前から読みたいと思っていた、川上未映子さんの小説をやっと読むことができました。
いつものように図書館で借りようとしたら、芥川賞を受賞した「乳と卵」(ちちとらん)とか、長編の「ヘブン」とかの人気のある作品は予約待ちが多くてすぐ手元に来ないようなので、小説デビュー作の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」を読んでみることにしたのです。
初期の頃の彼女の詩集のタイトルは独特というか、変わっていて、
「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」
「先端で、さすわさされるわそらええわ」
「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」
「彼女は四時の性交にうっとり、うっとりよ」
など、なんじゃこりゃ?という感じのものが多いです。
大阪出身らしく、関西弁を使った独特のリズムのある文章が特徴です。
そんな彼女の原点ともいえる小説
「わたくし率 イン 歯ー、または世界」
人は脳では無く、歯、それも奥歯で考えていると思った”わたし”は、歯科助手に転職して、恋人の青木を思い、お腹にいるまだ見ぬ子に日記を綴るという内容です。
普通の小説を読み慣れた人には、言葉遣いや思考回路がぶっ飛んでいて、ついていけないかもしれません。時には句点があるだけの長い文章が、段落もなく数ページに渡って続きます。読み進むのが苦痛といえばそうではなく、関西弁のリズミカルな文章に知らないうちに引き込まれていきます。
特に恋人の青木の後を追っかけた先のアパートで、部屋にいた女性のとの関西弁の長いやり取りが最高に面白い。(でも、関西以外のひとには読み進むのがしんどいかも)
妄想なのか、現実世界の出来事なのか、曖昧のまま文章は続き、読み手の想像に任されたまま終わります。
難しくいえば「自我」という哲学的なテーマを扱っている?となりますが、そんな小難しいことは考えずに読み進むのがこの小説の面白さだと思います。
2007年の上半期芥川賞の候補作ですが、残念ながら受賞はならず。選考委員の選評を改めて読んでみると面白いです。それぞれ衝撃を受けたようで、特に石原慎太郎はタイトルから拒否反応を示しているのはしょうがないかな。
でも、それから半年後の2007年下半期には、「乳と卵」で見事に受賞しました。選考委員の村上龍や山田詠美は絶賛していますが(これは二人の作風からして納得)、相変わらず石原慎太郎は不快感を示しています。
私は、「乳と卵」が手元に来るのが楽しみです。