諸葛孔明の兵法ー3ー軍令、兵要 | 覚書き

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軍令
(1)擂鼓の音を聞いたら、白幢(白い旗)と絳旗(赤い旗)をあげ、大船と
小船は進んで戦います。進まないなら処刑します。鐘の音を聞いたら、青旗を
あげ、船は帰ります。もし敵が近いなら、ゆっくり帰ります。遠いなら、すば
やく帰ります。
(2)太鼓の音を聞いたら、黄色と白色が半分ずつの旗をあげ、三面陣(∩型
の陣形)をつくります。
(3)連衝の陣は、狭いように見えて厚く、鋭利な陣形となります。伝令の騎
兵は、互いに離れてはいけません。側面を守る騎兵は、互いに遠くにいてはい
けません。
(4)敵が進んできて鹿角(障害物)に向かってきたら、兵士は全員が連冲
(装甲車)の背後に退きます。敵が鹿角にふれたら、鹿角の背後にいた兵士は、
ひざまずいて進み、槍を使って敵を刺します。立ってじっとしていてはいけま
せん。立ってじっとしていたら、石弓で射撃する邪魔になります。
(5)はじめて出陣するときは、槍を立て、旗を広げ、太鼓や笛を鳴らします。
三里の距離を進んだときは、槍を斜めにし、旗を巻き、太鼓と笛を鳴らします。
陣地まで三里の距離に近づくときは、また槍を立て、旗を広げ、太鼓と笛を鳴
らします。陣地に到着したときは、また旗を巻き、太鼓と笛を鳴らすのを止め
ます。命令に違反した人は、頭の毛を剃ります。
(6)戦うときには、戦場の布幔(布製の幕)をすべて取り去り、布衣(布製
の服)を水の中にひたし、積み重ねておいて、消火に役立てます。敵が火炬
(火をつける道具)や火箭(火を飛ばす矢)を使ってきたら、濡れた布を使っ
て消火します。命令に違反した人は、頭の毛を剃り、耳を切り落とします。
(7)およそ戦いで布陣したとき、だれもがケンカをしないようにし、太鼓の
音をはっきりと聞き、旗を注意して見ます。旗が前方にふられたときには、前
進します。旗が後方にふられたときには、後退します。旗が左を向いたときに
は、左に曲がります。旗が右を向いたときには、右に曲がります。命令を聞か
ないで、好き勝手に前後左右に行く人は、処刑します。
(8)左右から進んで戦うなら、旗の指し示す方法をよく見ます。3つの鐘の
音を聞いたら、止まります。2つの鐘の音を聞いたら、帰ります。
(9)帳下(陣地で大将のいる場所)と右の陣では、各自は彭排(大きな盾)
を持ちます。
(10)現在、荊州は人口が少ないわけではなくて、戸籍に登録している人が
少ないのです。ふだん徴発するときには、(戸籍に登録している人だけが徴発
されることになるので)人が心に不満をいだきます。鎮南将軍(劉表)に言う
べきですが、地域にいる戸籍に登録していない住民に対して、事実をきちんと
申告させます。そうして登録することで、人びとを増やすようにするとよいで
しょう。
(11)かつては巳丑の日を使って牛馬の先祖を祭っていました。祝文(神に
祈る文章)は、こう言います。この月の巳丑の日、私なになには、牛馬の先祖
に告げます。馬は、用兵の導きとなるものです。牛は、軍事や農業の働きとな
るものです。つつしんで穀物と美酒を供物とし、うやうやしく捧げます。
(12)軍隊が進んで渡河するとき、主将はつねに白玉を河に沈め、祈って言
います。私は主将のなになにですが、河の神に告げます。反逆者のなになにが
反乱を起こし、天子は私に軍隊をひきいさせて渡河させ、悪党を討伐させよう
としています。ですから、白玉を沈め、あなたに神の裁きを下してほしいと願
うものです。
(13)金鼓(鐘と太鼓)、幢麾(円筒の旗と指示の旗)、隆冲(偵察車と装
甲車)は、すべて立秋の日に祭りに使います。祭りの前日、主将は祭りを依頼
し、神主は祈りをささげます。もし出征して成果があれば、帰ってきてからも
神様を祭ります。敵に向かうときの祭りは、鍾鼓(鐘と太鼓)に血を塗ります。
秋の祭りをするときと出征して成果をあげたときは、ただ祭るだけで、鍾鼓
(鐘と太鼓)に血を塗りません。祝文(神に祈る文章)は、こう言います。私
