雀荘は不当に規制されているのか? | 無気力無関心(仮)

雀荘は不当に規制されているのか?

前回は『テンピンは合法なのか?』で麻雀と刑法賭博罪の関係について書きましたが、今回は麻雀と風営法の関係について考察してみたいと思います。(参考:Wikipedia『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』

 

麻雀と法律の関係については、この2つをセットで読んでいただければと思います。

 

風営法が規制するもの

まず、『風営法が規制する対象は雀荘の営業であり、麻雀そのものに対する規制ではない』ということをご注意ください。(これは『営業でない場合は規制の対象にならない』とも言い換えられる⇒追記1を参照)

 

その規制を大まかに抜粋してみると、以下のような感じでしょうか。

 

・営業許可(都道府県公安委員会への許可申請が必要)

・営業時間(午前0時から午前6時までは営業できない)

・遊技料金(自動卓で1時間あたり600円が上限)

・18歳未満の立ち入り

・宣伝広告(違法行為への誘導や射幸心を煽る宣伝広告はできない)

景品の提供(遊技の結果に応じた景品を提供できない)

接待行為(従業員や外部委託のゲストがお客と同卓して遊技することはできない)

 

また、雀荘のイメージとして『フリー営業(レートありorノーレート)』を思い浮かべるかもしれませんが、その実情としては『貸し卓営業』の方が圧倒的に多い(正確なデータは不明だが貸し卓営業が8~9割?)という特徴もあります。

 

そして、この規制を遵守できていない雀荘が多いというのも事実であり、雀荘業界からは「風営法の規制は時代に合わなくなっているから改正すべき」という声も上がっています。(参考:麻雀ウォッチ『スポーツ麻雀議連 時代に合わせて風営法改正も視野』

 

風俗営業の4号営業

風営法が規定する風俗営業にはいくつかの種類があり、雀荘とパチンコ店は4号営業(設備を設けて客に射幸心をそそる恐れのある遊技をさせる営業)に分類されています。

 

そして、パチンコ店の営業は賭博(遊技の結果に応じた景品の提供を行う)であるにもかかわらず、合法な遊技として営業を行っています。(参考:BLOGOS『パチンコは「グレー」ではないし「違法」でもない』

 

これはパチンコ店が風営法の規制通りに営業している限りは『一時の娯楽に供する物』の範囲内であり、賭博をやらせても違法にはならないように風営法の規制が射幸性をコントロールする役割も果たしているからです。(参考:パチンコビレッジ『政府答弁、パチンコは刑法 第185条の賭博に該当しないと回答』

 

 

また、なぜこのようなことが可能なのかと言えば、法律には『グランドファーザー条項』という原則があり、パチンコ店は風営法が成立する前から存在していた為に既得権を持っていた(風営法を利用して合法的に賭博をやらせる営業が可能となっている)ということです。(ちなみに現在の風営法の前身となる『風俗営業取締法』が成立したのが1948年)

 

 

雀荘と風営法

雀荘もまた風営法が成立する前から存在していて、パチンコ店と同じ4号営業に分類されています。

 

つまり、風営法において『雀荘の営業で賭博行為が行われるのは最初から織り込み済み』であって、パチンコ店と同様に『遊技の結果に応じた景品の提供』と『風営法の規制による射幸性のコントロール』のような合法的な賭博営業も可能だったかもしれません。(これに関して『雀荘の既得権とは?』で仮説を立ててみたところ、少し違う結論が出ました)

 

ここで話をタイトルに戻すと、雀荘は本当に不当に規制されているのでしょうか?

 

既得権を獲得する為の業界努力を放棄した結果(既得権の前提である風営法を遵守できない、行政との連携や雀荘同士の連携の土台となる雀荘組合への加入率も20%程度)、賭博営業を合法化させられなかったのも自業自得ですし、今さら既得権を主張したところで完全に手遅れです。

 

また、風営法の規制自体は、雀荘から賭博を排除できない現状において至極妥当なものであるとも言えます。

 

結局、「風営法の規制は時代に~」という主張も的外れ(そもそも風営法は現在でも盛んに議論や改正が行われている法律で、規制の内容が時代遅れなのではなく規制を無視した営業が時代遅れ)であり、社会的には「雀荘の違法営業は時代に合わなくなっているから排除すべき」と見られてしまっています。

 

賭博を行わない雀荘と風営法

もし仮に雀荘が風営法を利用した合法的な賭博営業を確立できていたとしたら、賭博営業を行わない雀荘はおそらく5号営業(ゲームセンターなど)に分類されていたはずです。(実際にパチンコ専門のゲームセンターは存在するし、アミューズメントカジノもこれにあたる)

 

4号営業と5号営業では規制自体にそれほど差はありませんが、『18歳未満の立ち入り(原則として18時まで、保護者同伴の場合は22時まで)』や『10%ルール(商業施設の床面積の10%未満での営業あれば風営法の許可が不要、5号営業の例外規定)の適用』などが可能となります。

 

ですが、現実的に全ての雀荘は4号営業に分類されており、『賭博営業を行わない雀荘であっても、それが行われる前提で規制をされている』というのは確かに不当であると言えます。

 

この状況に対しては『賭博営業の有無にかかわらず現行の風営法を遵守する(それを徹底させる為に雀荘組合を統括組織として機能させる)』ことがまず第一であり、その前提の上で『賭博営業の合法的範囲の模索(賭博を排除した雀荘は5号営業への分離を目指す)or賭博営業の全面的な排除(雀荘全体の5号営業への移行、さらには風営法からの離脱も目指す)という究極の選択』を行う必要があると考えられます。

 

