Escape 40 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

次の日は、学校を休んだ。



もうこれ以上休んだら留年するかもしれない、担任にそう言われていたのに、何だかもうどうでもよくなっていた。



あんなに、夏喜も頑張れよ、って応援してくれてたのに、それすらも私は、裏切った。



夏喜の家に来て、ずいぶん自分がましな人間になった気がしていたけど、やっぱり底辺は底辺な人生しか歩めない。



あそこにいた時間が、夢のようだったんだ。



夢は、覚めるものだ。



もう、あそこには戻れない。





ヒロトの家に外泊した昨日は、小夜子さんにだけラインを入れておいた。



"今日は帰れないけど心配しないでください"



"お弁当作れなくてごめんなさい"



と、二言だけ。



夏喜には、連絡することが出来なかった。



小夜子さんからは、

"分かりました。何かあったら、遠慮なく連絡してね" 

と返信があった。



夏喜からは何の連絡もない。



もしかしたら私がいないことも気付いてないかもしれない。



いつも顔を合わせるのだって、夕方のほんのちょっとの時間と、学校に行く前の、支度の時間だけなのだから。



だから私は、夏喜が学校から帰ってくる時間よりももっと前に、その家へ帰った。



荷物を取りに行くためだ。



そして、数日分の食事を作っていこうと思った。



あとは出ていきます、と置き手紙でも書けば十分だ。



もともと、ほんのちょっとの間の居候のつもりだったのだから。



いくら優しくして貰えたとしても、赤の他人が同じ屋根の下に住むのは、気を遣うだろう。



きっと小夜子さんも夏喜も、せいせいするはずだ。



午後三時、三つ目のおかずを作り上げた頃だ。



タッパに入れて、熱を冷まそうと思っていた瞬間。



玄関の鍵がガチャ、と開く音がした。



ドキ、として肩をすくめる。



まさか、小夜子さんは仕事に行っているはずだし、夏喜もこんなに早く学校が終わるはずがない。



だけど、大股で廊下に響く足音は夏喜のものだ。



いつもより、急いている感じがその足音からも伝わってくる。



身をすくめて固まっている傍から、今度はリビングのドアが勢いよく開いた。



「お前…」



夏喜の細い眉がつり上がっているのが分かる。



怒っている。



「昨日どこ行ってた?」



答えられずに、固まる。



「まさか、あいつんとこじゃねぇだろうな?」



「……」



なんて答えよう。



「おい、藍」



夏喜が私の腕を取る。



びっくりして、心臓が跳ね上がった。



こんな夏喜は見たことがない。



怖い。



「い…痛い」



何とかそう声を振り絞ると、夏喜の手はすっと私の腕から離れた。



「悪い」



ふるふる、と頭を振る。



「あいつんとこ行ってたの?」



こくん、と頷く。



「何で…どうせ脅されてんだろ?写真ばらまくとか何とか言って」



「違う…」



「あ?」



「そんなんじゃ、ない」



「じゃあ何で?」



夏喜の視線が変わる。



今、私の目の前にある調理途中のもの。



まな板の上に切った野菜、使いかけのフライパン、そしてその次にはダイニングの上に並べられたタッパたちにと、次々に視線が移っていく。



「お前、何してんの?」



これじゃあまるで、出ていくための準備を進めているのが丸分かりだ。



リビングには、もうすでに大きな荷物を詰めたボストンバッグも置きっぱなしだ。



「出て行くつもり?」



「…ヒロトのとこに、戻ろうと思う」



「は?お前、あいつんとこにはもう戻りたくないって言ってたじゃねぇかよ?」



「でも、ここにこれ以上お世話になるわけにもいかないし」



「だからってあいつんとこ戻んの?ちげぇだろ?あんなやつ、もう一緒にいたくないんじゃねぇのかよ?」



「でも…私にはもうそうするしか…」



「家ならずっといていいって言ってんじゃねぇか!俺も、母ちゃんも。どうせ脅されてるだけだろ?言ってみろよ?」



「…違う」



「何で…」



「だって…」



ここにいたい。



ずっと、私だってここにいたい。



でも、もうこれ以上夏喜に情けないところは見せたくない。



「藍!」



ずるい。



こんな時にだけ、こんな風に目を見て私の名前を呼ぶなんて。



夏喜の瞳はいつも凛としていて、強い。



こんな弱い私を、飲み込んでしまうみたいだ。



涙が溢れそうになる。



ギュッともう一度腕を取られた。



だけどさっきみたいに強く強引なそれとは違う。



「だってどうしたらいいの?もう、分からないよ…

どうしたらこんな生活から抜け出せるのか分からない」



夏喜と繋がっている右腕が熱い。



「分かった…」



静かに夏喜が言う。



「あいつの連絡先、教えろ」



「え?」



あいつって、まさか。



「俺が行って話つけてくる」



「何言ってんの?やめてよ、無理だよ」



そんなことしたら、夏喜に何されるか。



「いいから。教えろ」



そう言った夏喜の瞳には、有無を言わせないような深い闇があった。