「成瀬は天下を取りにいく」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
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今年の本屋大賞を受賞した話題の小説。市内の図書館に貸出し申し込みをしたら、(28冊を所蔵している中で)500人以上の予約待ちだったので、順番が回ってくるのはだいぶ先になりそうとのんびり構えていました。

 

ある日ひとりのラン友さんが持っていることが分かり、仲間で回し読みしてくれるそうなので、ちゃっかり便乗させてもらいました。

 

 

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私の手元に来たのは先週のこと。読み始めたら一気に一日で読み終わってしまいました。

 

感想を一言で言うと、面白いし、何より読みやすい。性別・年齢を問わず、万人ウケする内容なので、本屋大賞を獲ったのも納得です。ただ期待値が高かった分、ちょっと物足りなかった部分もあります。

 

何より、主人公の成瀬あかりのキャラ設定がこの小説のキモです。賢くて、何をやらせても上手で、でもそういう人物にありがちな思考回路が変わっていて、みんなの憧れとか人気者にならずに周りから孤立している。でも、本人はそんなことは気にしなくて、自分の信じた道を行く。

 

一つの長編ではなく、6つの短編小説がオムニバス形式で書かれています。

 

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①「ありがとう西武大津店」

 

そんな成瀬の中二の夏休みの出来事を、幼馴染みの島崎みゆきの視点で書かれた一編。

 

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

という、読者の興味を一気に惹きつける書き出しで始まります。

 

コロナ禍の2020年8月31日に、惜しまれながら閉店した西武百貨店大津店(これは事実)。その1ヶ月前に成瀬は島崎に宣言します。滋賀県のローカルTV局びわテレの夕方の情報番組「ぐるりんワイド」(TV局も番組名も架空)が毎日西武の前で中継するので、それに毎日映り込むことにしたのです。

 

マスクを付け西武ライオンズのユニフォームを着て毎日テレビに映り込む成瀬は、中継クルーには無視されますが、次第に観た人の関心を呼ぶようになります。

 

他人を気にせずマイペースでやっていても、いつの間にか周りの大人や同級生を巻き込んでしまうーそんな成瀬の魅力がこの一編で読者を虜にします。

 

この成瀬と島崎の関係、どこか見覚えがあるなと記憶を辿ったら、誉田哲也の「武士道」シリーズの香織と早苗に似ているな、と思い出しました。

 

普通に終わるかと思ったら、最終日の8月31日に意外なことが。そう来るか!というツーシームのような展開。この一作で読む人は成瀬のファンになってしまいます。

 

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②「膳所から来ました」

 

「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」

西武が閉店したその翌月、今度は何をするかと思ったら、成瀬は島崎と「M-1 グランプリ」に挑戦することに。

 

コンビ名は「膳所(ぜぜ)から来ました」というツカミの一言から、「ゼゼカラ」に決定。単なる思いつきかと思ったら、過去の出場者のビデオをみたり、台本づくりに熱中したりとかなり本気。

 

そのネタづくりの過程がこの短編の大部分を占めます。関西弁でやるやらないとか、ボケとツッコミの割り振りで揉めたり、文化祭で試しに演じたビデオを見て反省したり。

 

結果は言うまでもなくですが、ところどころにある小ネタがなかなか笑わせます。

 

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③「階段は走らない」

 

①作目の西武大津店閉店の出来事を、大津在住で同級生の社会人たちから見たスピンオフストーリー。成瀬と島崎も、TV番組「ぐるりんワイド」のライオンズ女子として見られている場面に登場。これが最終話の伏線になっています。

 

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④「線がつながる」

 

滋賀県立膳所高校(実在する県内トップの進学校)に入学した成瀬の姿を、小学・中学の同期生大貫かえでの視点から描いた一編。

 

なんと坊主頭で入学式に現れた成瀬。その理由は高校3年間で髪の毛がどれくらい伸びるのか検証するためという。

 

東大のオープンキャンパスに行った時、偶然現れた成瀬が池袋にある西武百貨店の本店に行ったのにはクスリとさせられました。

 

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⑤「レッツゴーミシガン」

 

大津で行われる高校かるた選手権に出場した、広島代表の男子高校生西浦航一郎と中橋結希人から見た成瀬の物語(成瀬の膳所高校は実際にかるた選手権の常連校)。二人にナンパされた成瀬は、なぜか琵琶湖の遊覧船”ミシガン”(これも実在)に乗ろうと誘います。

 

ここでも成瀬の突拍子も無い姿が全開します。西浦が成瀬に聞かれて答えた「だれにも似ていないとこかな」と言うのが、成瀬の魅力を一言で表しています。

 

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⑥「ときめき江州音頭」

 

最後は成瀬の視点で書かれた一編。江州(ごうしゅう)音頭は実際に滋賀県発祥の盆踊り。

 

③で登場した社会人吉嶺が実行委員長で運営する夏祭りで、成瀬と島崎のコンビ「ゼゼカラ」は高校3年間MCを担当しますが、島崎は親の転勤で東京の大学を受験し引っ越すことになり、成瀬は心なしかショックを受けてしまう。やっぱり成瀬も普通の女子高生だったという、せつないエンディング。

 

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全編にわたり、成瀬というか著者宮島未奈さんの大津愛(滋賀愛)に溢れています。平和堂や「うみのこ」などのローカルネタが満載。思わず映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」を思い出してしまいました(笑)。

 

中高生には読んでいてキュンキュンする場面がいっぱいある青春小説ですが、大人が読んでも学生時代のことが思い出されて共感できる部分があると思います。

 

本屋大賞は獲りましたが、直木賞には届かないかな?というのが勝手な感想です。もう一捻り(というか深掘りが)欲しい感じですね。でもストーリー的には面白いので、多分映画化されると思います。その時は成瀬役は誰がするのか?予想するのも楽しいかも。

 

続編も出ているので、そのうち読んでみようと思います。