いろんなコンサートホールの舞台に立った経験があるので、舞台裏(バックステージ)は見たことがあるのですが、照明や音響などの裏方のスタッフが実際にどんな仕事をしているか、というのはあまりわかっていませんでした。
豊中市が市民会館を新しく建て直して、昨年オープンした豊中市立文化芸術センターで舞台裏の作業を体験してみようというワークショップが(無料で!)開催されるというのを知って、すぐに申し込みました。
祝日だった昨日21日朝、ワークショップが開催されるホールへ向かいます。ちょっと残念だったのはワークショップに使われる会場がまだ新しい大ホールではなく、(以前から使われていて)センターの建設とともに中ホールという位置付けになった古いアクア文化ホールだったことです。
説明や実演をしてくれるのは、このセンターで行われる公演舞台の技術運営を任されている「大阪共立」のスタッフの皆さんです。
ワークショップの参加者は申し込みした先着20名。私のような一人の参加者もいれば、中学生の親子連れも何組かおられます。500席ほどある客席に適当に分かれて座りながら、解説を聞きます。
10:00に始まったワークショップは舞台形式の説明から。近年流行のシューボックス形式やアリーナ形式などのオープン形式と、昔からよく見られる額縁のような形をしたプロセニアム形式の解説があった後、細かい舞台装置の説明がありました。
(ブロセニアム形式のホールはこんな感じ)
何も無い舞台(素舞台というそうです)に、一番奥にある白っぽいホリゾント幕が降りてきます。ここに色のある照明を当てて演劇や舞踏の雰囲気を出します。
次に一番前の緞帳を下ろします。この旧アクア文化ホールは昔ながらの鮮やかな織物の緞帳があり、重さは約800kgあるそうです。
今ではとても珍しいといわれる”絞り緞帳”があるのも、歴史のあるホールならでは。バレエやオペラの舞台によく使われます。
上の照明装置を隠す黒い”文字幕”(もんじまく、太い一の文字に見えることから一文字幕と呼ばれたのが略されてこの呼び名になったとか)
次に、ひな壇を組み立てる段取りの説明。写真は壇を支える足になるもの。おなじみの箱馬もありますね。右から、開き足、箱足(箱馬)、木足です。
これは舞台に置かれる木などを後ろで支える、通称”人形”と呼ばれるもの。
と、説明を聞いているうちに、高さの違うひな壇が組み上がりました。舞台設備ではまだ尺貫法が残っていて、写真のひな壇の上にある平台は標準サイズが 3尺 (約90cm) X 6尺(約180cm)で、サブロクと呼ばれているそうです。
ひな壇と足を固定するのに、今はあまりグギで打ち付けることは少なく、台の凹みに写真のような金具をはめたり、マスキングテープで補強するそうです。
別の平台と箱馬を組み合わせて、瞬く間に出来上がったのは、落語の高座。上方落語の特徴である、見台と膝隠し、マイクと小拍子も置かれています。(ちなみに高座の高さは普通の椅子と同じ42cmです)
金屏風も立てられて、「え〜、お笑いを一席。」と希望者に記念撮影させてくれました。
客席から見ると、こんな感じになります。
余談ですが、このホールには小さいながら下手に花道もあります。
休憩を挟んで、舞台照明の説明が始まりました。
最初は舞台の前方左右からの照明。
客席全体を照らすシーリングライト。
舞台の上にある、サスペンションライトを下ろして、それぞれのライトの方向を微調整します。
いろんな方向から光を当てて、影を消したり白あかりだけで効果を出したりと、いろいろ工夫がされています。
舞台後方にあるホリゾント幕には、こん感じで照明を当てて雰囲気を出します。
舞台袖からのライトで、バレリーナを浮かび上がらせるという演出もありました。
このホールには、歌舞伎などに使われる「松羽目」があり、この規模のホールでこれを常備しているいのはとても珍しいことだそうです。
ここまでで約2時間。午前の部が終わり昼休憩です。楽屋を使っても構わないということだったので、ここで昼食を食べました。
1時間の休憩の後、午後の部はマイクやスピーカーの舞台音響の説明から始まりました。
まずは舞台正面上部にあるスピーカー。
JBLのプロセニアム・スピーカーが使われています。
舞台上手と下手の袖にあるステレオのカラムスピーカー。
これもJBLの高級スピーカーが使われています。
バンドの演奏の時などに使われるウェッジスピーカーを置いて、マイクもカラオケなどでよく使うダイナミックマイクと、話芸などで使われるコンデンサーマイクが並べられ、それぞれの特徴と、どんな場面で使うのがいいかという説明もありました。
(そういえば、漫才などではこんなサンパチのコンデンサーマイクが使われていますね)
ちなみに映画館などではスクリーンがメッシュになっていて、その隙間からダイレクトに音が出るので臨場感が出るそうです。
そして最後に反響版の説明があり、実際にどのようにセッティングされるのか実演してもらえました。
ホリゾント幕を上げた後
文字幕も上げ
次に、天井の反響版を下ろします。この時、袖の壁も90度開きます。
それが90度回転して
天井に上がります。
奥の天井板が下りて
これも90度回転して
上にあがると、天井のセットが完了します。
次に、上手と下手の壁の反響版を下ろします。
最後に一番奥の壁が下りてきて
いつも見慣れた演奏会用のホールが完成しました。ここまで約20分かかりました。
と、これだけでは終わらなくて、客席の壁の反響版が180度開いて
こんな感じで壁も雰囲気が変わります。
反響版をセットする前と後では、音の響きや残響が全然違うことを体感するために、実際に演奏する機会を作ってくれて、 ワークショップに参加した中学生たちが発表会さながらになかなか上手な演奏を聴かせてくれました。
演奏を聴きながら、客席を前後左右あちこち動いて場所ごとの音の違いを実感するという、実際のコンサートでは絶対できない体験もさせてもらえました。
ワークショップは一旦これで終了しましたが、スタッフの好意でバックステージを案内してもらえ理ことになり、ほとんど全員が参加。
まずは、舞台袖で緞帳などを上げ下げするワイヤーの説明。今ではほとんど電動だそうですが、このホールは一部手動の上げ下ろしが残っているそうです。
客席前方から舞台を照らす照明。仕切りが全く無いので、高所恐怖症の人は無理ですね。
照明のサブ調整室。ここでライトのオンオフや光の強弱を全てコントロールします。
ピンライトの照明器具。
こちらは音響のサブ調整室。いまではこんなコンパクトなミキサーでコントロールしています。
今では舞台などの現場では、スタッフがタブレット端末で全く同じ操作ができるそうです。
それらを賄うアンプの数がハンパないです。
客席後方の、向かって右が照明のサブ、左が音響のサブの部屋になります。
朝10:00に始まったワークショップが終わったのは、16:00を回っていました。ホールの裏方の仕事を一般の人に紹介体験させる講座は、この文化芸術センターでも初めての試みだったそうですが、なかなか面白くて中身の濃い内容で大満足です。わかりやすい説明で一緒に参加した中学生たちにもよく理解できたようです。
我々が舞台で演奏したり、普段何気に客席で見たり聞いたりしている裏では、事前にいろんな作業が行われていて、それぞれ高い技術をもったプロ集団が地道に働いておられるというのがよくわかりました。
来年も同じようなワークショップが開催される予定だそうです。興味のある人は近くのホールなどに問い合わせてみてもいいかもしれませんね。