目が覚めたのは、私の方が後だった。
昨夜、あの後入ったのは、駅からほど近いラブホテル。
そこで、私たちは二度ほど繋がって、眠りについた。
何度もキスを交わして、体のあちこちをお互いで触れ合って、もうそこまで、というのに、公ちゃんはなかなか最後まで行こうとしなかった。
付き合ってもいない女と交わることに、抵抗を覚えているのかもしれないと思った。
だから最後にはとうとう、私の方から彼のものを口に含んで、その気にさせた。
もしかしたら、好き、という気持ちが彼の中でまだ不確かなのかもしれないとも思ったが、先に事実を作ってしまえば、彼はきっと私を無下に出来なくなる。
気持ちが後からついてくるだろうと思った。
どうしても、欲しかったのだ。
私を愛して、大切にしてくれる人の存在が。
今から思えば、そうして手に入れたものなんて、うまくいくわけがないと思えるのだけれども、どうしてもあの頃の私は、周りが見えていなかった。
がむしゃらに何かを手に入れたくて、どうしようもなくもがいていたのだ。
「おはよう」
目の前には、公ちゃんの体があった。
横たえて、肘をつき、私を見つめている。
上半身は何も身につけていない。
その白くて大きな胸に、吸い込まれそうだ。
何と言っていいか分からず、とりあえず朝の挨拶をした。
「おはよ」
すると彼も笑って答えてくれる。
何だかいい感じだ。
これまで、私の体だけを求めてきて、一晩だけを過ごした男たちとは、印象が違う。
そうだ、彼とは、幾度ほどもメッセージを交わして、親交を深めてきた。
彼だって、私に気があって、声をかけてくれたのだ。
ちゃんと、私を思う気持ちは心にあるはずだ。
何より、私の気持ちが全然違う。
ごそごそ、と掛け布団の中をまさぐる。
すると私は下着以外何も身につけていなかった。
急に恥ずかしくなって、キャミソールをどこに脱ぎ捨てたのかと、ベッド脇を探す。
私側の脇には、何も落ちていない。
「あ、これ?」
公ちゃんが向こう側の脇の床に落ちていたのだろう、私のキャミソールを拾い上げた。
「あ、それ!」
ぱっとその手からキャミソールを奪い取る。
「あと、これ?」
ホテルの部屋に備え付けられていた、前開きのワンピース型の部屋着。
昨夜一度お風呂に入った後に、身につけていたものだ。
どうやら二度目に抱き合った後に、無意識で脱ぎ捨てて、あちら側に落ちていたようだ。
その後は、服を着る暇もなく抱き締められて、そのまま眠ってしまったことを思い出す。
服を身につけていないことが恥ずかしくて、布団を体に当てながら、どうやって着替えようかと彼を見つめていたら、にやっと微笑みかけられた。
「どうぞ?着替えていいよ?」
「え、あ、うん。あっち、向いててくれる?」
彼はまだ上半身は裸だ。
人に見られても恥ずかしくないほどのきれいな体をしているが、男とは何と楽なものだろうと思う。
「うん、分かった」
そう答えるので、私も背中を向けて、布団を外し、キャミソールを身につける。
このまま、自分の服を探しだそうか。
この部屋着をもう一度着るよりも、自分の服を…
と思っていたら、後ろから人肌の匂いがした。
首筋がひやっとしたところで、抱きすくめられる。
ベッドに座ったまま、私は公ちゃんに抱き締められていた。
「これから、どうする?」
そう聞かれた。
「え…どう、って?」
「誘ってきたの、そっちだよね?」
「へ?」
しらばっくれてみるけれど、昨夜はあんなに控えめだったのに、急に何もかもを悟ったような言い方をされて、ドキリとする。
「もっかい、したい」
ぎゅうっと胸元を両手で抱き締められて、耳元に唇を近づけてささやかれたら、もうたまらなかった。
「あ、今、何時?」
「九時。まだ時間、ある」
「あ、そうなんだ。あの、えっと、」
「ん?」
耳たぶに息がかかりそうになって、思わず身もだえた。
キャミソールしか身につけていない私と、また何も着ていない彼との体温が熱くて、人肌との触れ合いがこんなにも熱いものだと思い知らされる。
「ねぇ?」
「なに?」
「私たち、付き合うってことで、いいんだよね?」
その聞き方は、男を縛り付けるような言い方だったのかもしれないと、思う。
「どうして?」
「だって、あの、違うの?」
どうしてももう一度抱き合う前に、確認しておきたい、
一晩を迎える前と、迎えた後に交わす体の行為は、それだけ大きく意味が違ってくる。
「なっちゃんは、どうしたい?」
控えめだった彼も、欲望には、忠実だったようだ。
彼も、ちゃんと男だったのだ。
男とは、どうしても女の上に立ちたい生き物なのだろう。
その証拠に、こんな支配者みたいな彼の本心が見え隠れする。
「私は、…付き合いたい」
後半部分は小さく消え入りそうな声で言った。
彼が支配者なら、私はそれに応えるべく服従するのみだ。
「俺も」
耳元でそう聞こえた。