しかし、雀荘業界にそれを行えるだけの意識も体力もあるとは思えませんし、このまま(賭博営業を行わない雀荘も道連れに)さらなる衰退を続けていくのは残念ながら仕方がないのかもしれません。

 

(追記1)風営法の無許可営業

一昔前までは『無許可営業の雀荘といえばマンション麻雀』みたいなイメージでしたが、最近では『健康麻雀の無許可営業』が全国的にも問題となっています。

 

健康麻雀にもノーレートフリー・サークル活動・麻雀イベント・麻雀教室など様々な形態がありますが、『麻雀卓を設置して、人に麻雀を打たせる事業を継続的に行い、かつ収益を得ている営業形態』には風営法の許可が必要になります。

 

ただし、会場が雀荘の場合(雀荘が主催、雀荘を借りて開催)は既に風営法の許可を取っているので問題ありませんし、単発的な(6か月に1回以上の頻度で繰り返し開催されない、一日または一晩で終了する)イベントも問題ありませんし、収益を得ていなければそもそも営業ではないので風営法の対象外です。(参考:『参加費ロンダリングは適法なのか?』)

 

そして、麻雀教室については『麻雀を教える』という体裁が整っていれば風営法の許可なしでの営業も可能なのですが、『健康麻雀や麻雀教室の看板を出して無許可で貸し卓やフリーの営業を行う』というケースが警察による指導や摘発の対象となっているようです。

 

 

この件についても「風営法の規制は時代に~」という主張がされていますが、(5号営業への移行を目指すのではなく)風営法の許可なしで雀荘的な営業を望むというのは、雀荘から賭博営業を全面的に排除できていない現状では無理筋であると思います。

 

(追記2)接待行為と風営法

ここで言う接待行為というのは(いわゆる接待麻雀の意味ではなく)『店舗側の人間がお客と一緒に遊技・競技などを行うこと』であり、正確には『歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと』ですが雀荘の営業上で解釈するとそうなります。

 

つまり、従業員や外部委託のゲストが(雀荘の営業として)お客と一緒にプレイすることは風営法で禁じられているということです。(例外として『麻雀を教える』という体裁を整えた上でなら接待行為にはあたらない)

 

これは風俗営業の5号営業であるゲームーセンターも同様の規制が行われていますし、風営法の対象外である麻雀教室・将棋センター・碁会所・ボードゲームカフェなどにおいても同様です。(風営法の対象でも対象外でも接待行為を行うには1号営業の許可が必要になるし、4号・5号営業と1号営業は同時取得が難しい)

 

この件についても「風営法の規制は時代に~」という主張がされていますが、他の業界でも同様の規制が行われている(他の業界は遵守できているが麻雀業界は遵守できていない)という状況において、これを不当な規制だと主張すること自体に無理があるのではないかと思います。

 

(追記3)宣伝広告と風営法

風営法には『風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない』という規定があり、つい先日も雀荘組合に対して宣伝広告に関する指導が行われました。

 

 

また、このような指導が行われた原因として推測されるのが『DORA麻雀の摘発』で、今まで『賭博サイトのサーバが海外でも、日本から賭博に参加すれば違法』だったのが『賭博サイトのサーバが海外でも、日本から賭博へ誘導する宣伝サイトも違法(雀荘的に言えば、直接賭博に携わってなくてもその宣伝をすれば違法)』という警察側の見解の現れであると考えられます。(参考:日本経済新聞『オンラインカジノ運営で7人逮捕 サイト運営側逮捕は初』弁護士JPニュース『「まさか…」オンラインカジノ運営会社が初の摘発 7万人以上の利用会員や広告で“誘導”した人も罪に問われる?』

 

(追記4)風営法の規制緩和

先日公開された近代麻雀ノート『全ての人が安心安全に麻雀を楽しめるように─深夜営業から子どもたちの入店、そしてオンレート合法化の未来は?全国麻雀業組合総連合会 髙橋常幸理事長に聞く』という記事を(有料部分も含めて)読んだのですが、どうやら規制緩和への取り組みは現時点(2024年6月)で具体的な形にはまだなっていないようです。(この高橋氏は以前から規制緩和を匂わせるような発言をSNSなどで繰り返してきたが、情報不足で検証ができていなかった)

 

風営法の規制緩和というのは基本的に『警察による法律の解釈変更』または『国会での法改正』のどちらか(例外的に地方自治体の条例など)ですが、警察側が強く望んでいる『法令遵守だけでなく、業界団体が自ら法令を遵守させる仕組み作り』とは真逆の見解が記事の有料部分から読み取れますし、かといって『署名活動を行ったり、議員を巻き込んで法案を提出する』みたいなことにも一切なっていません。

 

また、求めている規制緩和の中でも『18歳未満の立ち入り』と『景品の提供(実質的な賭博合法化)』は方向性として真逆(この実現には優先順位やロードマップの設定が必須)であるにもかかわらず、業界としてどのような方針で臨むのか(そもそも規制緩和を望んでいるのか?)のコンセンサスすら得られていないという実情まで読み取れます。

 

それから麻雀新聞『全国麻雀業組合総連合会「令和5年度第2回常任理事会」「営業環境適正化委員会」「風営法適用外施設についての意見交換」開催』という記事に『風俗営業の許可が不要な麻雀施設のガイドライン』の記述がありますが、これは従来の風営法の許可が不要な麻雀教室の基準(より若干厳しいもの)であって規制緩和では当然ありません。

 

つまり、警察側としては『自らガイドラインを定めて、自らそれを守らせる仕組みを作りなさい(規制緩和についてはその運用状況を見て判断する)』という思惑のはずですが、このままではガイドライン自体が規制緩和の成果として発表されるだけで終わる(基準として機能させられず、その先の規制緩和にもつながらない)ことが目に見えています。