テンピンは合法なのか? | 無気力無関心(仮)

テンピンは合法なのか?

先日、東京高検の黒川弘務検事長が新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中にもかかわらず新聞記者らと麻雀賭博をやっていたという不祥事が発覚しました。(参考:朝日新聞デジタル『黒川検事長、緊急事態宣言中にマージャン 週刊誌報道』

 

この件について今でも様々な意見が交わされていますが、僕としては(感情論や政治思想を抜きにして)麻雀と刑法賭博罪の関係について考察してみたいと思います。

 

※麻雀と風営法の関係について書いた『雀荘は不当に規制されているのか?』『雀荘の既得権とは?』もセットで読んでいただければと思います。

 

テンピンは合法という都市伝説

その後、法務省により黒川氏が参加した麻雀は『1000点100円のいわゆるテンピンのレート』であり、その行為に対して『もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない』という答弁がありました。(参考:時事ドットコムニュース『刑事局長、賭けレート「高額とは言えず」 黒川検事長のマージャン』

 

この答弁を元に『テンピンは合法』という噂が流れ、麻雀賭博の予告イベントなども行われました。(参考:Togetter『麻雀大会 #黒川杯 の模様』

 

(画像はイベント主催者のTwitterより)

 

しかし、黒川氏が参加した麻雀に対して、法務省が『違法ではない』という答弁をした事実はどこにも存在しません。(賭博であり違法だが、公務員としての処分の量定における評価として答弁されただけ)

 

ただし、人事院の指針において、『賭博をした職員は、減給又は戒告とする』『常習として賭博をした職員は、停職とする』という基準が存在するにもかかわらず、それ(戒告・停職)よりも軽い訓告で済ませたのは(既に辞表を提出していたとはいえ)議論の余地があると思います。(参考:人事院『懲戒処分の指針について』

 

また、刑事責任については弁護士グループにより既に刑事告発が行われていますが、その結果が不起訴(単純賭博で起訴されることは稀)だったとしても違法ではないという根拠にはなりません。(参考:朝日新聞デジタル『賭けマージャン、黒川氏を告発 朝日新聞社員ら3人も』)(参考:西日本新聞『市民団体「納得いかぬ」 賭けマージャン 不起訴処分に憤り 福岡県』


つまり、元々麻雀界隈にあった『テンピンは合法』という都市伝説(デマ)を真に受けた人間が先走って騒いだだけで、『賭博行為の合法・違法の判断において、やり取りする金額の多寡は関係ない(レートを基準としたアウト・セーフという概念は法律的に存在しない)』ということです。

 

何が違法で何が合法なのか

それでは、賭博行為(特に単純賭博)の合法・違法についてざっくりと挙げてみます。(参考:Wikipedia『賭博及び富くじに関する罪』

 

賭博をした者は50万円以下の罰金又は科料に処せられる(賭博行為は原則として違法となる)

賭博とは偶然の勝敗により財物の得喪を争う行為のことである(当事者の双方が危険を負担して財産的価値のあるものを賭けること)
当事者の片方のみが危険を負担する場合は賭博とならない(スポンサーから提供された賞金や賞品、パーティでの無料ビンゴ大会など)
財物でないものを賭けた場合は賭博とならない(記念品のトロフィー、全国大会への出場権など)
財物の授受が行われる前でも賭博行為が開始された時点で賭博となる(結果として負けた場合でも賭博として成立する)
法律によって違法性を阻却された賭博は違法とならない(公営競技、公営くじ、先物取引、保険契約など)
一時の娯楽に供する物を賭けた場合は違法とならない(食事代金、プレイ料金など、パチンコの遊技もここに含まれる)
金銭そのものを賭けた場合は一時の娯楽に供する物にあたらない(やり取りする金額の多寡は関係ない)
海外で行われている賭博でも国内で参加すれば違法となる(海外サーバのオンラインカジノなど)

 

大まかな基準としてはこんな感じですが、ポイントとしては『賭博行為は原則として違法である(ただし、賭博にならない行為や賭博でも違法にならない行為が存在する)』『逮捕されていない(逮捕されても起訴されていない)ことが違法ではない根拠になる訳ではない』となります。

 

この騒動の結果

これまで麻雀賭博が問題になるのは雀荘(賭博開帳図利や風営法違反)がほとんどでしたが、今回は個人宅での麻雀(単純賭博)が問題となりました。(かなりの異例だが、当事者の社会的立場に比例して扱いも大きくなる傾向にある)

 

そして、刑事責任としては(違法ではあるものの)起訴されることはないと思うのですが、社会的責任としては検事長辞任とそれに伴う退職金の減額もありました。(新聞記者らも懲戒処分を受けた)

 

また、世論的には「麻雀は賭けてやるんだよな」「やっぱり賭博は良くないな」くらいの認識にしかならず、麻雀業界としては風当たりが強くなっただけで何の得もない騒動でした。(政権にも大きなダメージとなった)

 

最後に僕の結論としては、『麻雀賭博の社会的責任がクローズアップされただけで、これを麻雀賭博合法化の足掛かりにすることは難しい(足掛かりにする具体的な方法が見当たらないし、うかつに突っついたところで規制厳格化につながるだけ)』という感じでしょうか。

 

(追記1)騒動の続報

朝日新聞デジタル『黒川元検事長を略式起訴 東京地検、起訴相当の議決受け』

 

僕個人としては「単純賭博で起訴されるのはずいぶん厳しい」というのが率直な感想ですが、『不起訴≠無罪』なので起訴されるケースもあるというのも理解できます。(検事長というそれが最も許されない立場だったということでしょうか)

 

(追記2)参加費の一部が賞品に充てられている大会

『パーティの参加費の一部が賞品に充てられているビンゴ大会』というのもよくありますが、(参加費無料ならもちろん合法ですが)これはどうなるでしょうか?
 
この場合、そのパーティにおけるビンゴ大会の位置付け(メインなのか?サブなのか?)によって『当事者の片方のみが危険を負担する』が成立するかどうか決まってきますので、あくまでパーティがメインでビンゴ大会はサブの位置付けであれば賭博とはなりません。
 
しかし、(競技麻雀や健康麻雀などでも行われている)参加費の一部を賞金・賞品に充てた麻雀大会のような場合、麻雀がメインの位置付けなので『当事者の片方のみが危険を負担する』は成立しませんので賭博となります。
 

(追記3)サーバが海外にある賭博サイト

 
オンラインカジノなどで「サーバが海外なので合法」という宣伝を目にすることもあると思いますが、警察側からは『賭博サイトのサーバが海外でも、日本から賭博に参加すれば違法』という見解が既に出されていますし、さらに今回の摘発では『賭博サイトのサーバが海外でも、日本から賭博へ誘導する宣伝サイトも違法(つまり、直接賭博に携わってなくてもその宣伝をすれば違法)』という見解も示されました。(参考:『オンラインカジノ運営で7人逮捕 サイト運営側逮捕は初』)
 

 
ちなみに、賭博の摘発は証拠を押さえる為に現行犯がほとんどなのですが、ネットで賭博をやると証拠が全部記録に残ってしまう為に現行犯である必要がないという特徴もあります。
 
また、賭博行為の様子を自らSNSや動画にアップして摘発されるケースもあります。(参考:『オンラインカジノを実況配信、常習賭博容疑でユーチューバーを逮捕』)