は、神主のなになにを通じて、隆冲、金鼓、幢麾に告げます。そもそも軍隊の
武器は、不義を正し、人民のために害を除くためのものです。つつしんで立秋
の日を使い、穀物と美酒を供物とし、うやうやしく捧げます。
(14)軍隊が隊列を組んで陣地に入るとき、歩兵隊と騎兵隊の普通の兵士は
全員が兜をかぶります。
(15)行軍するとき、人は一斗の干飯(保存食)を携帯しますが、調理器具
とテントを持つことができません。鈍い光が太陽光を兵器などに反射させるこ
とによって生じているのが見えたら、そこに行って合流します。
兵法
とても大事にしているものがあることを知り、大事にするまでもないものが
あることを知れば、用兵ができます。ですから、よい将軍は、大事にするまで
もないものを使って、とても大事にしているものを養います。兵士がすべて精
鋭になれず、馬がすべて良馬になれず、兵器や道具がすべて堅固になれないと
いうのは、その使い方に問題があります。兵士に上・中・下の3ランクがある
というのは、兵士に3つの測定があるということです。孫臏は、「(3頭の馬
を競争させて勝ちたいなら)あなたの下等な馬を使って、相手の上等な馬と競
争させてください。あなたの上等な馬を選んで、相手の中等な馬と競争させて
ください。あなたの中等な馬を選んで、相手の下等な馬と競争させてください
(そうすれば2勝1敗で、あなたの勝ちです)」と言っています。これは戦争
の話であり、馬の話ではありません。下等すぎるものは、それより上のものに
かないません。私はこれを知っており、私はこれを捨てます。中等のものは、
私の上等のものにかないません。下等なものは、私の中等なものにかないませ
ん。私は2勝できるのではないでしょうか。これで負けよりも勝ちが多くなり
ます。私は、このやり方を使います。だれであれ上をいく人は、3つの測定を
しています。3つの測定とは、1回の測定で3回の勝負を制するということで
す。管仲は「相手の強いところを攻めるなら、相手は弱くても強くなります。
相手の弱いところを攻めるなら、相手は強くても弱くなります」と言っていま
す。ああ、その弱いところを選んで攻撃しないなら、世の中は強敵だらけとな
ります。
兵法秘訣
そのときに鎮星(土星)の位置する星座について、その星座に対応した国は
討伐してはいけません。さらに彗星が太陽のところにあらわれるなら、臣下が
好き勝手し、人民が難民となって飢え、父と子が離れ、夫婦が一緒におれなく
なります。東西南北に流星があり、先頭は甕のようであり、後尾は火のようで
あり、光は天を区切り、雷鳴のようであるなら、これを「天狗」と呼びます。
その流星の下では作物が不作で、人民が病気になり、臣下が死にます。流星が
東北に行くなら、これを「天綱」と呼びます。水陸の境界のところで、必ず洪
水や土木工事があります。さらに東西南北に流星があり、入ってくるときに後
尾に雲のような白い気体があり、すがたが車輪に似ているなら、これを「噛
食」と言います。その流星の下では大きな戦争があり、中国に盗賊が増えます。
さらに星があり、ひしゃくのようであり、北斗のところにあらわれるなら、こ
れを「旬始」と呼びます。天下が大いに乱れ、諸侯が覇権を争います。
兵要
(1)軍隊が敵に近づいたら、軍隊の配置としては情況を明らかにするために
先発隊を行かせ、軍隊の前方10里までを偵察します。それぞれ左右について
も調べて道を行き、このときも10里の範囲とします。5人が部隊を構成し、
一人が一本の白旗をもち、高いところに登り、周囲を見渡し、見えにくいとこ
ろを明らかにします。軍隊が到着したら、別の高いところを探して進みます。
第一隊が敵を発見したら、後方の第二隊に通報します。第二隊の主将に伝令す
る担当者は、主将に報告します。およそ偵察して発見した敵が100人以内で
あれば、ただ旗を挙げ、その方向を指し示すだけにします。100以上であれ
ば、旗を挙げ、大声で知らせます。大将は、快速な騎兵隊を出し、偵察に行か
せます。
(2)およそ出陣して野営するときは、まず腹心と郷導(ガイド)を前もって
調査に行かせて実情を明らかにします。それぞれ偵察係を先に行かせ、野営に
