予告編を見て、気になっていた映画を観に行ってきました。
一言で言えば、反戦をテーマにした不条理喜劇です。
時代も場所もはっきりわからない架空のとある町は、川向こうの町と何十年も戦争を続けています。その町で兵士として暮らす主人公の露木は、毎日決まった時間に起きて、兵舎に出勤して、ラジオ体操をして、朝9時から夕方6時まで戦争を仕事としてこなし、決まった時間に食事をして、決まった時間に宿舎で寝ます。誰が何のためにいつからこの戦争が始まったのか、号令をかける町長でさえ答えられません。
トランペットを吹くことができた露木は、ある日突然楽隊への異動を命じられます。トロンボーンとクラリネットと太鼓の4人で編成された楽隊は日々練習しますが、ある日新しい兵器と部隊がやってくることになり、徐々に彼らの生活は変化していきます。
好き嫌いが分かれる映画です。レビューを見ても、全く評価しない人と面白いと絶賛する人に極単に別れています。私は好きです、こういう映画。
最初の数十分はほぼ同じ映像の繰り返しで、単調な兵隊の仕事を淡々と映し出します。最初から最後まで、俳優のセリフは棒読みに近く、動作も必要最小限に抑えられ、ほとんど喜怒哀楽が無く、歩く時も真っ直ぐで曲がる時も直角に曲がるという徹底ぶり。例えていうなら、幼稚園児や小学生の学芸会を思い浮かべてもらうと分かりやすいかもしれません。
もちろんこれは監督の意図する演出でああって、それを演じるのが、またクセのある俳優達ばかり。石橋蓮司、きたろう、嶋田久作、片桐はいり、矢部太郎、今野浩喜など。そして竹中直人までチョイ役で出てきます。
噛み合わないセリフ、不思議な動作、始まってから30分ほど経つと、それらが妙にハマってきます。単調な映像に耐えられなかった人は、ここまで我慢できずに席を立っていたでしょう。
監督の指示とはいえ、俳優陣も大変だったと思います。特に、大袈裟な演技を得意とする舞台出身の人たちは、感情を抑えるのに苦労したことでしょう。逆にそれだからこそ、クスクスと笑いが込み上げてくる仕掛けになっています。特に、兵舎の給食係の片桐はいりと、受付係のよしえとも子の演技が最高!
戦争ごっこではなくて、実弾を使った戦争なので時に怪我人や死者も出ます。そんな(戦争)生活に疑問を持つ新入兵士も現れ、新兵器(原爆?)の砲弾が相手の町に打ち込まれた後は、虚しさが漂う場面に変わっていきます。
反戦映画とはいえ、声高に「反戦」を叫ぶわけでもなく、おそらく太平洋戦争の日本をモチーフにした設定は、ユーモアの中にもところどころ毒が散りばめられていて、それこそ監督の思うところだと思います。
コントの寄せ集めのような実験的な映画と言ってしまえばそれまでですが、こういう日本映画は逆に外国でも受けるような気がします。無表情で抑揚のない言葉を話す日本人という先入観を逆手にとっていますからね。
付記:煉瓦造りの兵舎がいい雰囲気を出していていました。エンドクレジットで世界遺産の富岡製糸場がロケ場所と分かって納得。