2023年下半期の直木賞受賞作、万城目学(まきめまなぶ)の「八月の御所グラウンド」をやっと読むことができました。受賞後すぐに市内の図書館に貸出予約したものの、流石に人気作だけあって400人超の予約待ちだったため、時間がかかってしまいました。
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この単行本に収められているのは、表題作の他にもう一編あるので、そちらから紹介します。
「十二月の都大路上下ル(かける)」
毎年12月に京都で行われる「女子全国高校駅伝」に出走する高校の一年生補欠ランナーが主人公。京都入りした大会前日、補欠と思ってのんびり構えていたら、先輩ランナーの体調不調で急遽アンカーを任されることになった坂藤(さかとう)。
彼女が最終5区の西大路通を走っていた時、テレビ中継でよく見かける歩道を並走するランナー集団は、なぜか和服で刀を抜いて「誠」の旗を掲げていた。しかし彼らの姿が見えていたのは、彼女と並走していたもう一人のランナーだけだった.....。
小説にファンタジーの要素を入れる万城目学ならではの物語。新撰組の屯所跡があった壬生(みぶ)に近い西大路を走るランナーに並走する幻の武士集団。京都の地理歴史を知っている私のような人は、ウンウンと頷きながらサラッとよめる短編です。青春スポーツ小説として読みやすく、ランナー心理もよく書かれていて、マラソンを走っている人にはうってつけの小説ですね。
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そして直木賞受賞作の
「八月の御所グラウンド」
酷暑の八月の京都が舞台。彼女に振られて暇を持て余していた大学生(おそらく京大生)の朽木は、先輩の多聞の卒業を助けるため、担当教授が交換条件として提案してきた草野球大会「たまひで杯」に出場して、優勝を目指すことになる。
表題の「御所グラウンド」(通称御所G)とは、その試合が行われる京都御苑の御所に隣接するグラウンドのことです。(実在しますが、詳しくは最後に)
そして「たまひで杯」の「たまひで」とは、教授がお世話になった芸妓の名前で、同じ様に彼女を贔屓にしている昭和のおじさんたちが率いる草野球チームの対抗戦が「たまひで杯」ということです。
こういう小説によくある話で、メンバーが足りなくなったピンチに救世主としていろいろな人物が登場します。その中の一人は、先の大戦中に亡くなった名投手「えーちゃん」だった、という仕掛け。
えーちゃんこと沢村栄治は、京都の学校から甲子園に三度出場したので京都とは縁があるそうですが、それを現代小説に甦させるというのは万城目ファンタジーの真骨頂ですね。
それ以外にも戦死した学生がふたり助っ人として現れます。京大の農学部グラウンドで、その昔戦地に向かう学徒出陣式が行われた時の学生だったという設定。奇しくも試合が行われた日は、京都五山の送り火の前日のお盆の期間。その大文字山の送り火を見ながら、戦死した学生に思いを馳せるというエンディング。
ファンタジーとユーモアと少しの切なさと非日常がうまく噛み合った小説です。こちらも京都の地名がいっぱい出てくるので、知っている人は読みながらいろいろ楽しめます。
どちらの作品も、複雑な展開はなくて文章もとても読みやすく、1日で2作品を読み終わってしまいました。京都大学の卒業生である万城目学の小説は、京都を舞台にしたものが多いと思っていましたが、デビュー作の「鴨川ホルモー」以来、16年振りだそうです。
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追記
作品に出てくる「御所グラウンド」が実在すると知って、先日京都に出かけた時に確かめに行ってきました。
場所は御所のある京都御苑の北東角↓
(よく勘違いされますが、宮内庁が管理する「御所」は京都御苑のごく一部のエリアです)
正式には今出川広場というそうですが、野球のグラウンドが3面取れるほどの広さがありました。
ちょうど少年野球チームが練習していました。京都御苑は環境省の管轄なので、使用するためには傘下の国民公園協会への申し込みが要るようです。
ついでに、小説の中で登場人物が何回も訪れていた、御所近くの喫茶店 ”SECOND HOUSE" にも行ってみました。
落ち着いた雰囲気の室内で、これも小説の中で食べていた「あさりきのこパスタ」をオーダー。生姜が程よく効いて、美味しかったです。