棟方志功を知らなくても生きていける。でも、棟方志功を知っていると、生き方が少し変わる。
福光で志功の才能が開花したような誤解を生むのだが、実は「世界のムナカタ」として本格的に名を知らしめるきっかけの一つとなった作品は、福光に来る以前にすでに仕上がっていた。志功の代表作中の代表作「二菩薩釈迦十大弟子」である。
この作品の板木は本当であれば、東京の空襲で燃えて灰になっているはずだった。しかし志功の妻チヤが戦火に呑まれる直前に「釈迦十大弟子」の板木を東京から福光に危機一髪で疎開させた。
残念ながら「二菩薩」の板木は燃えてしまったが、助け出された「十大弟子」は、福光で彫り直された新しい「二菩薩」と共にベネチア・ビエンナーレに出品され、大賞を受賞し志功の名を世界に轟かせていったのだった(写真中の屏風「二菩薩釈迦十大弟子」の両脇には、板木が燃える以前に刷られた「二菩薩」が展示されている)。この奇跡のいきさつは『板上に咲く』でぜひお楽しみいただきたい。