1960年の作品です。
さて本作品も成瀬節満載で、家族と金としがらみで濃密な人間関係が描かれています。看板貼れる役者が20人ほどは出てるでしょうか。その一人一人のキャラクターのエッジが利いていて、ちゃんと“生きて”いる演出はさすがです。物語としては、亭主を亡くした出戻り長女(原節子)の所在のない悲しさとか、その長女のなけなしの財産目当てに金の無心をする無神経な妹やら、長兄(森雅之)が親名義の自宅を勝手に抵当に入れて金貸してドンズラされてハラホロヒレハラになったりで、案の定、辛い話ばかりです。
最終的に自宅の処分ということになってしまうのですが、ここで母親(三益愛子)の面倒を誰がみるかで一騒動になります。“ウチはアパートだからな”と次男(宝田明)、“ウチもダメ。お姑さんがいるから”と次女(草笛光子)、“姉さん(原節子)がアパート借りて一緒に住めば?”と三女(団令子)。借金返済の残りを長兄と妻(高峰秀子)の引越費用に使うという提案に猛反発です。“だったらお母さんの面倒はお前らが見ろ”と長兄。その会話を聞いていた長女が“あんたたち!”と一喝します。こんな会話を母親の前でする訳ですか
ら、堪りません。
騒動の後に“あんた(長女)のことだけが一番心配だよ”と母。“だったら、私が一番親不孝ってこと?”と長女が言います。こういった展開が成瀬巳喜男の深いところですね。戦前は長兄が財産総取りが基本でしたし、“家付きカー付きババア抜き”が60年代の嫁入り三大条件なんて言われていた時代ですから、急激に家族のあり方が変わってきてしまったんですね。戦後の(社会主義的)人権意識とか(アメリカ的)民主主義の注入で、それまで大切にしていた日本人の家族関係が崩壊してしまったことがこの映画を見ると良く解ります。
しかし成瀬巳喜男の映画を見るといつも思うことなんですが、半径1メートルくらいの話で良くこれだけの映画を作るよなあ、と毎度ながら感心します。冷静に考えて、金払ってこんな辛い話見て何が楽しいの?、っていう気にもなりますが、成瀬巳喜男の場合はその文脈作りが巧妙だから見ちゃうんですよね。映画で語られるのはリアルな日常なんですが、そのスケッチが整然と積み重ねられてゆくことで、観客も気付かないうちに逃げ場のない絶望へ一直線に向っていく、その演出力が見事だからなんですね。尚かつ、絶望の中でもキラリと微かな希望の光を見いだす落としどころもちゃんと仕掛けてあります。
この映画の場合は、長女の再婚相手(上原謙)が同居に賛成しますし、長兄の奥さん(高峰秀子)も一緒に住む方が自然だと結論を出しますので、結局母親が老人ホームに行くことは回避できますし、そしてエンディングに出てくる笠智衆との出会いも、もしかすると楽しい老後になるかも知れないというニュアンスになっています。成瀬巳喜男の映画の中では“やるせない”を超して“悲しい”感じがしますが、ずしんと心に滲みます。
最終的に自宅の処分ということになってしまうのですが、ここで母親(三益愛子)の面倒を誰がみるかで一騒動になります。“ウチはアパートだからな”と次男(宝田明)、“ウチもダメ。お姑さんがいるから”と次女(草笛光子)、“姉さん(原節子)がアパート借りて一緒に住めば?”と三女(団令子)。借金返済の残りを長兄と妻(高峰秀子)の引越費用に使うという提案に猛反発です。“だったらお母さんの面倒はお前らが見ろ”と長兄。その会話を聞いていた長女が“あんたたち!”と一喝します。こんな会話を母親の前でする訳ですか
ら、堪りません。
騒動の後に“あんた(長女)のことだけが一番心配だよ”と母。“だったら、私が一番親不孝ってこと?”と長女が言います。こういった展開が成瀬巳喜男の深いところですね。戦前は長兄が財産総取りが基本でしたし、“家付きカー付きババア抜き”が60年代の嫁入り三大条件なんて言われていた時代ですから、急激に家族のあり方が変わってきてしまったんですね。戦後の(社会主義的)人権意識とか(アメリカ的)民主主義の注入で、それまで大切にしていた日本人の家族関係が崩壊してしまったことがこの映画を見ると良く解ります。
しかし成瀬巳喜男の映画を見るといつも思うことなんですが、半径1メートルくらいの話で良くこれだけの映画を作るよなあ、と毎度ながら感心します。冷静に考えて、金払ってこんな辛い話見て何が楽しいの?、っていう気にもなりますが、成瀬巳喜男の場合はその文脈作りが巧妙だから見ちゃうんですよね。映画で語られるのはリアルな日常なんですが、そのスケッチが整然と積み重ねられてゆくことで、観客も気付かないうちに逃げ場のない絶望へ一直線に向っていく、その演出力が見事だからなんですね。尚かつ、絶望の中でもキラリと微かな希望の光を見いだす落としどころもちゃんと仕掛けてあります。
この映画の場合は、長女の再婚相手(上原謙)が同居に賛成しますし、長兄の奥さん(高峰秀子)も一緒に住む方が自然だと結論を出しますので、結局母親が老人ホームに行くことは回避できますし、そしてエンディングに出てくる笠智衆との出会いも、もしかすると楽しい老後になるかも知れないというニュアンスになっています。成瀬巳喜男の映画の中では“やるせない”を超して“悲しい”感じがしますが、ずしんと心に滲みます。
