片隅 颯太③ | ♡妄想小説♡

♡妄想小説♡

主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

「颯太!」



放課後帰宅しようと自転車を取り出し、駐輪場から出ようとしたところ、左から声をかけられた。



振り向くと、希子が笑って駆け寄ってくる。



「今帰り?」



「うん、希子も?遅くない?」



「颯太こそ」



俺たちは、自然と並んで歩き出した。



希子とこうして二人で話すのも久しぶりだ。



このまま自転車を押しながら、歩いて駅まで行こうか、そう思う。



「俺は、ちょっと職員室寄っとって。希子は?」



「部活顔出しとったっちゃん」



「へぇ、そうったい」



「うん、大会前やけんねー。陣中見舞い」



「北人も一緒?」



ちら、と駐輪場に視線を向ける。



「まさか、違うよ」



「まさか、なんや。前はあんなに仲良かったとに」



「……」



意地悪な言い方をしてしまっただろうかと思う。



希子は下を向き、俯いてしまった。



だけどしばらくすると明るく顔を上げた。



「だよねー?でも何か、今、遠いっちいうか…」



「寂しい?」



「うーん、ちょっとね」



「ちょっと?今、夏喜とうまくいっとるみたいやもんね?」



「へへ」



そう言った希子は、心から嬉しそうに笑った。



夏喜との関係が、希子に安定をもたらしてくれているのだろう。



だったらもう、このまま余計なことは言わず、二人を見守るが一番ベストなのかもしれない。



「颯太は?面接の練習?もうすぐやんね?試験」



「まぁ、そんなとこ」



「すごいよねぇ?国立大やろ?あそこ、うちから一枠しかないっちゃろ?」



「まぁね」



「まぁ颯太は一年時からずっと頭よかったしねぇ、常に成績トップやったし。何でうちの高校来たと?」



「え?」



その質問は、この学校に入って、もう何度も受けてきたものだった。



「だって、絶対もっと進学校行けたやろ?何で?こうやって、推薦貰うため?」



確かに、レベルの高い高校に行って途中でついていけなくなるより、少し目標を落としてトップクラスで成績を維持するという選択をする人もいる。



その学校の成績上位にいれば、こうして高いレベルの大学の推薦だって貰える。



たけど、俺は、そうじゃない。



「サッカー…」



「うん」



「サッカー、強かったけん。この辺の高校では、一番」



「あぁ、なるほどね。だからか。颯太、サッカー上手かったもんね?ていうか黎弥もそうやったよ!ここでサッカーしたいけんて。

でもあいつマジで成績悪かったけんさ、私がどんだけ勉強教えたか」



「はは、そうやったったい」



ほんとに希子と黎弥は仲がいい。



いくら幼馴染みだっていっても、男女でもある彼らは、年頃になれば離れてもおかしくないだろうに。



「ねぇ、中学ん時からサッカーしょったっちゃんね?黎弥のこととかも知っとったりしたと?」



「うん、知っとったよ。何度か練習試合とかで一緒んなったこともある」



「へぇ、そうなんだ」



「黎弥は、この辺じゃ有名やったし」



「え、そうなの?」



「知らんと?すごい上手いゴールキーパーおるって、有名やったんよ?」



「そんなにー?知らんかったー」



「やけん、黎弥がここの高校くるって噂で聞いて、そんで俺もここ受けようって…」



「え?」



希子が顔を上げる。



「そんなに?」



よかった。



何も疑ってはいない。



「黎弥と一緒にサッカーできたら、刺激になるやろうなって思って」



「ふぅん、そんなすごかったんだ」



「幼馴染みとに、何も知らんったい?」



「私たち、お互いのことあんま干渉せんし。今は同じクラスやけん、結構話すし、仲いいってみんな言うけど、そうじゃない時もあるよ?」



そうだろうか。



希子は、何かとあれば黎弥に話を聞いて貰うみたいだし、黎弥だって何だかんだ言いながら愚痴を聞いている。



そこには、二人にしか見えない絆があるように、俺は思う。



やっぱり、少し羨ましいし、嫉妬する。



「なんかさ、最近みんなで話す機会減ったよね?」



「ん?」



希子の横顔に視線を向けると、彼女は寂しそうに俯いていた。



いくら夏喜とうまくいっていても、やはりそこは彼女の中で埋められない一部なのだろうか。



俺だってそうだ。



みんなで過ごす時間は、宝物だった。



「しょうがないっちゃない?みんな忙しいし」



「卒業したら、もっと会えんくなるんだよ?」



「たまには、集まればいいやん?」



もし、夏喜と希子が付き合うことになれば、もしかしたらそれは難しくなるのかもしれない。



北人と希子の気持ち次第だろうが、やっぱり好きな人が自分以外の誰かと幸せにしている姿は、直接見たくないんじゃないだろうかと思う。



「そうだね。…ねぇ颯太の好きな人は?卒業しても、会えそう?」



「…あぁ、」



この間、希子にぽろりと好きな人がいる、とこぼしてしまったことを、少しだけ後悔した。



誰にも言うつもりなかったのに。



「告白とか、せんと?颯太なら絶対うまくいくやろ?」



「何だよそれ?その自信は」



「えー、だって颯太モテるし、何だかんだ、男子も女子も、みんな颯太のこと好きやん?」



「希子も?」



「そりゃあもちろん。颯太って話しやすいし、たまに女の子と話してんのかなって思うほど気使わんでいいときあるし」



「へぇー。確かに、人と関わるのは好きやし、みんな俺のこと大好きなんは、知っとる。…でも、告白はせん」



「えーっ、何で?」



「みんながみんな、受け入れてくれるわけじゃないってこと、分かっとるけん」



「うーん、でも、颯太やったら、告白されたら意識し出して、好きになって貰えるかもしれんよ?」



いかにも、単純で素直な希子が言いそうなことだな、と思って、思わず頬が緩む。



分かっている。



そういう世界もあるってこと。



だけど、俺がいるところはそうじゃない。



「希子が思ってるようなことが、当たり前じゃない世界もあるとよ?」



「えぇ?例えば?」



「イエスかノーだけで答えてもらえるわけじゃない世界もあるってこと」



「ふぅん?」



希子は、不思議そうな顔をしたが、どういう意味かよく理解出来なかったのか、その話は、自然と消滅していった。