためんどくさくなると。


「ねぇ、海。ちょっといいかな」



美紀は海を教室の外へ呼び出した。
海はなんのことか全くわからなかったが、心の中でナイスと叫んだ。
テンションが上がり始めた雄二が1番めんどくさいからだ。



「どーせ俺は独り身ですよ」



またテンションが下がる雄二。
ふと横を見ると、海の机の中から半分はみ出てる紙を発見した。



「ん・・・、なんだこれ」





美紀は海を体育館裏まで連れていく。



「なんだよ、こんな所まで」



「進路の事なんだけどね…」



「その話しはもういいんだよ、もう決めたんだ」



すると美紀の視界に遠くから、早歩きでこっちに向かって来る男が入って来た。



「雄二・・・」



雄二はさっきの紙を持って海の前に立った。



「おい海、なんだよこれ」


雄二は進路調査の紙を海に見せた。



「お前・・・なんで」



「いいから答えろよ、なんで第一志望に俺と同じ学校が書いてあんだよ」



「雄二、それはね・・・」


美紀は説明しようとするが、それを遮るように



「俺も・・・女にモテたくなったんだよ」



見え見えの嘘であった。
しかし熱くなっている雄二には嘘に聞こえなかった。


雄二は海の胸ぐらを掴んだ。



「おめー俺の夢バカにしてんのかよ」



「おめーだってたいした理由じゃねぇじゃねーか」



そう言って、海は雄二を突き放した。



雄二は立ち上がり、



「俺はそんなのぜってー許さねぇからな」



雄二はどこかに走って行った。



「海・・・」



「いいんだよ・・・これで」