百人一首の歌人 源兼昌
「淡路島かよふ千鳥の鳴く声にいく夜寝覚めぬ須磨の関守」
((冬の夜)淡路島から渡ってくる千鳥の鳴き声に、幾夜目を覚まさせられたことだろうか、須磨の関守は。)
源兼昌(生没年未詳。12世紀初頭の人)。
宇多源氏の系統で、従五位下・皇后宮少進にまで昇った後、出家した。多くの歌合せに出席して、「兼昌入道」などと称している。)
この歌の派生歌を掲げる。
月すみて深くる千鳥の声すなり心くだくや須まの関守(西行)
淡路島わたる千鳥もしろたへの波間にかざすおきつ汐風(藤原家隆)
月もいかに須磨の関守詠むらん夢は千鳥の声にまかせて(〃)
旅寝する夢路は絶えぬ須磨の関かよふ千鳥の暁の声(藤原定家)
淡路島千鳥とわたる声ごとに言ふかひもなく物ぞかなしき(〃)
淡路島ふきかふすまの浦風にいくよの千鳥声かよふらん(後鳥羽院)
さ夜千鳥ゆくへをとへば須磨のうら関守さます暁のこゑ(〃)
淡路島かよふ千鳥のしばしばも羽かくまなく恋ひやわたらむ(源実朝)
須磨の浦や千鳥鳴くなり関守のいとどうちぬるひまやなからん(頓阿)
とけてねぬ須磨の関守夜やさむき友よぶ千鳥月に鳴くなり(足利義詮[新拾遺])
さよ千鳥あはぢ島風たゆむよりとわたり消ゆるすまの一こゑ(木下長嘯子)
まどろまで我のみぞ聞く小夜千鳥枕ならぶるすまの関守(〃)
千鳥にも幾夜ねざめぬ村しぐれ袖にや通ふ須磨の関守(望月長孝)
彼の詠んだ和歌を掲げる。
わか門のおくてのひたにおとろきてむろのかり田にしきそたつなる(千載集)
玉垂の御簾さわぐまで風ふけばよどののうちも涼しかりけり(永久百首)
夕立にをちの溝河まさりつつふらぬ里までながれきにけり(永久百首)
真葛原もみぢの色のあか月にうら悲しかる風の音かな(永久百首)
望月の山の端いづるよそほひにかねても光る秋の空かな(永久百首)
夕づく日いるさの山の高嶺よりはるかにめぐる初時雨かな(新勅撰385)
夕暮のみぞれにしみやとけぬらん垂氷づたひに雫落つなり(永久百首)