適した場所を確定させます。防壁をつくり、軍隊の配置を決め、四方に標識を
立て、偵察します。そのうえで野営地を移動します。さらに偵察の騎兵隊を前
進させ、五色の旗を持たせます。溝になったところを発見したら、黄色の旗を
あげさせます。道の交差したところを発見したら、白色の旗をあげさせます。
水のあるところを発見したら、黒色の旗をあげさせます。森林があるのを発見
したら、青色の旗をあげさせます。野火があるのを発見したら、赤色の旗をあ
げさせます。そうして本隊は太鼓をうって応答します。旗と太鼓を用意して、
互いに見たり、聞いたりさせます。もし河を渡ったり、山をこえたり、深い森
林をぬけたりするときには、勇敢な騎兵を使って、数里にわたって声がしない
か、四方について敵の形跡はないかを捜索します。高い山や木の上に人を登ら
せて遠くを見張らせます。精兵を四方の要所に行かせて防御させます。それか
ら、兵士を前後に分け、そうして1隊には防御を担当させ、1隊には道を切り
開かせます。そこで、最初に補給車や老弱兵、次に歩兵隊、最後に騎兵隊の順
番で進ませるわけですが、そのときには互いにぴたりとつかせて整然とさせ、
敵の襲撃を防ぎます。人も馬も声を出さず、隊列を乱しません。険しい場所、
狭い道も、部隊を鱗のように順序よくさせます。場合によっては、くるくると
変化させて、どの方向にも対処できるようにし、後方を前方としたり、左翼を
右翼としたりします。行くときには魚貫陣を組み、立つときには雁行陣を組み
ます。進んで停止ポイントに着いたら、游騎(遊撃する騎兵)と精鋭は、四方
に向かって分散して立ち、それぞれ所定の位置に従って陣取ります。一人が一
歩の地を占めますが、これは軍の規模に応じて大きくなったり、小さくなった
りします。宿営地には、その範囲を示すために十二の方向に、それぞれ大きな
旗を立てます。その旗の長さは、二丈八尺です。子(北)・午(南)・卯
(東)・酉(西)の方角をきちんと定め、間違わせてはいけません。朱雀の旗
を午の方角のところに立てます。白虎の旗を酉の方角のところに立てます。玄
武の旗を子の方角のところに立てます。青龍の旗を卯の方角のところに立てま
す。招揺の旗を中央に立てます。薪を集めたり、食事をしたりするときは、区
域外に出てはいけません。
(3)人が忠であるのは、ちょうど魚が水の中にいるようなものです。魚は水
を失えば死にますが、人は忠を失えば悪くなります。ですから良い将軍は忠を
守って、志が立って名が揚がるのです。(太平御覧より)
(4)長い防壁を愛さないで、ちょっとした時を愛するのは、時は得がたくて
失いやすいものだからです。ですから、良い将軍が時を求めるときには、服の
帯を解かないほど、足が地につかないほどすみやかにするのです。
(5)地位を高くしても、傲慢になりません。全権を与えても、好き勝手しま
せん。助けられても、それを隠しません。くびにされても、それを恐れません。
ですから、良い将軍の行動はというと、宝玉のように朽ちないのです。
(6)良い将軍の管理の仕方はというと、他人に人材を選抜させて、みずから
は推挙しません。法律に従って功績を決め、みずからは判断しません。ですか
ら、有能な人は、もれなく登用されます。無能な人は、有能なふりをできませ
ん。実績があるように見せかける人は、昇進できません。
(7)言葉と行動が一致せず、私情を優先して公正を無視し、外にあっては互
いにウソをつきあい、内にあっては互いに悪口を言いあう。こういったことが
あり、なくせないこと、これを「敗れて乱れる」と言います。
(8)臣下が君主よりも強大となり、同じ勢力の者どうしが仲良くし、それぞ
れが徒党を組み、よこしまな人を競って昇進させる。こういったことがあり、
なくせないこと、これを「敗北の前兆」と言います。
(9)兵士がきちんとしているなら、将軍が無能でも、負けようがありません。
兵士がだらしなければ、将軍が有能でも、勝ちようがありません。
(10)督将(軍隊の中間管理職)より下の人たちは、それぞれ幡(のぼり)
をもちます。出陣したとき、幡(のぼり)が天を指しているほうが勝ちます