Escape 27 | ♡妄想小説♡

♡妄想小説♡

主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

「夏喜の家にいるんだったら、藍ちゃんはもう知ってるわよね?夏喜に、お父さんはいないってこと」



「…うん」



「最初のお父さんはね、離婚して、出て行っちゃったらしいの」



「最初の、お父さん…」



「何でも、浮気だったとか?ひどいわよね、まだ小さかった夏喜とお母さん置いて、女作って出て行っちゃったんだって。慰謝料もろくに渡さないまま」



「そう…なんだ」



「しばらくは、生活荒れてたらしいわよ?その頃小夜子さん仕事してなかったらしくてね?旦那さんが出て行っちゃったことも含めて、すごく落ちちゃってたみたい」



今の小夜子さんからは、考えられない。



「その頃の夏喜のこと考えると、居たたまれないわよね?きっとあの子のことだから、小夜子さんのこと、一生懸命支えてたんじゃないかしら?でもそんな夏喜だからこそ、小夜子さんもこれじゃけないって思ったんでしょうね。

そのうち、今の介護職始めて、ようやく生活も落ち着いたみたい」



「ねぇ、翔さんは、小夜子さんにも会ったことがあるの?」



さっきから疑問に思ってたこと。



彼は彼女と面識があるみたいに名前で呼ぶ。



「会ったことあるわよ、何度かね。そりゃあ大事な息子さんをこんな店で預かるんだもん。挨拶しに行ったわよ。

今話してることも、ほとんどが小夜子さんから聞いたことよ」



夏喜は、あんまり話したがらないからね、と翔さんは小さい声で付け足した。



ふぅ、と彼はまた一つため息をついて、こう断った。



「ごめんなさい、煙草吸ってもいいかしら?」



店のテーブルにある煙草の箱に手を添える。



「うん」



「ごめんなさいね、未成年の前で」



「ううん、平気」



ほんとに、平気だ。



私は、こういう配慮が欲しいのだ。



いくら私が子供でも、煙草には中毒性があるってことくらい、知っている。



一度吸ったらなかなかやめられないんだってことも。



だから、吸うにしても、こうやって一言、配慮が欲しいだけなのだ。



ヒロトにはそれがない。



「どこまで話したかしらね?」



翔さんが煙草の煙を一つふぅーっと吐き出して、言った。



「そうそう、小夜子さんが仕事が始めて、ようやく生活も落ち着いたってとこ」



翔さんは納得するように、そう呟いた。



「しばらくは、よかったらしいのよ。でも…」



「でも?」



その先を促す。



何だか嫌な予感がする。



「新しいお父さんが来たらしいの」



嫌な予感が当たった気がした。



「夏喜が、小学校の高学年の頃って言ってたかしら」



同じだ、私と。



「小夜子さんの話だと、その時夏喜は賛成してくれたって言ってたけど、ほんとはどんな気持ちだったのかしらねぇ?もしかしたら…」



そんなの決まっている。



本音じゃないはずだ。



たかが小学生で、両親の再婚って、なかなか理解できないものだ。



これから思春期真っ只中に向かう途中。



親の人生が自分以外にあることを、受け入れられるはずがない。



夏喜だってそうだったんじゃないだろうか。



「あの子、今はあんなだけど、根は優しい子だから。小夜子さんのこと思って賛成したのかもしれないわね?」



私も、そんな気がした。



「でもね、その新しいお父さんが、あんまり、よくなかったらしくて」



ふぅ、と翔さんはまた一息つく。



私は次の言葉を待つ。



「仕事関係で知り合ったって言ってたけど、再婚した頃にやってた、自分で起業してたものが、うまくいかなくなったらしくてね、そのうち家に引きこもるようになって、だんだんお酒ばっかり飲むようになったんだって…」



ごくり、と息をのむ。



その頃の夏喜のことを思う。



「何となく、想像つくわよね?いくら小夜子さんが働いてるって言ったって、介護職で家族三人養えるわけがない。それにその旦那さん、借金まであったらしいの。

それなのに働かず、お酒ばっかり飲んで、その次には…」



「その次には?」



思わず前のめりになってしまう。



「暴力、ね。いくらなだめても聞かない小夜子さんに対して、暴力を振るうようになったらしいの」