「フィルマークス」東京キネマさん感想より
タイトルにあるように3世代の女性たちを中心に、金銭トラブルによってある物理的にも精神的にも離れ離れになっていく一家を描いた成瀬巳喜男監督の大作ドラマ。原節子と高峰秀子が久しぶりの共演を果たしたのをはじめ、かなり豪華な俳優たちが出演しているのが見どころである。
見終わっての感想は、とにかく面白かった!の一言。まずは、ストーリーがドラマ性に富んでいて飽きさせない。年老いた母親と長男夫婦、独身の三女が同居している家に、夫が亡くなって長女が出戻ってくるところから始まり、すでに結婚して家を出ている次女や次男とともに、それぞれの生活が描かれると同時に、亡き父親の遺産とか投資、借金などのお金の話がどんどん交わされていくのが面白い。また、母親の還暦祝いに全員が集う場面で見せる母親の幸せそうな笑顔と、映画の最後のほうで見せる寂しげな表情の落差が、なんとも言えない悲しさを誘う。さすが、女性映画の名手と言われた成瀬巳喜男監督である。
内容とともに、各俳優の演技も素晴らしい。出戻りの長女を演じる原節子は、今まで私が見た映画での純朴な役柄と異なり、少し図々しさを備えた自由奔放な中年女性を、これまた見事に演じている。なんと言っても見どころなのは、仲代達矢演じる年下の男性とのラブロマンス。原節子が初めてのキスシーンを演じるということで話題になったそうである。どんな役をしても、彼女の笑顔はとても魅力的。最近原節子の映画を続けて観て、大女優と騒がれた理由が本当によくわかった。
高峰秀子の、ただ大人しいだけではなく一癖も二癖もある感じの長男の嫁もなかなか良かった。さすが演技派女優と呼ばれただけある。母親役の三益愛子の落ち着いた老け役も良かったが、実年齢では長男役の森雅之とほぼ同じという若さがちょっと目立ってしまったところにやや難ありか。一方で、次女の姑を演じた杉村春子の意地悪さはやっぱり凄かった。宝田明や淡路恵子の若い頃の姿も印象的だったが、なぜか草笛光子だけは老け顔に見えてしまった。
見終わっての感想は、とにかく面白かった!の一言。まずは、ストーリーがドラマ性に富んでいて飽きさせない。年老いた母親と長男夫婦、独身の三女が同居している家に、夫が亡くなって長女が出戻ってくるところから始まり、すでに結婚して家を出ている次女や次男とともに、それぞれの生活が描かれると同時に、亡き父親の遺産とか投資、借金などのお金の話がどんどん交わされていくのが面白い。また、母親の還暦祝いに全員が集う場面で見せる母親の幸せそうな笑顔と、映画の最後のほうで見せる寂しげな表情の落差が、なんとも言えない悲しさを誘う。さすが、女性映画の名手と言われた成瀬巳喜男監督である。
内容とともに、各俳優の演技も素晴らしい。出戻りの長女を演じる原節子は、今まで私が見た映画での純朴な役柄と異なり、少し図々しさを備えた自由奔放な中年女性を、これまた見事に演じている。なんと言っても見どころなのは、仲代達矢演じる年下の男性とのラブロマンス。原節子が初めてのキスシーンを演じるということで話題になったそうである。どんな役をしても、彼女の笑顔はとても魅力的。最近原節子の映画を続けて観て、大女優と騒がれた理由が本当によくわかった。
高峰秀子の、ただ大人しいだけではなく一癖も二癖もある感じの長男の嫁もなかなか良かった。さすが演技派女優と呼ばれただけある。母親役の三益愛子の落ち着いた老け役も良かったが、実年齢では長男役の森雅之とほぼ同じという若さがちょっと目立ってしまったところにやや難ありか。一方で、次女の姑を演じた杉村春子の意地悪さはやっぱり凄かった。宝田明や淡路恵子の若い頃の姿も印象的だったが、なぜか草笛光子だけは老け顔に見えてしまった。
「フィルマークス」akrutmさん感想
60年前の映画とは思えない位話の展開が上手だと思いました。
古さは感じませんでした。
たくさんの豪華な俳優さんたちが出演されていますが、それぞれのキャラクターがしっかり描かれており、見やすかったです。
夫を事故で亡くした長女の役を原節子が演じています。
持っていた100万円も兄や妹から頼まれると断れずにすぐに貸してしまいます。
人が良くかわいらしい感じが良くでていました。しかし、世間知らずの面が母親を心配させます。
母親の還暦祝いに集まった時は、兄弟たちが集まり結婚している者は夫婦で楽しくお祝いしましたが、長男が家を抵当に入れて借金したお金が返せなくなると、今度は兄弟たちが集まり母親の面倒を誰がみるかで話合います。皆自分は無理だと本音をいい合います。母親のいる前で。それでも長女や長男の嫁は一緒に暮らそうと母に伝えますが。
お金がからむと人の本性が表れますが、親兄弟とて例外ではありません。
タイトルの「娘・妻・母」からではどんなお話か想像もつきませんでしたが、5人の兄弟と母親の行く末をテンポよくお金を絡めて娘、妻、母の立場から描いた傑作のひとつだと思います。