片隅 希子⑬ | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

一日遊園地ではしゃいで、夕方には地元に帰ってきた。



閉園と共に出たけども、家に着いたのは六時を過ぎていた。



何をそんなに寄り道してきたのだろうと思う。



なっちゃんとの会話が面白くて、いちいち歩くのにも時間がかかった気がする。



もう暗いし家まで送る、と言ってなっちゃんは、電車を一つ乗り過ごして、私の最寄り駅まで来てくれた。



また戻らなくちゃいけなくなるからいい、と何度も断ったのに。



いつも、学校帰りだってこんな感じなのに。



だけど、やっぱり特別扱いされてるみたいで、嬉しかった。



電車を降りて私の家へ向かう道中、手を握り合った。



少しずつ冷えてきた空気に、暖かいなっちゃんの手が心地いい。



大きな手は、私の小さな手を、丸ごと包み込むみたいだ。



「ごめんね、もうここでいいよ」



私の家までもう百メートルほど、というところだった。



「何で?家の前まで行くよ?」



「いやぁ、でも…」



誰かに見られるのは、恥ずかしい。



それに、三軒先には、黎弥の家もある。



家族にももちろんだけど、黎弥に目撃されて、あれこれ詮索されるのも、ちょっと嫌だ。



「分かった。じゃあここで」



「うん」



横並びにいたところから、向かい合う形で目線を合わせる。



背が高いなっちゃんは、かっこいい。



今度はヒールを履いて遊べるようなところがいいな、と思った。



向かい合ったまま、まだ握り合っている私たちの手。



離そうかと思うけれど、なっちゃんは反対に強く握って、離そうとしてくれない。



にこ、と笑ってこの間を繋ごうとする。



「希子さ、」



「うん?」



「福岡の、専門学校行くっちゃんね?」



「うん、そうだよ?」



私は地元を離れて、県外に進学する。



友達もいないところへ出るのは不安もあるけれど、自分の目標に向かっていくのだから、そこは希望の方を強く持ちたい。



「俺も、そうやけんさ、」



「うん、知ってる」



「卒業しても、またこうして、会おう?また一緒に、どっか行こう?」



「うん。行く」



卒業した後の未来。



隣にいるなっちゃんが、想像できた。



ギュッと握る手が、また一つ、強くなる。



なっちゃんの顔を見つめると、真剣な顔をした瞳と視線が絡み合った。



ドキッとする。



強く握った手のひらで、掴まれた右手を、一歩、ぐっと引かれた。



はずみで、右足が一歩、なっちゃんの傍に近づく。



私の手を握る左手と、反対にもう一つの右手が、私の二の腕を掴む感覚が分かった。



そして、なっちゃんの顔が近づいてくる気配も。



服の上から掴まれた二の腕が、熱い。



ふわ、と柔らかい感触が唇に伝わった。



瞬間、ギュッと心臓をわしづかみにされたような衝撃が襲ってくる。



触れただけの唇は、やがて私の下唇を挟むように、何度がチュッと吸われた。



目を閉じて、その愛撫に応える。



しばらくすると、唇は離れた。



冷たくなってきた風が、ひゅっとそれを纏う。



反対に、唇と、体の芯は熱かった。



恥ずかしくて、どんな風に目を合わせたらいいのか分からない。



「もしかして、初めてやった?」



カァァァっと顔がさらに熱くなる。



「え…ちが、」



初めてでは、ない。



でも、自分の意志で、キスしてもいいと思ったのは、初めてだった。



なっちゃんの顔が近づいてくる瞬間、キスされる、って分かったのに、私は逃げなかった。



拒もうと思えばできたのに、私はそうしなかった。



なっちゃんとだったら、いい、と思った。



何だかいつも余裕そうななっちゃんに、やられっぱなしで、こっちばっかりドキドキしてるみたいで、悔しくなる。



「なっちゃんて、たまにいじわるだよね?」



「え?そうかな?どんなとこが?」



「ううん、いい」



私の方が、なっちゃんのこと、いっぱい好きみたいだ。



「来月さ、花火上がるやん?クリスマスに」



「あ、うん。ファンタジア?」



私たちが住むこの街には、毎年クリスマスにイベントがある。



その催しの一つとして、花火が上がる日がある。


冬に上がる花火はとても珍しく、結構有名で、九州各地からいろんな観光客が訪れる。



「一緒に、行こう?」



行かん?じゃなくて、行こう、だった。



疑問系じゃなくて、確定。



でも、私たちの距離は、今、それほど縮まっているんだろうと思った。