片隅 希子⑫ | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

北人と教室の入り口でぶつかりそうになったあの日。



『ごめん』そう言われて、私もとっさに謝った。



そして、『おはよう』と挨拶をした。



これまでだったら、そのあと自然と会話が繋がっていた。



宿題やってきた?とか、今日暑いね、とか。



昨日見て面白かったSNSの話題とかで、盛り上がったりした。



だけど、今は。



北人の顔は、何だかとても強張っていた。



久しぶりに会話して気まずい相手、そんな風に認定されているみたいだった。



私も、なんて声をかけたらいいのか分からなかった。



今の北人と交わす会話の内容が、もう浮かんでこない。



これが、私たちの今の距離なんだと、思い知らされた。







なっちゃんと待ち合わせたのは、日曜日の朝十時だった。



十一月ももうすぐ終わりだけれど、今日は天気が良くてとても暖かい。



上着なんかいらないほどだ。



駅前でなっちゃんのことを待っていたら、声をかけられた。



「希子」



急いで振り向くと、なっちゃんが立っている。



「おまたせ」



「ううん、全然待ってないけど」



鮮やかな色をしたブルーのパーカーに、袖からは白いTシャツが覗いている。



パンツはパーカーと同系色の柄パンを履いたなっちゃん。



背が高くてとてもよく似合っている。



「前から思いよったけどさ、なっちゃんて、おしゃれだよね?」



「そう?」



「うん。いっつもかっこいい格好しとるし、よく似合ってる」



「ありがと」



少し照れたように笑う姿もかわいい。



「好きでしょ?ファッション」



「うん、好き。でも、希子もかわいいよ?」



「えー、嘘、そりゃ私も好きだけどさ、おしゃれするのは。背低いから、いまいち何も似合わんちゃんねー」



「そんなことないよ?背はちっちゃいけど、バランスいいし、自分の似合うものがよく分かってると思うよ?」



「あ…ありがと」



なっちゃんたけだな、と思った。



こんな風に素直に褒めてくれるのって。



言葉にして想いを伝えてくれるのって、嬉しいんだな、と思う。



「行こっか?」



「うん」



私たちは、今日地元の小さな遊園地に行くことにしていた。



有名で大きな遊園地と違って、高くて怖いジェットコースターもないし、ぐるぐる回転する絶叫マシンもない。



施設には広い公園や湖も併設されていて、ゆっくり休憩や散策も楽しめる。



若者がたくさん、というよりも、小さな子供連れの家族なとが多く楽しめるところだ。



私もなっちゃんも、絶叫系は苦手だから、ちょうどいい。



目的地に向かって歩き出すなっちゃんの隣に並ぶ。



何だか、緊張するな。



デートって、そう言われてみれば、初めてかもしれない。



黎弥と、小さい頃二人で出掛けたことはある。



友達が誕生日だから一緒にプレゼント買いに行こう、って近くのショッピングモールに。



それから、近所のスーパーにもよく一緒に買い物に行った。



北人とだって、二人で寄り道したことは何度もある。



学校帰りにファーストフード店によってジュースを飲んだことも。



そして、部活の買い物に一緒に行ったことだってある。



だけど、こうして休みの日に男の子と待ち合わせて出掛けるのって、初めてかも。



手、とか繋ぐのかな。



もう何度も繋いだけれど、いざこうして身構えると、緊張する。



「もしかして、緊張しとる?」



「へ?」



いつもみたいになっちゃんが私を覗き込む。



「デートすんの初めて?」



バレてる。



「北人とは?そういうの、なかったと?」



なっちゃんは時々いじわるだ。



今は、北人のことは思い出したくないのに。



いや、考えてたのは自分か、と思う。



「ないよ。そんなんじゃなかったし」



「ほんとに?」



「ただの仲いい部活の友達やし」



「じゃあ、俺が初めてだ」



顔を上げて笑うなっちゃんの横顔が、ブルーの快晴の空と同化してて、清々しい。



きれいだな、と思う。



「今日暑いよね?」



「うん、二十度だって」



「もうすぐ十二月なのにね?」 



「異常気象やね?」



そんな会話を織り成す。



「希子、絶叫系苦手ってほんと?」



「うん、乗りきらん。高いとこ苦手やもん」



「俺も。もう二度と乗りたくない」



「小さい頃は、乗りよったと?」



「小学生ん時、友達も一緒に遊園地行ったときに乗らされたのが最後。それ以来、もう二度と乗らんち思って、それから乗ってない」



「あはは、私も。じゃあ、何なら乗れる?」



「メリーゴーラウンドならいける」



「私も。じゃあ、ちっちゃいトロッコみたいなやつは?」



「あれならいけるかな?コーヒーカップも乗れるよ?」



「コーヒーカップは苦手。酔うもん」 



「えー、残念。ぐるぐる早回ししてやろうかと思ったとに」



「あはは、じゃあ一人で乗ってきてよ。私写真撮りよってやるけん」



「一人はやだ。ハズイやん」



「えー、一人でコーヒーカップ乗るなっちゃん、シュールで面白そうなのに」



二人で爆笑する。



なんだか、いい感じだ。



なっちゃんといると、どうしても物静かで気を遣ってしまいそうな気になるけれど、案外、そうでもない。



なっちゃんはよく笑うし、冗談も言う。



ちょっと、楽しいかも。