
如何にもメロドラマっぽいタイトルで損をしている(原題は”古い銃”)と思わせるような、メロドラマの甘ったるさとは無縁の如何にもロベール・アンリコらしい硬派な復讐劇。厳しい戦況で田舎の別荘に疎開させた妻子がナチス兵によって殺された医師。銃で撃たれた娘と火炎放射器で焼かれた妻の惨たらしい死体を目にし一人怒りに震える。彼が所有する城のような広壮な別荘を拠点にしているナチに対し、勝手知ったる地の利を生かして一人また一人と罠にはめて殺し、遂には殲滅させる。別荘と街をつなぐ橋を破壊し逃げ場をなくす。別荘に張り巡らされた隠し通路、隠し部屋を縦横無尽に往き来する。ナチが引っ張り出してきた医師の家族の記録フィルムをマジックミラー越しに観る悲哀。家族の追想は止め処ない。そういった部分にアンリコ映画らしいロマンが香る。妻の意趣返しをした壮絶なラストの胸がすく高揚感。その後に彼が感じる孤絶感や虚無感。復讐を果たしてももう彼は一人きりなのだ。こんな無常観もまたアンリコならではだろう。主人公にフィリップ・ノワレを配役したのが絶妙。
『冒険者たち』のロベール・アンリコ監督作品。そして『ニュー・シネマ・パラダイス』のフィリップ・ノワレ、当時人気絶頂期を迎えていたロミー・シュナイダー主演作品。
1944年、第二次世界大戦下のフランスで外科医として働く男ジュリアン。戦火の拡大に伴い妻と娘を田舎へ疎開させるが、ドイツ軍小隊により2人は無惨にも殺されてしまう。溢れそうになる涙と嗚咽を噛み殺し怒りに震えるジュリアンは、古い散弾銃1つでドイツ兵達を殺害していく…
本作で妻クララを演じたロミー・シュナイダーが本当に美しい。夫ジュリアンに愛され、彼を愛する喜びと幸せに輝く笑顔の美しさ。復讐に燃えるジュリアンの頭の中で常にフラッシュバックされるクララの美はそのままジュリアンの幸福の象徴として描かれる。
中年太り体型の誠実で優しい男が、愛する者を殺され一変して壮絶な復讐劇へと駆り立てられる。その姿は決してスマートでカッコ良く絵になるものではない。顔を真っ赤にし息は上がり汗だく… だからこそジュリアンの中の憎しみと復讐心が一層痛々しく心に迫っても来る。
通して映像表現がお見事だった。復讐と追想の映像のギャップ、更には火炎放射器の演出の秀逸さ、迫力共にそれは素晴らしかった。
タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』にも影響を与えたと言うフランス流バイオレンス映画の傑作だった。
フィルマークスより抜粋
映画評論家の町山智浩の書籍「トラウマ映画館」で紹介されていた一本の映画です。
タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」の元ネタの一本でもあります。