六本木歌舞伎「羅生門」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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市川海老蔵が中心となって、伝統芸能の歌舞伎を新しいスタイルで見せると話題になっている六本木歌舞伎の大阪公演があるというので、さっそく14日に観に行ってきました。

 

第三弾となる今回は、芥川龍之介の有名な小説「羅生門」をベースに、同じく羅生門が舞台の渡辺綱の鬼退治伝説を織り込み、歌舞伎と現代演劇の要素をミックスさせた舞台となっています。

 

主演はもちろん市川海老蔵、演出はあのバイオレンス映画で有名な三池崇史、そして今回の共演者は、何とアイドルグループV6三宅健!もちろん三宅は歌舞伎経験は無いので、三池の演出と併せてどんな舞台になるのか興味津々で、会場となる四ツ橋のオリックス劇場(旧厚生年金会館)へ。

 

 

市川海老蔵三宅健という人気者が出演するということと、平日18時の開演ということもあって、劇場の周辺はおろか館内は9割以上が女性という存在感に圧倒されます。

 

歌舞伎公演とあって、舞台はちゃんと萌黄・柿・黒の三色の定式幕が引かれています。

 

ほぼ定刻18:00に開演。長唄が流れ鳴物(笛太鼓やツケ)が響き渡る中、海老蔵扮する渡辺綱と、同じく歌舞伎俳優の市川右團次扮する鬼の茨木童子の立ち回りという歌舞伎らしいシーンで幕開けです。

 

舞台が見やすいようにと二階席の最前列の席にしたのですが、内装や椅子の感じは変わったものの、旧厚生年金会館の構造はそのままなので、舞台が見にくい席になり、ちょっと後悔。(もうひとつ後悔したことがあったのですが、それは後ほど)

 

舞台が暗転して、羅生門のセットが現れ、ここから本来のストーリーが始まりました。

 

小説「羅生門」のあらすじはとてもシンプルなものです。災害や飢饉で荒れ果てた平安京。主人に暇を出されて羅生門にやってきた下人が、そこで見たのは捨てられた死人の髪を引き抜いて金にしようとする老婆の姿。その老婆から着物を奪い自分の糧にしようとして逃げる下人。人間の極限状態でのエゴイスムがテーマです。

 

花道に見立てた客席の通路から下人役の三宅健が登場。海老蔵(2役目)演じる老婆を殺して逃げようとするも、すぐ後に茨木童子に殺されてしまいます。

 

始まってから30分もしないうちに物語が終わってしまい、どうなることかと思っていたら、そこへジャージ姿の海老蔵(3役目)が客席から舞台上がり、死んだはずの三宅との掛け合いが始まりました。(この他にも客席の通路を使って役者が出入りす場面があり、2階席ではなく1階席にすればよかったと後悔した訳です)

 

このふたりのやりとりが結構面白い。お互いがタメ口で会話し、海老蔵がアドリブで三宅をイジりながらのフリートーク。

 

「守口、いや茨木童子が....〜」といった、大阪を意識したダジャレや、下人から転生して(渡辺)綱(ツナ)の家来になるから、名前はマヨ太郎(本来は右源太)にする(ツナマヨから??)、とか脈絡のないやり取りで観客を沸かせた後、三宅は歌舞伎特有の早替わりで家来の衣装を身にまとい、舞台は遊郭に転換します。

 

曲輪遊びに興じる渡辺綱と、それを取り返そうと廓の女将に化けて近く茨木童子、そしてそれを阻止しようと張り切るマヨ太郎こと右源太。

 

遊女たちが、会話が古臭くて何を言っているのかわからないとクレームをつけると、それまでの厳しさから一転、現代語訳で説明を始めたり、果ては観劇グッズを売り込んだりと、やりたい放題。このあたりにも、歌舞伎の敷居の高さを低くして、なんとか身近にしようとする意図が伺えます。

 

結局三宅演じる右源太は再び鬼の茨木童子に殺されてしまうのですが、そこへ駕籠に乗って現れたのが、またまたジャージに早替わり(?)した海老蔵。海老蔵の三宅イジりが繰り返され、会場が笑いに包まれます。そして右源太はまた下人として生まれ変わることに。

 

ここで約70分の一幕目が終了。

 

休憩を挟んで二幕目は、最初と同じ羅生門のセットが現れ、ストーリーが少し簡略されたかたちで再び演じられます。同じように老婆から着物を盗み、茨木童子に殺される下人。

 

同じ過ちを繰り返す人間の性が、歌舞伎特有の仕掛けで表現され、舞台はエンディングへ。

 

海老蔵扮する(4役目)三升屋兵庫之助三久が、歌舞伎伝統の荒事の見栄を切るパフォーマンスを見せたりする場面もあり、劇場全体が一気に盛り上がります。

 

照明が次々と点滅し紙吹雪が舞う中に、一本の糸が下がり、(まるで蜘蛛の糸のごとく)下人はそれを頼りに天上へ昇り幕が降りました。(二幕目は約30分でした)

 

カーテンコールが2度3度と続き、1階席の人はスタンディングオべージョン。演者も次々と客席に降りて観客とハイタッチ。これでお開きかと思いきや、その後もカーテンコールは続き、なんと都合6回のカーテンコールがありました。

 

羅生門を歌舞伎で演ると知った時、どんなアレンジにあるか興味津々だったのですが、こう来たか!という意外性の連続でした。歌舞伎の伝統は踏まえつつ、フリートークや現代語訳も取り入れて親しみを持たせる、海老蔵始めスタッフの意図がよく感じられた舞台でした。

 

残念だったのは、歌舞伎の専用劇場ではなかったので、花道が設けられなかったこと。そして、やっぱり三宅健の起用がやはり少し無理があったかなということ。他の歌舞伎役者に比べて声が通らないし、やはり腰が据わった動きができなくてぎごちなく違和感がありました。

 

それでも歌舞伎のファン拡大には十分貢献しているとは思います。これを見て、ちゃんとした歌舞伎を観に行く人が少しでも増えたらいいですね。